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私の心臓(ハート)はスライムビート  作者: お花畑ラブ子
剣闘士の町マスルリア
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7

 闘技場の地下設備に向かう最中気になったのは、このお爺さん何者なんだ。

「さて、どうだったかな?」

「さすが、剣闘士の町でした。どの方もお強かった。震える大胸筋!うなる三角筋!」

 ララさんが珍しく興奮していた。

「大迫力でした!あと、機械都市の闘士と話をしてみたかったです。あの仕組みが気になりました」

 いままで自分も村から出たことがないため大陸中のさまざまな都市の衣装に感心していた。

「マズルさん。つ、強かった。かっこよかった」

 フィーネも興奮していた。たしかにマズルは強かった。相手がベテランの剣闘士じゃなかったら、腕の一振りで全てが終わっていただろう。大陸だ、かっこいいと話すフィーネに少しともやっとしたきもちになった。

「ふむ。ジュニアも強くなったものよ。マズルのやつはよく言っていた。この町は剣闘士の町、活気があり、夢があり、交流があり、華があるとね。楽しんでもらえてなによりだ」

 思い思いの感想を伝えるとおじいさんは満足そうにうなずいた。

「マズル、さんをたおすのが、なんで俺たち3人なんですか。剣闘士さんたちのほうが良いのでは?」

「可能性は少しでも上げておきたいのだよ。今までいろんな剣闘士に依頼してきたが、結果は芳しくなかった。最近ではわしの顔を見るだけで逃げ出す始末。情けない。君たちがマズルを探してると聞いたときはハッとしたものさ」

 なるほど。だから、声を掛けてきたのか。

「まず、片腕のお嬢さん。君が1番可能性が高い。だから、期待しておる。君には義肢をプレゼントしよう」

「そんな、高価なものいただく訳には」

 ララさんやフィーネの反応をみて、かなり高価なものなのだろう。ほら、フィーネなんか、金額に恐れおののいてめっちゃ縦揺れしてる。

「オーダーメイドでちゃんと身体に合ったものを

 用意しよう。彼女について行きたまえ。そう、入口にいるメイドにだ。職人のもとに連れて行ってもらえる」

 ララさんはあれよあれよと連れていかれた。そして俺たちは一室に通された。道場より一回り小さい場所で、小型の練習用のリングもある。

「らら殿は彼女は戦いの基礎はできている。おそらく元騎士と言ったところかな。歩き方や剣の持ち方が、王国騎士団のそれと酷似している。下手に教えて鍛える必要はなかろう。ところで、フィーネ殿とアルフォンス殿はなんの為に強くなりたいのかな」

「おれは、守りたい人がいる、ってフィー!お前もか」

 スライムを撫でながらフィーネはうなづいた。

「そんな、危ないことさせるわけには」

 俺はフィーを守るために強くなろうってのに。

「わ、私が決めたの。私を守るために、皆が強くなろうとしてるなら、私も強くありたい」

「ば、バカ言うなよ!銃を多少扱えるようになったって、お前自身が強くなったわけじゃねーんだぞ。山にいた時みたいにおれがいつもとなりにいるわけじゃないだぜ」

 刀鍛冶の里だからこそ、銃の有利さも不利さも教えられてきた。普通の人間には脅威だが、達人には効かない。攻撃距離や殺傷力はあるが、弾数の制限や直線的な攻撃しかできない弱みがある。武器を過信してはならない。

「じゃ、じゃあ、アルよりも強くなるから!アルこそ、私がいつも世話を焼いてきたんだから。魔力もあるより断然多いし」

「待てよ!それは俺のセリフだぜ、フィー。ったく。おじいさん。おれはフィーネを守れるくらい強くなりたい。絶対フィーネには勝つ」

 お互いをギリギリ見つめる。2人の様子をにこにことおじいさんはみていた。

「よし、まずは模擬戦をしてもらおうか。アルフォンス殿とフィーネ殿で。リングに上がりなさい」

 おれはしぶしぶ、フィーネはウキウキとリングにのぼった。

「よし、スタートだ」

「はぁ?」

「う、うん」

 銃口がこっちをむく。

 チャキ バキュン

 俺の頭の横を弾が掠め、背後の壁に穴があいた。

 心臓が猛烈な速さで脈をうつ。

「え?」「え?」

 呆気に取られるおれとおじいさん。次弾を装填するフィーネ。

 バキュン

「ふわっ」

「も、模擬戦だよ!フィーネ殿!実弾使ってはダメだ。こういったゴム弾つかわないと!」

「え?あ、そうなの!えっと、ごめん、アル」

「……ははっ。俺今日死ぬかもな」

 勘違いで死んだらマジで笑えねーよ。

「よし、こいよ。フィーネ森での喧嘩はおれのほうが強かっただろ」

「な、舐めないで。わたしは師匠から銃の使い方を学んだから」

 銃を構えるフィーネ。ララさんがやっていたようにジグザグに動きながら近づこうとする。

「いた、いたたた!いた!な、なんで、ララさんは当たらなかったのに」

「遅過ぎるし、動きが読みやすい」

 次々に弾丸を撃ち込まれていく。

「いて、いてて!くそ!銃さえなければ」

「それは違うぞ少年。彼女は準備し、備えていた。だから強い。」

「フィーネのくせに!なめんなよ」

 こちらも炎弾を出して応戦しようとする。

 だが、ズキンと胸が激しくいたむ。

「あぐ、」


 目の前が黒くなり、頭に声が響く。

 姫を傷つけることは許さぬ。

 貴様を殺すのはたやすいが

 姫が悲しむ。

 なんと、恨めしいことか


 指先の魔力が消え、頭の声も消えた。気がつくと心配そうな顔をしたフィーがいた。

「アル!大丈夫?」

「なんだよ。いまの」

 胸を抑える。

「その2種類の魔力、なんと珍しい、君は魔物憑きか」

「はぁ、はぁ、はぁ、魔物憑き?」

「魔物がついている人間のことさ。なるほどだから、この町にお父上は送り出したのか。」

「?」

「この闘技場には、何人かそういう人もいるのだよ」

「わたしもそういった1人でね。」

 杖を立て掛け、彼は椅子にすわり、ずぼんの裾をまくりあげた。そこには人間ではない生き物の足があった。かれの足には鱗があった。

「先天的でも、後天的でも、多くの人間はこういった事象を嫌う。流れ流れてここにたどり着くものも少なくない。この街は力さえ示せば、町で暮らすこともできるからね。義肢の者が多いのは、剣闘士だったり、魔物つきだったり、事情があるのだよ。だから、この街には、技師の腕は良いし、君たちが驚くような値段では実はないのだよ」

 そういうことなら、と、おじいさんは立ち上がった。

「かつて、マズルは言っていた。生まれや育ちは、変わらない。得るものも多いに違う。だが変わろうとしない者には変化は訪れないとね。」


「お嬢ちゃんは魔法弾の習得と魔力の量の制御を頑張りなさい。腕利きを紹介しよう。少年は剣闘士たちと一緒に模擬戦を続けなさい。ここには、剣闘士見習いの狼が100人ほどいる。日々模擬戦を繰り返している。君と同じく魔物憑きも何人もいるはずだ」


「やってやるさ」

「は、はい」


「その意気やよし。1週間後、コロシアムが開かれる。オーナーからの伝令で、此度は熊の位以上なら、誰でも参加可能なバトルロワイヤルとなった。なら、簡単だ。1週間で熊位を手に入れなさい。実践に勝る経験は無い。自分の武器を探しなさい。」


 扉の向こうにいたのは、若き剣闘士たち。

「済まなかったねみんな。となりの部屋を借りて。話はすんだ。新入りを呼んだ。アルフォンス君だ。どうぞよろしく」

 一瞬こちらを向いたが、皆それぞれの鍛錬をつづける。

「現状はアルフォンス殿。君は相手にされてない。実力をしめしなさい。フィーネ殿はこちらに」

 扉が閉まる音がした。

「おっし!やるか!!」



 街を歩くララとメイド。2人は義肢の店へ向かっていた。ララよりも年上20代後半くらいだろうか。凛とした表情の美人だった。

「ほんとによろしいのでしょうか」

「旦那様のご厚意を無下にする気ですか」

「いえ、滅相もない」

「あの方は、気まぐれですから。あぁ、そうだ。ララ様。ご当主さまはお元気ですか」

「?」

 彼女の問いかけに疑問を浮かべる。

「ナルシ家の御当主様ですよ」

 メイドは笑顔でいった。

「なんで、私がナルシ家の者だと」

 冷や汗が流れる、警戒しながら聞く。ナルシ家の手のものがもう。

「ふふふ。あなたは町娘の衣装をきていますが、動きは騎士そのものです。ここは戦う者が多いから目立ちませんが、ふつうにバレてしまいますよ。あとは、あなたの首筋にある緑色の小さな数字のタトゥー。髪で隠すか、魔法で見えなくするのをおすすめします。」

「首筋のタトゥー?」

 はっと、手を首に回す。気にしたことなどなかった。特に騎士団入りしたあとは。

「あら、気づいてなさらなかったのですね。私は17番あなたは22番。魔法で刻印されてるため、術師が死なない限り、消えません。誤解されないで、わたしもあなたと同様、ナルシの呪縛から逃れた1人なんですよ。わたしのかつての名前はミミ=ナルシ。この名前は今は捨ててるため、ミーナとおよびくださいませ。ララ様」

「ララでかまいません。同じ境遇なら、遠慮はいりません」

「色々とお話ししましょう。ナルシ家のこと、義肢のこと、戦いのこと」


スター選手には、それぞれ個室が与えられる。その一室は、さまざまなトレーニング器具。専属のトレーナーがついている。また、入り口付近にいる。メイドに声をかければ大抵のことは叶えられる。

「よぅ、ジュニア!どうだ。その後は」

老人はアルフォンスとわかれた後、フィーネを連れてこの部屋を訪ねていた。それから、しばらく経って様子を見にきたのだ。

「いいね☆キミ!最高だねっ☆あんたが、女の子を連れてきた時は、ついにモーロクしたのかと覚悟したもん、さ⭐︎」

「はぁ、はぁ、マズルさん、もう一本よろしく、お願いします」

 フィーネがマズルの向こうがわにいた。小一時間この場にいるが、こちらはぼろぼろ、あちらは無傷。服の汚れすらない。銃撃はかわされ、あっという間に投げられる。

「マズルさん流トレーニング法、だ☆親父は挑戦者は誰でも受け入れたから、ね☆」

 フィーネは、マズルに近づいてくる媚びてくるような女ではなかった。倒すためにここにいる。それが久々にワクワクした。気弱そうな子だ。目の奥に炎を感じる。

「あ、あなたに一発当てて、熊の証を、」

「わかった。だが、僕にもルーティンがある。チャンスは一日二回泣き言弱音は叩き出す。僕の組手に君もまじれ☆魔弾に詳しいやつをさっき見つけて呼んでおいた。僕って優しい、ね☆」

 口調は軽いが眼は笑っていない。

「彼女が来るまで君は立っていられるかな☆」

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