剣闘士の町マスルリア4
力試しのあと、簡単な書類を書いて待つ。王都で事件があり、流通がストップしているらしく、歓迎された。ララさんは旅に慣れているようで手続きがスムーズだった。途中、魔物に出くわさなかったのは、この町の住人が強すぎるかららしく、狩り尽くしているようで、魔物の素材は高値で取引されるらしい。俺たちのスライムでさえかなり珍しいらしく、門番が買わせてくれないかと頼んできた。フィーネにとっては家族同然だから、もちろんお断りした。しばらく経ち門が開く。
門番たちが困り顔をしている。見物人たちも遠巻きに見ていた。
原因はうちの仲間だ。
「やだやだやだやだやだやだ!フィーネといる!こいつを私好みに鍛えあげるぅぅ!!」
「師匠!師匠おおおお!」
町の入り口で繰り広げられているこの光景。ここで冒険者の三人とはお別れだ。短い間だったが、楽しかった。ポンさんかなりクールな印象だったんだがな。
「ほらほらフィーネ。俺たちは大事な役目があるだろ」
「姐さんもギルドに報告しにいくんでしょ」
「フィーネぇええ!!」
「師匠ぅうう!!」
抱き合う二人を何とか引き剥がし、手形を発行してもらい、町の中に入った。手形には、動物があしらっており、竜、獅子、熊、狼、犬と序列がある。上のクラスは装飾が鮮やかになっていく。竜は10席と決められており、この町の公共の施設は無料、他の店もただ同然の値段で利用できる。獅子の証でもかなり優遇されるそうだ。皆見える位置に着用することが義務付けられている。大抵は首からさげており、若者たちは腕に巻いたり、頭に巻いたり、ファッションの一部になっている。
白い石造りの街並み。様々な種族が行き交う大通り。活気のある人々の声。村にいた俺には目に飛び込んでくるもの全てが新鮮だった。
街の中央にはコロシアムなる円形の建物があり、時折大地を揺らすような歓声が聞こえてくる。またそこの剣闘士のような筋肉質の戦士たちも多く見られた。肉や魚を豪快に盛った料理があちらこちらに見られた。
「なぁ、あれはなんだ?」
「ぐす、ぐすん、ね、ねぇあれはなに?」
フィーネも泣きながらも興味がひかれて質問づくめだ。
宿を決めるまでに何度この質問をしたか。
はじめのうちは律儀に答えていたララさんも最終的には
「…2人とも宿に着くまで質問禁止でお願いします。」
ちょっと疲れていた。
宿に着いてララさんが手形を見せるとかなりいい部屋に通された。もちろん積荷なども、盗難防止の魔法をしっかりかけていた。普通の安宿ではありえない対応だ。
おい店主。俺が狼の手形出した時は、軽い対応だったのに、ララさんにはめっちゃ揉み手しながら下手に出てるのはどうしてだよ。
後からララさんに聞いた話だと。ランクの高い手形の客をとると、店の価値もあがるらしい。
「マズルさん探しは明日にしましょう」
「そうですね」
天井を見上げる。まさか自分が村の外に来て、こんな大きな町にいるなんて信じられなかった。
「マズルさんってどんな方なんですか?」
「えっと親父は…うまく説明できないからって紙に書いたって…」
親父からもらった手紙を広げる。
かなり大きな手紙だ。墨を使って
マズル
剣闘士
弱い
熊の証
余白たっぷりに大きく書かれていた。
「少ないわっ!!紙の無駄じゃねーか!!」
「は、はは、これは、骨が折れそうですね。でも熊の証なら、そこまで強い方ではないのでしょうか?」
「明日は剣闘士を探せばいいのかな。ねぇ、スライムくん」
役に立たない紙を暖炉に放り込み、みんなで寝る支度をした。
フィーネやララさんは寝る前に武器の手入れを行っていた。
分解した銃にスライムをはわせてフィーネが言った。なんでも、ポンさんが譲ってくれたのだと。ジャンさんもケンも驚きのあまり、口をぱくぱくしていたようだった。スライムは銃の汚れなども食べてくれるらしく。手入れに余念がない。初めのうちは二人の相性はいいとは思わなかったが、よき姉貴分ができたようだった。
ベッドに寝っ転がると手を伸ばして、自分の手甲を見つめる。ゴーレムを貫くことはできたが、評価は下から二番目。おれには足りてない要素がたくさんある。ポンさんやフィーネの影響で銃のような使い方をしたけど、あまりしっくりこなかった。
指先から炎と水の玉を出す。元の持ち主はどんな使い方をしたんだろうか。
みんなが寝静まったあと、紙が暖炉の熱であたためられ、温度が高くなる。すると、特殊なインクで書かれた文字が浮かび上がる。
「アルフォンスへ マズルについて伝えておく。俺たちの中で唯一竜の証を与えられた剣闘士だ。奴に弟子入りしろとは言ったが、かなりの戦闘狂でな、弱いと思われたらたたっ斬られるぞ。必ず熊の証をもらってから行け。でなければ死ぬぞ」
紙は静かに灰となった。