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第八章(2) 馬車

 聖地グリアエに向かう途上で、アルベリクの乗る馬車は、大きな群衆の中に飛び込んだ。


 祭りだった。南方の諸侯連合領での戦で戦功を上げた、第二皇子の戦勝記念式典が執り行われているらしい。


 ──第二王子。先日の品評会の最後、ラウルと名乗ったあの男のことである。


 諸侯連合は南方の異教徒軍からの領土奪還のため、皇国軍の助力を要請していた。これに対し、泰皇は軍略の才ある第二皇子を派遣することで求めに応えた。第二皇子は、慣れぬ異国の地で八面六臂の大活躍を見せ、異教徒軍からの領地奪還に大きく貢献したという。


 皇国としては、(てい)よく隣国の諸侯連合に恩を売ったことになる。これが、後々の半島情勢に大きな影響を及ぼすことになるのだが、現時点でその事態を予期できている人間はごく僅かだった。


 繁華街の大広場も、多くの人でごった返していた。広場の中央には壇が設けられ、その上に幾人かの人物の姿が見える。その中にいる、ひときわ絢爛な装いの人物が、第二皇子であろうと思われた。しかし、馬車の中から遠巻きに見るアルベリクには、その表情を窺い知ることはできなかった。


 むしろ、より印象的だったのは、広場の周囲で巻き起こっているシュプレヒコールの方だった。


 ──同化政策反対!

 ──グリアエ王国の復古を!

 ──皇国に真の栄光を!


 このガロア皇国という国は、隣国であるパヴァリア・ベツレヘム神聖王国の傀儡国家である。前代のグリアエ王朝が打倒された後、パヴァリアの国教であるベツレヘム教が皇国の建国に大きく関与した。その影響は、今でもこの国に色濃く残っている。


 第二皇子は、この状況を良しとしていなかった。故に彼は、皇国の真の独立を望む『皇国派』と呼ばれるグループを立ち上げ、一時期はその首魁も務めていたという。


 皇国派に対する大衆の人気は、留まるところを知らなかった。戦勝記念式典がこれほどの活況なのも、こうした背景があるからこそなのだろう。


 パヴァリア派と皇国派──。立身出世を目指すにあたり、どちらに(くみ)するのが得策か。今のアルベリクの立場では、判断が付きかねるところだった。


 ──当面はどちらにも良い顔をしておくのが無難といったところか。だが、いずれは天秤にかけて身の振り方を考えねばならんのだろうな。


 熱狂する群衆を窓越しに眺めつつ、アルベリクはそのようなことをつらつらと考えていた。

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