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エピローグ①

 愛知県警の所轄の取調室を借り、的場は主犯とされる白木場の前に座った。今頃は別の捜査員や鑑識が彼の部屋を家宅捜索しており、そこから様々な証拠が出て来るだろう。

 予定では任意聴取の間に逮捕状を取るつもりだったが、辻畑のおかげで罪を認めさせ緊急逮捕出来た。よって身柄を拘束した本格的な取り調べが可能となったのだ。

 別室では同じく逮捕された辻畑や、並木の聴取が行われている。彼らの供述と数々の証拠を照らし合わせながら、一つ一つ事件の真相を明らかにしなければならない。

 現在一連の事件について捜査本部が把握しているだけで、十数件の案件がある。それ以外にも隠れた事案が相当数あるはずだ。それらの全てで実行犯や依頼主、情報提供者達を特定して逮捕、立件するにはかなりの労力と時間がかかるだろう。

 それでもやらなければならない。前代未聞のシリアルキラーを目の前に、的場は気合を入れ直して彼の目を見つめた。聞きたい件は山程あるが、まず逮捕した案件を固める為に辻畑の件から尋ねた。

「五年前、並木に指示し辻畑の母親を殺すよう指示したのは間違いないな」

「そんな昔の話、よく覚えていない」

「惚けても無駄だ」

 横に立つ所轄刑事に目で合図すると、彼は白木場の部屋でのやり取りを録音したボイスレコーダーを取り出して机に置き、音声を再生し始めた。辻畑の母親が死亡した事故についての会話が流れる。その部分が終わった所で停止ボタンを押して質問した。

「これで思い出したか。お前は辻畑の母親を殺す時間を指示した。しかし実行犯として選ばれた並木は、自分の判断で別の日の別の時間帯を選び、事故に見せかけ殺した」

 彼は開き直ったのか、言い訳をし始めた。

「指示は並木から嘘の情報に騙されたからだ。ここでも言っているだろう。母親と和解していたなら対象外だったと。並木が私を利用し辻畑を仲間に引き入れる為に殺した。よって私の共同正犯は成立しない」

「まだそんな言い逃れをするつもりか。お前の部屋のパソコンを分析すれば、これまで起こした事件のやりとりや関係者の情報が出てくるはずだ。その度にいちいち否定するのか。無駄な抵抗は止めろ。拘束時間が長くなるだけで、何の得にもならないぞ」

 ある程度覚悟していたはずだが、いざ取り調べが始まると怖くなったのかもしれない。彼は俯いて沈黙し始めた。

「何だ。今度は黙秘か。辻畑の母親や並木の祖母の殺害を、闇サイト運営者として指示しただけじゃない。吾妻瞳と猪川理恵については直接手を下したのだろう。それに少なくとも闇サイトを運営し、最初に関わった事件はお前が実行犯としか考えられない。それは栗山の息子を階段から突き落とした件か。それとも別件か」

 大阪の事件では、目撃者の証言から学生くらいの若い男と見られていたが、フードを被り暗くて良く分からなかった事や姿が防犯カメラでは捉えられていない。そうなると年齢の割には体格のいい白木場を、若い男と見誤った可能性もある。その点を追及したが彼は黙ったままだった。だが僅かにピクリと肩を震わせた気配から的を射た感触を持った。

「まあいい。いずれそれもパソコン等を分析すれば明らかになる。それとも栗山自身が神奈川で実行犯として死亡したから、過去の件も含め必要ないと情報を消去したか」

 何も答えなかったが、安堵している様子が見られなかった為、残っているようだと期待する。だが分析結果を待たずとも聞くことはまだあった。

「では別の話をしよう。まずは吾妻瞳の件だ。お前に指示され遺体を山中に埋めた辻畑が全て自供した。最初の事件は別にして、吾妻瞳を他の実行犯に任せず自らの手を汚したのは何故だ。そういえば闇サイトでは殺人を引き受ける選考基準があるようだな。辻畑の推論を当て嵌めれば彼女がその基準から逸脱し、さらに娘が再度殺人依頼をしてきたから罰を与えた。そういうことか」

 そのまま黙秘するかと思ったが、意外にも彼は口を開いた。

「そうだ。本来、娘を虐待していた男と一緒に殺されるべき女だった。しかし娘が消えて欲しいと願ったのは男だけだったから、止む無く生かしておいた。そんな娘の気持ちも知らないで、あの女は娘から一千万を取り上げさらに虐待を続けた。それが許せなかった。そうした情報が入った時、娘から殺人依頼が無くても殺すつもりで計画を立てていたんだ」

「それで殺人依頼されたが他の実行犯に任せず、危険を犯してまで自ら手を下したのか」

「そうだ。両親がいなくなれば養護施設に入れられる。だがいずれは施設を出なくてはならない。一人だけならまだしも彼女を含め三人だ。その後の生活や将来を考えると、金が間違いなく必要になる。だからもう一千万円、あの姉弟に渡したいと考えたんだ」

「つまりあの一千万円は、お前の懐から出た金なんだな」

「あれだけじゃない。これまで何度も金を用意してきた」

「最初に一千万円を出し、受け取った人物が次の依頼主に渡すだけでは足りなかったのか」

「当然だ。全員がすぐ実行犯になる訳じゃない。殺人依頼の書き込みは次々と出てくる。その中には少しでも早く助けなければ、殺されてしまう恐れがあった人達もいたからな」

「一体どれくらいつぎ込んだ。自分の金だけでは足りなかったんじゃないのか」

 辻畑から情報提供されていた為、白木場の経済事情はある程度把握していた。裕福だったが、保有資産はせいぜい一億を超える程度だ。そこから捻出したとしてもそう多くは出せないだろう。よって並木のような資産家を取り込み脅し取ったのではないかと睨んでいた。

 実際並木は一億払うと申し出ている。それを拒否したのは情報提供者として使った方が有益だと考えたのかもしれないが、それだけではないはずだ。

 彼は実行犯にもなっている。つまり金を受け取った上でさらに情報提供させたとしてもおかしくなかった。となれば五年前の時点では十分な資金を得ていた可能性がある。 

 だから必要なかったのかもしれない。その点を追求したかったが、彼は首を振っただけで答えなかった。だが例え黙秘しても、家宅捜索を含めた捜査で彼の隠し財産を調べれば、誰からいくら出させ蓄えていたか等、いずれ分かるだろう。よって質問を変えた。

「まあいずれにしても吾妻瞳の殺害を認めたんだ。その話をしよう。彼女を許せなかったお前は通勤途中に狙い声をかけ、車に連れ込み拉致して首を絞め殺した。間違いないか」

「ああ」

「だったら聞くが、遺体を埋める作業を自分でしなかったのは何故だ。しかも辻畑にさせた。その理由を教えてくれ」

「日々体は鍛えているから、この年でも女一人ぐらい殺すのはそう難しくない。だが刑事のあんたなら知っているだろうが、死体は想像以上に重い。しかも埋めるとなれば重労働だ。そこまで汗水たらす価値などあの女にはない」

「だから人にやらせたのか。だったら川かどこかへ捨てても良かったんじゃないのか」

「それも考えたが、すぐ遺体が見つかってはどこで俺の犯行だとばれるか分からない。多少の時間稼ぎはしたかった。また埋める作業を他の奴にやらせればアリバイ作りもできる」

「なるほど。普通の殺人なら、実行犯と死体遺棄した人物が別々だとは思わないだろう。複数犯の説が浮かべば、それはそれで疑われ難くなると思ったのか」

「そうだ。それにあの家の情報は辻畑から得ていた。奴が警察を辞めた後も、記者として一連の事件を追い続けていたのは知っている。邪魔だったが、しばらくは放っておこうと思っていた。処分するのはいつでもできる。そう考えていたが甘かったようだ。相棒だった並木にすら隠し、あんたと組んでいたのは想定外だったよ」

「退職後、辻畑は並木と連絡を取りながら取材を進めていたからな。奴の監視は問題ないと油断してくれたおかげで助かった」

「まんまと罠にかかったよ。しかも既に主犯が私だと目を付けていたとはな。もっと早く処分しておけばよかった」

「処分どころか、吾妻瞳の周辺を探っていた辻畑を利用したのも間違いだったな」

「ああ。五年もこっちからの接触を待ち続け、私に近づく為に逮捕される覚悟だったと今日初めて知った。情報提供ぐらいは応じると思っていたし、その通りに動いていたから騙されたよ。もっと利用できると欲を掻いたのが間違いだった」

 かつて捜査三課にいた彼は、窃盗の手法等を自ら学ぶ手口捜査で実績を上げていた。その際学んだピッキングのノウハウを使い吾妻家に忍び込み盗聴まで行い、詳細な情報を彼に提供していたからだろう。罪を犯した以上、裏切ることはないと油断したに違いない。

「死体遺棄に利用したのも、いきなり実行犯をさせるよりは引き受け易いと思ったのか」

「そうだ」

「猪川理恵を刺殺したのも、吾妻瞳と同じく闇サイトの理念から外れた人物だったからか」

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