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第七章~並木⑩

 白木場は眉間に皺を寄せ、思い出すような表情をしながら並木の顔を見た。もう五年余り前の案件だ。あれからも多くの事件に関わった為に記憶が定かでないのは止むを得ない。 

 しかし並木が実行犯となった唯一の案件の為、自身は当然しっかりと覚えている。よって顔から汗が噴き出し、頬を伝わった。

 見つめ合う二人の様子を見て、辻畑は怪訝な顔をしていたがようやく気付いたらしい。

「もしかして並木が勝手にやったのか」

 思わず首を横に振った。

「勝手に殺す訳がない。あくまで闇サイト側の指示だった。そうしなければ妻の罪を公にすると脅されたんだ」

「いや、思い出した。こいつは指示した日と違う時に事故を起こしたんだ。何故か尋ねると、捕まる恐れがあり止むを得なかったと説明されたよ」

 愚かにも白木場が内情を話した為、目を見開いた辻畑が怒鳴った。

「なんだと。じゃあやはり言った通りじゃないか。並木が白木場の指示に従わず、勝手に判断し母を殺したんだな」

「な、何を言う。あの時、母親と和解していたなど言ってなかっただろう。だから囮捜査と口にしながら、本当は殺して欲しいはずだと俺は信じ込んでいた」

 彼は一瞬言葉に詰まっていたが、さすがに騙されてはくれなかった。

「確かに母と和解した件は話していない。だが闇サイト側から指示があった時、実行犯を掴まえる為に待ち伏せするはずだった。それなのに別の外出日を狙われた。あの時に疑問を感じ、ドアノブに一千万円が掛けられた時間帯についても調べた。それで実行犯はお前しか有り得ないと睨んだ」

 だから並木には詳細を伏せ、的場や警視庁にだけ打ち明けたのだろう。あれから自分がずっと彼らから疑われ、監視され続けていたのだと知り、改めて体が震えた。

 並木が口を閉ざした為、辻畑は改めて白木場に対し尋ねた。

「これでも私の自己責任だと言うのか。お前の闇サイトで殺人を実行する条件と言うのは、これ程曖昧なものなのか。いい加減な理想を掲げて偉そうなことを言うんじゃねえ」

「冗談じゃない。もしあんたの言うように母親と和解していた件や、寸前に気が変わっていたなら対象外になっていた。こいつがお前を仲間に引きずり込もうと、勝手に判断しただけだ。同じ刑事で境遇の似た同士がいれば、少しは罪の意識が軽くなると浅はかな考えからやったのだろう」

 ここで的場が口を挟んだ。

「さっきから急に口が軽くなったようだな、白木場。気付いていないのなら教えてやろう。今お前は、辻畑の母親の殺害を並木に指示したと認めたんだ。つまり自分が闇サイト運営者だと自白したことになる。今更否定しても遅い。やり取りはここに居る刑事が全員聞き、録音もされている。無許可とはいえこれだけの証人がいるんだ。裁判でも十分通用する証拠になるだろう」

 辻畑の誘導尋問に嵌ったとようやく理解したらしい。彼は舌打ちをした。といってもこれまでの彼の態度からして、部屋を家宅捜査すれば逃げられない証拠の数々は発見されるはずだ。その為今頃否定しても無駄だと分かったのか、彼は開き直った。

「だったらなんだ。こいつの母親の件は俺が直接手を下したわけじゃない。しかもこの馬鹿な刑事が勝手にやっただけだ」

 その言い草に並木は頭に血がのぼった。

「ふざけるな。人助けの振りをしておきながら弱みに付け込んで脅し、自分の手を汚さす犯罪を繰り返すお前なんかに馬鹿呼ばわりされる筋合いはない。轢き殺すのに使った盗難車を誰かに用意させたのもお前じゃないか。それを処分させたのもお前だろう。どうせ俺と同じように脅した元依頼主にさせたんじゃないのか」

「お前はまだ分からないのか。この日本だけで介護や虐待、DVで苦しんでいる奴らがどれだけいると思う。二十万人を軽く超えているんだ。死んで欲しい、殺して欲しいと書き込む一日一万件以上の中から厳選し、実行する労力を考えれば多くの手が必要なのは当然だろう。弱みに付け込んでというが、人を殺してまで楽になりたいと願いながら何の代償も無く暮らせると思う方が間違っている。さっきも言ったが全て自己責任なんだよ」

 ぶん殴ってやろうかと立ち上がったが両脇にいる捜査員が邪魔で動けず、並木はもがいた。その様子を見て的場が告げた。

「もういい。お前の言い分の続きは、署でしっかり聞いてやる」

 彼に指示された捜査員達は並木達を囲み、一人ずつ引きずるように部屋から出されマンションを出た。道路には複数の覆面パトカーが止まっており、その一台に載せられ最寄りの署へと連行されたのである。

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