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第七章~並木④

 ぼそりと呟いた的場の言葉に並木は言葉が詰まった。まさしくかつて同じ愛知県警刑事課に所属し捜査していた辻畑警部補も、一連の事件に巻き込まれた被害者だ。けれど彼はその後も事件を忘れられず、苦しみ続けさ迷いながら生活を続けていた。

 もちろん彼だけではない。他にも似た思いをし、精神的苦痛に耐えきれず命を絶った者までいる。白木場が主犯なら恐らくそうした人物の存在も把握しているはずだ。なのに一連の事件を止めることなく続ける理由は何か。並木はその答えも知りたいと思っていた。

 気まずい沈黙が続いたからだろう。的場が口調を変えて言った。

「とにかくまずは白木場の身柄の確保だ。そこに集中しろ。過去を思い返すのは、全ての事件を明らかにしてからでも遅くない」

「そうですね。猪川理恵の件はほぼ固まっていますが、的場さんから指示されるまでさらなる証拠がないかを探ります」

「頼む。ただ感づかれないよう注意してくれ。今相手に悟られては台無しだ」

「気を付けます」

 そうして的場との話を終え、彼の指示通りの行動を始めた。猪川理恵の件は表向き一連の事件とは別件扱いだ。とはいえ殺人事件だから実行犯とみられる白木場からすれば気が気でないだろう。下手に追い込めば逃亡の恐れもある。その匙加減が難しい。

 そこで彼自身への接近は控え、隠し撮りした顔写真を元に事件現場周辺の聞き込みを徹底的に行った。しかし残念ながら、新しい目撃証言や物証は得られなかったのだ。

 その間、並木は綱渡りのような行動を強いられた。何故なら一方で、二つの事件におけるアリバイ確認はまだか、本人への突撃取材はいつできるのかと矢のような督促を受けていたからだ。その都度慎重に動いているから、もう少し時間がかかると時間稼ぎをした。 

 また刑事部内では一連の事件捜査班と距離を置き、あくまで単独の刺殺事件の捜査に力を入れ、動きを悟られないよう心掛けていたからでもある。

 そうしている内に、的場から首を長くして待っていた朗報が、朝一番に飛び込んできた。

「掴んだぞ。今は詳細を伏せるが関わった共犯者を特定できた。その人物が使用するスマホ等の通信履歴などから、白木場と繋がっている事も判明した。さらに物証なども手に入った。これで逮捕状が出せる」

「では白木場の元を訪ね、任意同行をかけていいですか」

「ああ。段取りとしてはまず並木から猪川理恵の件で追求し任意同行をかけろ。奴を引っ張っている間に家宅捜索令状を取り、パソコン等を押収し分析をかけ証拠を掴む」

「そのもう一人は、警視庁管内で逮捕するのですか」

「そこはまだ言えない。ただ白木場の聴取をする間に逮捕状が取れれば、そいつも同時に逮捕する。どちらかを先にするとどこかで口裏を合わせたり逃げられたりする恐れがある」

「それを避ける為、間違いなく立件できる証拠を掴み同時に拘束し、自供させるのですね」

「大事な場面だ。気を抜くなよ」

「では白木場の元へは私と誰が行けば宜しいでしょう。県警内でこの件を知っているのは課長だけで、捜査本部の同僚は誰もいません。警視庁から応援を頂けますか。それとも先程言われた、もう一人の被疑者を担当する管轄の捜査員と一緒が宜しいでしょうか」

 だが彼は驚くべきことを口にした。

「俺が行く。だが二人だけじゃない。まず君達が最初に立てた作戦通り、警察としてではなく記者として突撃取材し、彼から何らかの供述を引き出して欲しい。私もそこに加わる」

「え、的場さんがですか。しかも記者としてとなれば、最初の主導権は一般人に渡すことになります。それはまずいでしょう」

「捜査情報を伝えなければならないからか」

「そうです。少なくとも吾妻瞳と猪川理恵事件でのアリバイが白木場に無いことを含めた証拠等を伝えない訳にはいきません。しかも一般人でマスコミ関係者が同席した中、相手を追求し任意同行を求めるなんて前代未聞です。下手をすれば責任問題になりますよ」

「単なるフリー記者なら言う通りだ。しかしあの人は一連の事件と切り離せない、我々とも情報を共有してきたいわば関係者だ。それにあの情報が無ければ、白木場には辿り着けなかっただろう。その貢献度を考慮すれば、あの人抜きで奴の逮捕はできない」

「本気ですか」

「問題が起きた場合は俺が責任を取る。もちろんこっちの捜査本部は当然ながら、そちらの課長や本部長からも既に承諾を得た」

 並木は絶句した。知らない間にそこまで話が進んでいるとは想像していなかった。だが一連の捜査本部に長年関わって来た的場がそこまでいうなら従うほかはない。

「分かりました。ではいつにしましょう」

「一時間後の十時だ。先程名古屋駅に着いた。時間を無駄にしたくないから現地集合だ」

 再び驚く。そんなに早くとは思っていなかった為に慌てた。

「待って下さい。私は動けますが、」

 しかし途中で言葉が遮られた。

「あの人は問題ない。今日の件やアリバイについては、私から連絡を入れておく」

「連絡を取っていたのですか」

「君に黙っていたのは申し訳ない。だがこちらも事情があったんだ。白木場を連行する時までには詳しく説明するよ」

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