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第七章~並木①

 情報を得た並木は白木場の周辺捜査を開始した。まずは協力者がいるかを慎重に探る。だがそれらしき人物は見当たらない。彼が住むマンション周辺で聞き込みを行ったところ、買い物などに出かける際、挨拶はするけれどそれ以外の接点は全くないという。

 誰かが出入りしている形跡はなく、静かに年金生活を送る高齢男性の一人暮らしだろうと、皆が口を揃え証言した。そこから推測できるのは、協力者がいたとしてもこれまで同様、ネットだけで連絡を取り合った相手ではないかということだ。

 そこで吾妻瞳の件が起きた日の足取りを調べた。すると隣人によればその日は珍しく、朝から出かけ夜遅くまで帰ってこなかったらしい。となれば普段は週二回程度、自家用車で近くのスーパーへ買い物に出かける時しか外出しない彼がどこにいたのかが気になる。 

 よってナンバーをNシステムで探り、県内周辺や岐阜県内へ向かう道を通過していないかを確認した。そこで瞳が拉致されたと思われる時間帯、彼の車が通過していると分かった。つまり彼にはアリバイが無かった。

 しかし拉致されただろう現場周辺には防犯カメラなど無かった為、当然車は写っていない。よって彼の犯行と裏付けるまでの証拠は発見できなかった。だが第一段階はクリアだ。

 その為次に吾妻理恵が刺殺された日の足取りを確認すると、この日も彼は車に乗って出かけていたと分かった。もちろん事件現場近くの防犯カメラには映っていなかったが、やや離れた場所を通った形跡を発見した。

 ここでもアリバイが崩れた。車は遠くに停め、徒歩または別の移動手段を使い理恵の家に近づいたのかもしれない。それから何らかの手を使いドアを開けさせ、刺殺した後に何食わぬ顔をして逃走した可能性が出てきた。

 そこで並木は愛知県警による理恵刺殺事件でかつて収集した防犯カメラの映像を、片っ端から見て白木場の姿を探した。すると明確に彼と裏付けられる鮮明な映像は得られなかったものの、彼と思しき姿を見つけたのだ。もちろんこれだけで犯人だと特定はできない。

 けれど事件当日、理恵の自宅周辺にいたと確認できた為、容疑者の一人にあげるのは可能だ。さらに並木は一連の事件で初期から警視庁捜査一課で捜査に携わる的場を介し、岐阜県警に彼らが集めた周辺の防犯カメラの映像を提出させ、顔認証等で独自に探した。

 すると姿はなかったものの、現場近くを彼の車が通っていたと判明したのである。ただこれもそれだけで犯人と断定できる証拠にはならない。しかしここでも容疑者の一人には挙げられる。この二点があれば、任意同行をかけて事情を聞こうと思えば可能だろう。

 だがこれだけで彼を追求するにはまだ弱い。しかし闇サイト運営者でこの二件に関わっている可能性は一気に高まった。それが分かっただけで並木は鳥肌が立った。これまで警察が追い続けながらも全く特定できずにいた人物が、ここに来てようやく現れたからだ。 

 しかもそれを掴んだあの人の情報の精度の高さに驚かされた。これは言われた通りこの捜査がどれだけ重要か再認識でき、絶対相手に気付かれてはならず警戒されてもまずいと改めて自分に言い聞かせ気を落ち着かせた。

 それでもまだ裏取りに不十分な点がある。その為再び的場に依頼し、滋賀県警から十五年前の事故の資料を取り寄せられないか打診した。ここまでくればさすがに彼も怪しんだ。

 岐阜の件は一連の事件に関わるものと公表されており、愛知県警が捜査で必要だと言っても疑われなかった。目を付けているが、まだ容疑者とも言えない人物が映っているか確認したいと告げた際、躊躇なく協力に応じてくれた。これまで依頼主以外、実行犯で被疑者として挙がった人物は一人もいなかったからだ。

 けれど滋賀の案件は事故で処理され、闇サイトに関わっている一連の事件の中には含まれていない。その為説明を求められた。

「十五年前とはいえ、単なる事故だろ。直接岐阜県警に依頼すれば済むはずだ。それをわざわざこっちの捜査本部から取り寄せるのは、一連の事件に関わっている可能性が高いということか。そんな情報、どこから手に入れた。こちらでは把握していないぞ」

 白木場の件は、確実な証拠を掴むまで本部への報告を控えるよう言われている。まずは情報提供者に報告し、二人だけで取材という名目で相手に近づきたいとの約束だ。

 よって二つの事件の発生時にアリバイがなかったと伝えた上で、闇サイト殺人依頼事件を統括する捜査本部に全面協力を依頼するか、相談すべきなのは分かっている。

 しかしかつて本部に黙って囮捜査を単独で行い、その結果悲劇を生み愛知県警を去った刑事の案件が頭に浮かんだ並木は、同じ過ちを繰り返す訳にはいかないと考えた。

 それに現段階で取材と称し白木場に突撃するのは余りに無謀だ。せめて相手に突きつけた際、動揺を誘えるネタを手にしなければ、逃亡を許し証拠隠滅を図られてしまう。

 そう判断し、思い切って彼に打ち明けた。

「実はある筋から事故の被害者遺族が闇サイトの創始者ではとの情報が入ったのです」

 そこから岐阜と愛知の事件やそれらが起きたとされる時間帯、車を使い現場近くに現れていた事実などを告げた。

「もしかしてその情報提供者というのは、例の人物じゃないだろうな」

 やはり警視庁とも連絡を取り合っていたのか、話を聞き終わった彼は気付いた。誤魔化す必要も無い為、並木はそれを認めた。

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