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第六章~記者⑤

 その日出勤時間を過ぎても病院に来なかった為、同僚達は電話しただけでなくアパートまできた。けれど応対した由衣は、普段通り出勤し戻ってないと答えた。日勤は七時半からなので瞳は一番早く家を出た。その為彼女を見送った由衣は、末っ子の翔馬を幼稚園に預けそのまま高校へ向かい、陽菜は一人で登校していた。

 もちろん瞳の出勤時、特に大きな荷物を持って出た様子もなかったと証言したらしい。念の為にと由衣が帰宅した後、彼女の同僚看護士が部屋の中を見て着替え等を確認していたので間違いないだろう。盗聴していた私も彼女が家出する気配は一切感じ取れなかった。  

 その為状況から見て、間違いなく何らかの事件か事故に巻き込まれた可能性が高いと考えていた。病院もそう判断し、由衣達を連れ警察に失踪届けを出したのだ。

 急な展開に私は様々な可能性を考えた。今までの手口と異なる為、一連の闇サイトの件とは全く別かもしれないとも思った。しかし瞳がトラブルを抱えていた形跡はない。

 もし例の大金の秘密を誰かに知られ、それをネタに強請られ連れて行かれたとさえ考えたが、やや飛躍しすぎだと思い直す。あり得るのは車で撥ねられ、公にならないよう運転手が連れ去った可能性だ。けれど警察も調べたらしい。

 しかし瞳が病院へ向かう途中にある防犯カメラ等を確認し、また目撃者探しも行った結果事故などが起こった証拠は全く発見できなかったのだ。そうした経緯を、私は仕掛けた盗聴器により由衣が病院の人達や警察と会話する様子を聞き全て把握できた。

 そこで今後どうするか頭を悩ませたが、しばらく残ると決めた。理由は子供達が気になったからだ。しかし何とか当面、三人でも生活できると判断されたらしい。まだ幼い翔馬がいるとはいえ、妹は小学四年生で由衣が高校生だった為だろう。またお金も通帳と銀行印が残されていたので、残高からすればどうにかなると大人達は考えたと思われる。

 ただ長期になるようなら、一度部屋を引き払い養護施設に入る手続きを取らなければならないと話し合われていた。親戚付き合いは無いが、頼れる人達がいた点は幸いだった。病院の人達も、郷野の存在と周りに壁を作っていた瞳がいなかったからだろう。虐待を受けていた子供達を不憫に思い、とても親切にして世話を焼いていた。

 私はそんな状況を見届け、他県の別事件を取材する為引き上げようと思っていた。その矢先、岐阜の山中で女性の死体が発見されたのだ。よって引き続き取材を行ったのである。 

 山の管理人が木の状態などを確認する為見回りをしていた所、偶然発見した遺体はやや腐敗が進んでいたという。けれど近くに埋められていた遺品から、身元が瞳の可能性が高いと分かったのだ。そこで失踪届を受理していた警察は迅速に解剖とDNA鑑定を行い、遺体が彼女だと断定したのである。

 さらに死因が首を絞められたことによる窒息死で、死後約八日経過していると分かった。つまり失踪した直後だ。その為殺人事件として捜査本部が立てられた。警察は何者かが通勤途中の彼女を車で連れ去り、その日の内にどこかで絞め殺し山中に埋めたと見立てた。 

 だが性的暴行の形跡は無かったという。また殺害後埋められるまで、やや時間が経過していたとも分かった。どうやら山中に一定時間放置した後、発見されないよう埋められたのではないかというのだ。

 フリー記者の為、当然この事件ついても顔を出し調べてみたが、取材すればする程不可解な点が噴出する事件だった。というのはまず性的目的でなく殺害したなら、その動機が分からない。もちろん行為に及ぼうとしたが、誤って殺害してしまった可能性はある。

 それでも私は絶対に違うとの見解を持っていた。何故なら彼女達が闇サイトに関わった一家と知っていたからだ。通常なら父親が事故死し、その数ヶ月後に母親が殺され子供達だけが残された不幸な家族としか見られなかったかもしれない。だが実情は全く違う。

 両親はいずれも毒親で殺されている。しかも一人は確実に由衣が闇サイトを通じ殺害依頼したと分かっていた。よって当然瞳の殺害も闇サイトによるものと確信していたからだ。 

 けれど盗聴していた限り、二度目の大金を受け取った形跡は確認できていない。これまでなら殺害されたのが失踪日だったら病院関係者が出勤しない瞳を案じ、家を訪れた頃には例の金が届けられたはずだ。

 しかし両親共が酷い親だとはいえ、闇サイト運営者が立て続けに依頼主の要望に応えた事例は無かった。だからと言って今回の事件が当て嵌まらないとも断言できない。

 そこで重要となるのはやはり例の金だろう。それがもし届いていれば、一連の事件との関係がはっきりし、警察も動ける。もし例外なら合計二千万円を支払われるのではなく、最初の金で二人を消したのかもしれない。

 いずれにしても依頼主と思われるのは今度も由衣だ。よってまず彼女が新たに例の金を手にしたかを確認しようと考えた。だが学校には安全に隠せる場所などないだろうし、通学途中だとロッカーにしまう場所もない。

 とすれば部屋の中だ。発見する為には忍び込むしかなく、しかも急ぐ必要がある。何故なら保護者がいなくなった為、近い内に由衣達はアパートを出て養護施設に預けられると決まったからだ。もちろん警察は前回の事件同様、被害者の自宅の家宅捜索を簡易的に終わらせた為、例の金の存在を発見していなかった。

 盗聴器だけなら夜中にピッキングで部屋に入り、こっそり仕掛け戻ることは出来た。だが金の在処を探すとなれば簡単にはいかない。それが養護施設となればまず不可能になる。 

 よってアパートにいる間で由衣達が登校等をした後の留守を狙うのが最適だ。けれど日が明るく人の動きも活発な時間帯、しかも壁の薄いアパートへの侵入は相当難しい。

 ただこれまで長く張り込みを続けていたおかげで、由衣達一家だけでなく両隣やその他住民の生活パターンはほぼ把握していた。

 それら情報をフル活用し、ここというポイントを見つけた私は、早速行動に移した。某宅配便業者着用の制服と似たものを取り寄せ、それに着替え車中でタイミングを計った。業者が良く来る時間帯で、彼らが去った直後が最も侵入しやすいと睨んだからである。

 多くの家に荷物を運ぶ為にドタバタと走り回る行動を利用して近づけば、多少音がしても住民達には業者が開け閉めするドアの音だと思い、疑われる確率が低いと判断したのだ。

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