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第四章~辻畑⑩

―お待たせしました。ご希望通り悩みの種を取り除き、かつ資金をお渡しします。まず決行方法ですが、自宅が良いですか。それとも外出先が良いかを選択して下さい―

 ある程度予期していた内容だった為、事前に登録していた文言を活用して文字を打った。

―外出先で。基本的に火、木、土の夕方三時から五時頃に買い物で外出する為―

 送信していつも通りにメモを残し終わり一息つくと、すぐ返信があった。このパターンは初めてだ。いよいよ核心に近づいてきたらしい。そこで開くと、

―了解。その日のその時間、あなたにはアリバイ作りの必要があります。なのでしばらくは離れた場所で、誰かと一緒にいて下さい。できますか―

と書かれていたので、少し考えてから即座に返信した。

―可能。ただ資金はいつどのタイミングで受け取るのか―

 また余り時間をおかず伝言が届いた。

―実行日にご自宅へ届けますが、部屋に入る鍵を分かる場所に置いて下さい。また今回の代償として、いつかあなたも同じ悩みを抱える人を救う側になって貰いますー

 来た。やはり依頼主は実行犯になるのが条件だった。決定的な証拠を掴んだ。しかし喜んでいる場合ではない為に返信を打つ。

―鍵の件は了解。でも救う側とはどういう意味か―

 急いでメモに書き写し終わったと思ったら、また返事が来た。

―誰かの悩みの種を消し去ること。方法はその時伝えます。やりますか。やめますか―

 なるほど。こうしておけば、とにかく殺人犯になることは後回しにして、実行を優先させられる。そして後で警察に逮捕されたくなければ、黙っていろと脅迫するのだろう。

 納得した辻畑は、やりますと打った。

その後も続いたが、予想と少し違った。

―鍵をどこに置きますか― 

少し考えた後で返信した。

―オートロックなので、郵便受けに手を入れれば届く所に鍵をテープで貼り付けておく―

―了解。ではしばらくの間、必ず先程の日程と時間帯のアリバイを作っておくように―

 このままやり取りが終わってしまうと困るので、すぐに返信した。

―分かったが、しばらくとはどれくらいか。また先程の、方法はその時伝えると言うのはこのアプリを通じてなのか―

 少し間があった為、このまま途切れるかと危惧したが返信された。

―どれくらい待つかはお約束できません。また方法は悩みが解消すれば分かるので、その時伝えます。あなたは覚悟だけして下さい。それとも止め、このまま苦しみ続けますか― ―いえ、お願いします―

 そう答えるしかなかった。これ以上やり取りを引き延ばそうとし、怪しまれては終わりだ。それに相手は母が外出する時間と曜日を確認しただけで、顔写真や通るルートは全く聞かなかった。

 つまりは今後、サイト運営者から依頼を受けた実行犯、またはその協力者が辻畑や母の名前と住所から探りどの人物が対象でどう動くのかを調べ、確実に殺し逃げられる方法を探る為に下見をするはずだ。

 そうなるとこれから火、木、土の三時から二時間ほどの間、母の周辺を嗅ぎまわる人物を掴まえればいい。辻畑が刑事だと分かれば、間違いなく相手は警戒し、手を引くだろう。

 となれば尾梶と二人だけで網を張るのは限界だ。捜査本部に経緯を説明し、応援依頼するべきと判断した。その為には尾梶と一緒がいい。先に事情を把握している彼のサポートがあれば上層部も聞く耳を持ち、捜査員の配置にだって応じてくれるだろう。

 そこで早速彼の携帯を呼び出した。だが今は出られない状況らしく、留守番電話に切り替わった為、折り返し連絡が欲しいと伝言を入れて自宅へと向かった。

 彼から電話があったのは、母の入浴を済ませて就寝させた後、そろそろ寝ようかとリビングから部屋に移動した時だった。

「夜分遅くすみません。バタバタしていて伝言を確認するのが遅れました」

 開口一番、恐縮しながら謝る尾梶を宥めた。

「いやいや、こっちこそ申し訳ない。まだ仕事か」

「いえ、家に戻ったところです。私用の携帯は持っていたのですが、つい先ほどメッセージが入っていると気付いたばかりで」

「そうか。だったら今、時間は取れるか」

「大丈夫です。明日から一旦監視を中止するとのメールは見ましたが、その件でしょうか」

「いや違う。その後動きがあった」

 そうして先方とのやり取りを説明すると、彼は驚きの声を上げた。

「急展開ですね。これはいよいよ相手が動く証拠じゃないですか」

「だが奇妙な点がある。そこで相談なんだが」

 辻畑の見解を告げると彼は自信無さげに言った。

「確かに本部へ応援を頼んだ方がいいかもしれません。鍵の受け渡し方法だけ確認して顔写真など要求しなかった点を考えれば、動き出すのはこれからの可能性が高いでしょう。ただこの四日間、全く動きが無かったのに突然そこまで話が進んだ理由が不明です。あと事情を聞いた本部がどう判断するか、やや不安な気がします」

「どういう意味だ」

「今更ですが、まず秘密裏に囮捜査を仕掛けた辻畑さんの処遇ですね。それと本気で動いてくれるかも分かりません」

「処罰を受ける覚悟はとっくにできている。だが特殊なアプリをダウンロードさせ、一千万円という決定的なキーワードが出てきたこれまでのやり取りからすれば、闇サイト運営者が動いたと見ていい。それが分かっていながら、捜査しない訳にはいかないだろう」

「しかし証拠は手書きメモだけですよね。頭の固い上層部が鵜呑みにし、辻畑さんの母親の警護や官舎周辺の見張りに多くの人員を割くかと考えた時、やや疑問が残ります」

「信じて貰えないかもしれないというのか」

「そうでないと思いたいですよ。ただどこまで本気になるか心配です。それに万が一でも監視の目を潜り抜けられ、殺害が実行されれば大問題になります。それが囮捜査の結果だとマスコミが騒げば、本部長の首が飛ぶだけでは済まないでしょう」

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