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第三章~辻畑⑦

「朝早くすみません。急ぎではありませんが、新たな情報が入ったのでご連絡しました」

 一連の事件における警視庁との情報交換窓口を彼に任せていたと思い出す。特に進展が無ければ週一回の定期連絡で済ませ、聞いた内容を本部に伝えるのが辻畑の役目だった。

 けれど今日はいつもと違うようだ。しかし急ぎでないと断りを入れた様子から、それ程重要なものではないと高を括り頷いた。

「そうか。ご苦労さん。どういう情報だ」

「警視庁サイバー課で抽出された、様々なサイトで被介護者等がいなくなればと書き込んだ人達の中から、闇サイト運営者が喰いつきそうな、または接触したと思われるリストの一部がこちらに送られてきました。もちろん利用者がこちらの管轄、愛知県内在住の人達に限定されたものです」

 ドキリとした。そうしたネットパトロールをしているとは聞いていた。まさかその中に、昨日それらしきメッセージを貰った辻畑のアカウントが含まれているかもしれない。

 恐る恐る彼の話の先を促す。

「なるほど。そのリストをどうしろというんだ。こっちで追いかけろと割り振られたのか」

「はい。これから本部捜査員とこちらのサイバー課や辻畑さんにも、リストを添付したメールを送付する予定です。既に上層部には、別途同様の連絡がされていると聞いてます」

「なるほど。中身を見た上で、こちらのサイバー課にもバックアップを要請するって話か」

「はい。ただその前に辻畑さんのお耳に入れて置こうと思いまして」

「分かった。それで俺達がそれを元に動く必要はあるのか」

「いえ。直接の捜査はこれまで通り、実働班に任せます。私達はあくまで警視庁からの情報を受け渡す役目に過ぎません。リストを元にした捜査の進捗状況をまとめ、その結果を定期的に送り返せばいいだけだと聞いています」

「進捗状況は本部でまとめてくれるのか」

「はい。私達は内容を確認した上で、コメントが必要なら追加し送付すればいいそうです」

「そうか。分かった。メールを見れば、そういう内容も記載されているんだな」

 口調からして単なる杞憂だったと胸を撫で下ろす。ただ彼が気付いていない可能性がある。リストに辻畑のものが含まれていれば、捜査員やサイバー課にいずれ発見されてしまう。そう危惧していた所で彼の言葉を聞き驚いた。

「はい。ただ問題は、どうやらその中に辻畑さんのアカウントが含まれているようです」

 直ぐに反応できず沈黙していると、話が続けられた。

「昨年、私の祖母が亡くなるまでは、辻畑さんにも相談していましたよね。覚えていらっしゃいますか。その時、よく使っている介護サイトを教えて頂いたじゃないですか」

「あ、ああ」

 何とかそう言ったが、その先どう答えればいいのか躊躇した。その気配を察したらしい彼が、説明し出した。

「すみません。私も以前あのサイトを利用しましたが、その際に恐らく辻畑さんだろうと思うアカウントを見つけていたんです。でも確認せず黙っていました」

「そう、だったのか」

「はい。そこでリストが送付された時、サイト名を見つけ懐かしいと思い開いたんです。それで記載されているコメントを見て、辻畑さんの書き込みを発見しました」

 心臓が口から飛び出そうになりまた震えた。いつもと変わらない話し方で淡々と告げられ、余計に恐ろしく感じられた。辺りを見渡し、誰にも聞かれていないと確認して尋ねた。

「お、お前見たのか」

「はい。まさかあんな書き込みをしているなんて、思ってもみませんでしたから驚きました。以前は困った時に質問し、他の方の体験談などを検索したり使えそうな介護方法を試したり、といった程度の使い方でしたよね。なのに私がもう使わなくなったからか、ここ数カ月で急に内容が変わっていたのでどうしたのだろう、と心配してしまいました」

「い、いや、これには事情があるんだ」

 どう言い訳しようかと考えあぐねていると、彼が言った。

「あれは嘘ですよね。もしかすると囮捜査ですか」

 思わず声が詰まる。その反応で彼は悟ったらしい。

「やはりそうでしたか。以前俺に考えがある、下手をすると責任問題に発展しかねないだとか、意味深な言葉を使っていましたよね。それがこれだったんじゃないですか」

 もう誤魔化せないと諦め、素直に頷いた。

「そうだ。ばれたならしょうがない」

「良かった。だったら間に合います。今なら私がリストから削除すれば、捜査員やサイバー課からの問い合わせを防げます」

 意外な申し出に目を丸くしたが首を振って告げた。

「もう遅いだろう。同じリストが上層部へ渡っているなら、下手な細工をするとお前の責任問題になる。それに後で報告をする際も、リストがマッチしないと余計に面倒だぞ」

「それは大丈夫です。的場さんの話だと、上層部に送付されたメールにリストは添付していないそうです。概略とリストを使った捜査依頼やその説明が主だからでしょう。それに現場からのリストと重なれば混乱するので、そっちは私から送付する手筈になっています」

「いや、それでも結果を警視庁にフィードバックする際、整合性がなくなるのは同じだ」

「その時はまた私が辻畑さんの分のアカウントに、問題なしとか対象から外れるようコメントを記入して送れば終わりです。一往復分だけ細工すれば、その後指摘される可能性はないでしょう。相当数ありますし、これからも新たなリストが追加されるでしょうから」

 少し間をおいてから質問した。

「それで本当に大丈夫か」

「大丈夫です。それより問題なのは、本当に囮捜査なのかどうかでした。そうだとおっしゃったので、ホッとしましたよ。実はドキドキしながら連絡したんです」

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