表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/78

第三章~辻畑②

 最初から殺して欲しい等とはせず、頭を悩まし苦しい状況を少しずつ語るよう努めた。それでも内容は現実に味わい、長い間思い続けてきた実話で嘘はない。だから説得力もあり真に迫っていた。

 その為以前から使用していたサイトでは、これまでの利用者と同じく心配する人や共感してくれる方達のコメントがしばらく続いた。だが新サイトでは構って欲しい人達の似た書き込みがあるからか、疑いの目を向けられたり批難されたりした。

 辻畑はそうしたコメントを、出来るだけスクリーンショットで残した。何故なら最初のアプローチから、履歴が残らないようにするのは不可能だからだ。よってその後闇サイトに誘導されたと気付いた時、そこへ導いたアカウントは必ず辿れる。そこから闇サイト運営者に近づく足取りが掴めるかもしれない。そう思ったのだ。

 といってもどの書き込みからどう導かれるのか予測するのは不可能だ。それに一見して無関心、または真逆のコメントに反応する人が、また別アカウントで接触してくるかもしれない。そうした様々な可能性を考慮し、辻畑の記述に反応したものをほぼ全て記録するようにした。

 しばらくは無駄な作業が続く覚悟をしつつ、勤務が終わり官舎に戻った際は必ず書き込みを行った。個人の携帯所持は他部署だと、勤務中の持ち込み禁止といった制限がされる。だが刑事は緊急の連絡で使用するケースがある為、許可されていたからだ。それでも誰が見ているか分からない。よって必ず勤務中は外で一人の時しか作業出来なかった。当初はそれがもどかしく思っていた。

 しかし始めて二か月経過した頃には、当初の目的を忘れるほど没頭した。これまでの鬱憤だけでなく、実際日々起こる腹立たしさへのストレス発散に役立ったからだろう。

 一つは捜査が全く進まなかった点だ。三月十五日を過ぎ、日暮航の高校受験が一段落ついた為に事情聴取は再開された。それまでは周囲の防犯カメラなどを徹底的に洗い、また目撃証言を探す範囲を広げ実行犯の足取りを追ったが、何も掴めていなかった。

 そうした影響もあり、航から供述を引き出す重要性が増していた。しかし彼はこれまで以上に頑なな姿勢を示し、ほぼ口を開かなくなった。捜査員も焦っていたのだろう。つい口調が激しくなってしまう場面があり、その都度母親から抗議を受けた。結果弁護士が介入し警察の理不尽な態度を理由に、任意の事情聴取も応じなくなったのである。例の一千万円が手元に戻り、そうした余裕が出来たからと考えらえた。

 やがて恐れていた事が現実になった。公立高校の合格発表で航はAB共に落ちた。結果、京都の私立高校で合格していた為、彼はそこへの進学が決まったのだ。よって当然二人で引っ越しを始め県外へ出てしまい、県警による事情聴取は実質できなくなったのである。その為京都府警に捜査依頼をし、引き継ぎを行わざるを得なくなった。

 だが警察庁から通達を受けたとはいえ、日暮親子はあくまで犯罪被害者遺族だ。しかも殺人依頼の証拠もない。さらに被疑者が未成年だからか、彼らは完全に腰が引けていた。 京都府内で一連の事件の事案があったなら、もう少し状況は変わっていたかもしれない。しかし日暮親子が移り住んだ頃は、該当または疑われる事故や事件が一件も無かった。よって捜査はほぼ止まってしまったのだ。

 予想してはいたが、現実にそうなれば動きは鈍くなる。警視庁から京都府警へ発破をかけて貰い、また愛知県警に対しても引き続き合同捜査体制を維持する旨は告げられた。しかし県警が抱えている事件はこれだけでない。他にも未解決案件があり、また有名人の覚せい剤所持といった世間から注目を浴びる新たな事件が発生していた。そうした理由から捜査本部の体制が徐々に縮小されたのである。

 辻畑と尾梶は警視庁等と情報を共有する役目だった為、引き続き任務を担ったままその他の事件にも駆り出された。とはいえ他の捜査本部でも進捗が無かった為、実質は名ばかりの役目だった。時折思い出したように的場と互いの状況確認をしたが新情報はないとの話ばかり続いた。またそれは尾梶の仕事だった為、辻畑はほぼ手を引いた状態だったのだ。

 その頃には介護サイトへの書き込みが、仕事より毎日愚痴を吐くルーティンになっていた。それが丁度いいストレス発散でもあったのだ。記述することはいくらでもある。性別を逆にして特定されないようにしようかとも考えたが、かつての質問で母親の世話をする息子とばれる個所があると気付き、小細工は止めた。

―何故母は介護されている立場なのに、こうも辛く当たるのか。父が生きていた頃は違ったのに。どうしてこうも人の悪口を言うのか―

 介護される側も内心辛い思いをしているのではないかとか、夫を亡くした哀しみをぶつけているのでないかという慰めの言葉をかけられたが、辻畑の心には全く響かなかった。

―辛い思いをしているのは母だけじゃない。自分もそうだ。なのに感謝どころか、どうしてもっとできないのかと文句ばかりをぶつけて来る。だから妻に出て行かれたのだ― 

 するとある時から、イラっとさせるコメントが増えてきた。

―介護する側が感謝を求めるのは間違いですー

―奥さんが出て行った理由は介護だけでしょうか。あなたや別の所に問題があり、それを言い訳にしたのかもしれませんよー

―お母さんは夫に虐げられてはいませんでしたか。だから亡くなられてやっと解放されたのかもしれません。それまで我慢していた分、反動が出たのでしょう。しばらくは受け止めてあげるのが子としての務めでしょうー

 辻畑は反論した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ