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第二章~尾梶④

OK→大阪に住んでいた栗山、神奈川で車を使い天堂夫婦を轢き殺した八十過ぎの老婆

KS→神奈川に住む少女,栗山に轢き殺された天堂夫婦の子供で三人きょうだいの長女で十一歳

TM→東京に住む麦原、自宅でほぼ寝たきりだった八十五歳の母親を窒息死させられた息子

AS→愛知の少年、自宅で窒息死した四十五歳で難病により寝たきりだった日暮美香の甥、十五歳

 闇サイトへのアクセス履歴は自動消去されて確認できなかったが、それ以外は残っている。そこで彼はスマホで少年法を検索していた事実が判明していた。しかしあくまで勉強の為、と本人は答えていた。彼が言うように、実際中学の授業では少年法の改正等が扱われており、受験に際し必要だったと主張されればそれ以上警察としては何も言えなかった。

 殺人方法等を具体的に調べていたのなら話は変わるが、今回は依頼だけで自らの手を汚していない。それでも実行されれば殺人罪だ。彼はそこまで知っていただろう。

 よって辻畑と話した通り、安直な気持ちでは無かったと想像できる。そうなると物証もなく保護者同伴の任意の事情聴取だけでは、捜査員もそう簡単に崩せないだろう。

 しかし警視庁の的場からは、闇サイトでのやり取りの詳細をどうしても探って欲しいと依頼されている。神奈川での供述だけではまだ不明な点が多すぎるからだ。

「それにしても警察の取り調べや、逮捕される覚悟はできていたかもしれないが、後に人を殺さなければならないとの条件についてはどう考えていたんだろうな」

 辻畑は尾梶の考えが伝わっていたかのように呟いた。

「KSの場合、そこまで深く考えていなかったようですからね。まあ、当時十一歳でしかも心身共に追い詰められていたので、今をどうにかしたかった思いが先行したのでしょう」

「だからもし条件を満たさないとどうなるか、または金を用意できなかった場合も知らなかった。しかし彼なら確認していた可能性がある。だから警視庁は何とか供述を引き出して欲しいのだろう」

 尾梶は思わず憤慨した。

「それも勝手な言い分だと思いませんか。こっちは十五歳ですよ。向こうは五十半ばの成人男性なんだから、そっちを先に落とせばいいんです。それが出来ない自分達の不甲斐なさを棚に上げ、私達に託すなんて調子が良すぎませんか」

「KSの供述例があるから、未成年は自白させやすいとでも思っているのだろう。俺達だって彼が供述し、情報を多く得たいと思っているさ。ただ無理なものは無理だ」

「そうですよ。まずは実行犯を捕まえるのが先でしょう。闇サイトをいくら調べても証拠は何もありませんから」

 彼は頷きながらも尾梶とは違って冷静に言った。

「だが知りたいとは思わないか。例えば殺人依頼が成立し実行された後、殺す側に回るのはどのタイミングなのか。それが分かれば実行犯を追う手掛かりになる」

「確かに。サイトは実行された後、またはその前に閉じられると言っていましたね。ただサイト運営者は個人情報を掴んでいます。だからどこかのタイミングで連絡を取り、依頼主とのマッチングをするのだろうと想像はできますが」

「ある日突然、連絡が来るのだろうか。大阪での被害者であり依頼主であり、また神奈川での実行犯となったOKに、どうやって殺人をさせたのか知りたいな」

「彼女の持っていた遺品等は死後全て廃棄された為、検証できなかったようですからね」

 栗山が死んだ時は単なる事故死と考えられていた。また身寄りが少なく、遺体を引き取ったのも遠い親戚筋だったと聞いている。事件への関与が分かったのはその一年後だ。僅かに残った遺産を受け取った人物が、遺品等を既に処分していたのも当然だった。

「だがもし携帯等が発見されていたとしても、殺人の依頼をする時と同様、履歴やメッセージなどは残らないよう細工されていただろう。でも考えてみろ。OSが息子を殺された後、携帯を買い替え転居していたら連絡は取れなくなる。そういう場合、サイト運営者はどうするつもりだったんだろうな」

「お金を用意できなかった、または殺す側に回りたくなかった場合と同じですね。殺す代わりにつきつけた条件が守られないと、ペナルティがあるのかないのか」

「そうだ。殺して欲しい人がいながら、自分の手を汚さず証拠も残らない方法で金を払うどころか一千万円を手にできるんだ。こんなおいしい話は無い」

「本来なら代償として似た境遇の人の殺人依頼に応じ、金も返却しなければならない。普通は嫌だと思うかもしれませんね」

「だがOKは違う。三年後に約束を果たした上、金を返却するだけでなく命まで犠牲にした。さらに自動車事故という方法を使い、賠償金まで払われるようにした。彼女にそこまでさせたのは一体なんだ」

 辻畑の問いに、尾梶は首を捻りながら言った。

「八十過ぎの高齢女性ですから三十代の夫婦を相手に突き落としたり刺し殺したり、ましてや絞め殺したりといった方法では殺せません。だから車を使ったのは納得できます。でも失敗すれば、それこそ今回のように命を失いますからね」

「ああ。単に運転操作を誤った事故となれば、年齢からすれば誰もが納得する。だから逮捕され禁固刑を科されても、意図的な殺人だとはばれない確率が高い」

「そう考えると事故に見せかけ殺す方法は、覚悟さえあればいい方法かもしれません」

「俺もそう思う。例えば金を使い果たし、用意できない時も使える。加入している自動車保険でカバーすればいいし、レンタカーでも同じだ」

「神奈川の事件でも賠償金は払われたようですからね」

「意図的だとしても、対人賠償は被害者保護の観点から支払われる確率が高い。しかも今回は殺人との証拠がないから、保険会社も払わざるを得なかったのだろう」

「金を返した上で車を使ったのは、そんな事情を理解し意図的にやったのかもしれません」

 彼は深く頷いた。

「有り得るな。残された遺族はKS以外にも幼い二人の姉弟がいた。事件当時七歳だった妹と二歳の弟が、同じ児童保護施設に預けられている」

「両親を失った三人の将来を考えた時、一千万円では少ないと思ったのかもしれません」

「それに虐待を受けているとの事情をOKは知っていたはずだ。長年息子の暴力に苦しんだ自分の境遇と、彼女達を重ね合わせたのかもしれない。しかも自分は高齢だ。幼い子供達を救えるなら、死んでも刑務所に入ってもいいと思ったのだろう」

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