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第二章~尾梶①

 的場と直接話をする為、尾梶は辻畑と警視庁に向かい会議室で会った。こちらの窓口として辻畑が表に立った。同じ階級で県警刑事課の彼が前に出るのは当然だ。しかも彼はかつて窃盗等を担当する捜査三課で高い検挙率を誇り、捜査一課への異動を果たしている。所轄の刑事で巡査部長に過ぎない尾梶は聞き役に回るしかなかった。

 二人は年も同じらしい。だが聡明で若く見えるが冷たい顔立ちの的場に対し、辻畑は表面上温和だが老練かつ孤高な空気を纏っている為、ある意味対照的なタイプに思えた。

「今でも麦原は任意の事情聴取の段階ですか」

こちらの質問に対し彼は淡々と答えた。

「はい。例え彼が供述したとしても裏付ける証拠はありません。ですから実行犯の足取りを捜査中ですが、これも手掛かりが掴めず足踏み状態です」

「大阪府警も同様だと伺いました。栗山の死亡で、情報はより少ないからでしょうが」

「はい。神奈川県警も全く手が出ない状態です。実行犯の栗山が死亡し、依頼主は当時十一歳の少女ですから。その為同じく闇サイトについての捜査に加え、他の事件を洗っています。どこで同じサイトを使い、殺人依頼をしているかは分かりませんが」

 以前記者から聞いた話を思い出したらしい辻畑が尋ねた。

「他に関係がありそうだと疑われる事件も、いくつか挙がっているのではないですか」

「あります。ただそれらは事件関係者の協力が得られず証拠もない為、合同捜査として扱えない状態です。唯一の物証である一千万円の存在も確認が取れないので止むを得ません」

 やはりいくつかあるようだ。あの記者はこの情報を何処かで掴んだらしい。それで関連する新たな事件を探す内、日暮家の事件を知り嗅ぎ付けたのだろう。そうしたマスコミがいると説明し告げられた話を彼が伝えた所、的場は眉を顰めた。

「その記者は要注意ですね。そこまで独自取材を進めているなら、いずれ現金についても嗅ぎつけられるかもしれません。もしそうなった場合、口止めできますか」

「断言はできませんがやりましょう。ただでさえ彼女は被害者遺族が殺人に係わっていると睨んでいます。下手に騒がれると今後の捜査に支障がでますから」

「お願いします。現時点ではあくまで彼らは被害者遺族の為、扱いには注意が必要です。しかも未成年が含まれていまので、今後、被害者遺族で依頼主と思われる容疑者に関しては、イニシャルを使った隠語を使用して下さい。例えば大阪の栗山はOK、神奈川の少女はKS,東京の麦原はTM、愛知の少年に関してはASと呼んでください。これは既にこちらの捜査本部で使われてるものです」

 辻畑が了承した為、尾梶も同様に頷いた。そこで再び話題が戻った。

「的場さん達の見解では、闇サイトを通じて遺族の一人が殺人依頼し第三者がそれを実行したとのことですが間違いないでしょうか」

「神奈川の被害者遺族の証言からまず間違いありません。しかも一連の事件における特異性は殺害依頼された実行犯が報酬を受け取るのではなく、一千万円を現金で依頼主に渡す又は置き残している点です。その上依頼主の命が危うい、または被害者と共倒れになる可能性を持つ事情の場合に限られるとの条件付きです」

 確かに三つの事件ではそうした共通点があった。大阪の場合、引き籠りの息子が長期に渡り母親に暴力を振るっていたという。もし栗山の母が息子の殺害依頼をしなければ、先に殺されていたか老々介護で二人共、経済的困窮を強いられ続けていたに違いない。

 神奈川の天堂家でも、両親のDVにより三人の子の誰が死んだっておかしくなかったらしい。愛知の日暮家に至っては、介護疲れで母親が倒れていた恐れと息子がまともに受験できず、将来を悲観して死を選ぶ可能性もあった。東京の麦原の母は殺してくれと言い続けており、いつか自殺または息子が手にかけていた恐れはあっただろう。

 それでも辻畑は敢えてと思われる疑問を投げかけた。

「唯一闇サイトでのやり取りを証言した内容から、そうした事実が明らかになったようですね。でも当時十一歳のKSの供述をそこまで信用していいのでしょうか」

「そちらの事件の遺族はどう言っていますか」

 的場達より得た情報から、日暮家でも彩か航が闇サイトを通じ依頼した可能性を疑わざるを得なかった。よってパソコンは持っていなかった為、任意の取調とそれぞれが所持するスマホを預かり分析した。

 しかしサイトのアクセス履歴は発見できず、どちらも殺人依頼を否定していた。ただ取り調べた捜査員によれば彩が依頼した可能性は低いという。となれば十五歳の航が依頼主となる。だがやはり未成年であり、証拠もない為深くは追及できずにいたのだ。

 そうした事情を伝えると、彼は深く頷いた。

「捜査員の見解が誤りでなければASが依頼主で間違いないでしょう。KSは十一歳なのに出来ています。私達の推論が誤っていると思うなら、是非供述を引き出して下さい」

 言葉遣いは丁寧だが、疑うなら自分達で証明しろと言わんばかりの物言いだ。よって反論し辛かっただろう辻畑は頷いた。

「分かりました。推論が正しいとみて話を進めましょう。確かに筋は通ります。ただ理解し難いのは実行犯の動機です」

「それはOKの行動が大きなヒントでしょう。またKSの証言もそれを裏付けています」

「殺人依頼の条件は、目的が達成された場合は一千万円が与えられる。金は今後の生活で使って良いが、代わりに働いて稼げるようになれば使った分を補充し他の依頼主の要望を同じく叶える覚悟が必要、というものですね」

「はい。つまり実行犯はかつて被介護者またはDVをする両親等に苦しめられた経験がある人物で、サイトに殺害依頼をして助けられた。だから次は助ける側に回り、殺した上で金を依頼主に渡す。そんな歪んだ助け合いの元で行われた犯罪、と考えていいでしょう」

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