表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/78

第一章~辻畑⑩

 近所の住人や児童相談所職員の証言で、その家庭では度々虐待が疑われる行為で通報され、子供達は何度か施設に一時保護されていたという。よって両親の死後、子供達は養護施設に預けられた。一千万円を含め両親の事故により払われた保険金や遺産等は、施設を援助している弁護士が後見人となり管理していたようだ。現金が何故あったのか、当時は大阪の事件と同じく特に問題視されていなかったらしい。

 しかしその一年後、東京で麦原の事件が発生。一千万円という不可思議な金の存在と家庭環境から、第三者の犯行を睨むと同時に同様の事件があるかを確認しようと、当時捜査員の一人だった的場(まとば)という警部補が問い合わせをしたという。その中でヒットしたのが神奈川と大阪の事件だった。

 通常なら単なる偶然と考えてもおかしくない。だが情報を聞いた捜査一課の的場は現地に飛んで調べたそうだ。というのも訳があった。神奈川での事故で車を運転していた人物が、大阪の事件における被害者の母親だと分かったからだろう。 

 神奈川県警でも当初から、大阪に住んでいたはずの八十過ぎの栗山(くりやま)という女性がレンタカーを借り、何故そんな場所を走っていたのかに疑問を持っていた。その為大阪府警で当時捜査をしていた刑事達から話を聞き、神奈川県警の協力も得て捜査を始めた。すると栗山らしき人物が事件当日、天堂家を訪れていたとの目撃証言が出たのだ。

 そこで施設にいる子供の長女、波留(はる)を呼んで確認したところ、栗山に会ったと認めたらしい。しかも一千万円入った袋を渡したのが実は彼女だと供述したのである。さらに事情聴取を行ったところ、波留がネットの闇サイトで両親の殺害依頼をしたと自白した為、騒然となった。当然東京での事件における被害者の息子、麦原陽一郎も取り調べを行った。だが彼は頑として認めず、一千万円の件や闇サイトの件は完全黙秘し続けているという。

 大阪の事件では関係者が亡くなっている為、捜査の続行は困難だった。その為波留の供述と彼女が所持していたスマホを分析し、依頼したと思われる闇サイトの捜査を行った。 だが結果は芳しいものが得られなかったという。というのもそれらしきサイトは発見されたが、検索履歴や依頼したメッセージ等のやり取りが一切残っていなかったからだ。

 どうやらそのサイトではメッセージが暗号化され、自動的に消えるアプリを使っていたらしい。有名なのはロシアで開発され、ウクライナ侵攻で双方が重宝している「テレグラム」である。これは他人にデータを盗まれても読み取れず、サーバにも保存されないので情報開示請求しても提供すべきものが残っていないという。

 今回使用されたアプリもやり取りが一定時間経つと自動的に消え、履歴削除される設定になっていた。その上画面の記録も残らないよう、スクリーンショット防止機能までついていたらしい。そこまで徹底されていた為、殺人依頼をした証拠が一切残っていなかった。あるのは当時十一歳だった波留の証言だけだ。

 しかも少年法により十一歳は概ね十二歳以上に含まれ、少年院送致の対象にはなり得るとはいえ、十四歳未満は刑事処分の対象外となっており罪に問えない。だが証言だけでは難しいとされ現在保留されていた。

 といって成人男性である麦原は何も語らず、また任意提出されたスマホの分析も波留と同様だった為、犯罪を立件できるだけの証拠が揃わない。よって捜査は暗礁に乗り上げたままとなっていたのである。

 関連していると思われる複数の事件の概要を把握した所で辻畑は納得した。

「あの記者が執拗に追いかけていたのは、自分の過去と繋がる点を見出したからだろう」

彼女の生い立ちを説明した上でそう言うと、尾梶も頷いた。

「そのようですね。しかしこれからどうしますか。警視庁等の捜査本部と連携を保つ役割を与えられましたが、書類を取り寄せ電話などでやり取りするだけでは不十分でしょう」

「もちろんだ。まずは直接警視庁に行き、詳細な情報確認すべきだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ