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帝国へ

帝国領内へ私は両の手を縛られ連れられる。

それに伴い帝国側から複数人の捕虜(ほりょ)が王国の領地へ移動する。


市民たちもこの騒ぎを聞き、

一部の市民たちが声を上げているようだったが、私の耳には聞き取れなかった。

(民たちに落ち着いた暮らしが約束されますように。)

晴れ渡る空に、いるとも限らない女神様を想い願いを込める。


やがて帝国を象徴とする(たか)の紋が入り、帝国色の青と白を基調とした煌びやかな馬車の中に誘導され乗せられた。

背もたれは板ばりになっておらず、クッションもふかふか刺繍に金糸のバラがあしらわれている豪華絢爛(ごうかけんらん)の作りは圧巻だった。


同乗するのは私を連れた若い兵士だ。

帝国の紋に、銀色の鎧を着ている。

群衆が見えなくなった時、「もういいですよね。」と兵士がポツリと話した事が聞きとれず、聞き返そうとした際手を縛られていたロープが切られ自由になる手を見て、

「なぜ?」と伺う前に兵士が話し始める。


「群衆の前では体裁(ていさい)を取り繕うため、女性の手を縛り上げてしまいました。申し訳ありません。もう自由に過ごしていただいて構いません。ですが、また群衆の目に晒される時はまたお手に触れる事をお許しください。」と仰られる。

「人質なのですから、このような手厚い扱いで良いのでしょうか。」

と伺うと

「これは皇帝陛下からの指示なのです。人質だろうと客人はもてなすべしとのお達しです。」と笑顔で仰られていた。

(帝国皇帝陛下とはどのようなお方なのだろうか...。)

(年齢は私よりも上で噂では大層な女嫌いで婚約者も持たないとか...。

私には関係のないお方だわ。)


帝国中央の首都トールへは明日昼の到着予定との事だった。

今日の行程は夕方にトールと国境との中間都市、キャンベランの帝国管理施設に宿泊予定らしい。

キャンベランからは早くても半日程度で到着するようだ。


「施設に泊らせて貰えるなんて、そんなに優しくしてもらえて良いのかしら?」

(まさかそこで置いていかれるのでは...?)

「え!? 逆に施設に泊らずに国境まで来たのですか!?」


ここまでの道のりを話すと、若い兵士が

「えぇーーーー!?」

「王城を出てから国境まで止まる事なく馬車の中で夜を明かしたですって!?あり得ない...。

それに水も食べ物もなかったと!?

自国の王太子様のご婚約者をそのような扱いとは...。」

反射的に驚いてしまったようで、その後「取り乱してしまい申し訳ありません。」と謝罪の言葉を伺うことになった。


キャンべランでは、客間と施設の侍女を用意され帝国色の青と白を基調とした品の良い家具やインテリアがあり、お風呂もありふかふかのベットで一夜を明かすことができた。疲れていたのか、夢を見ることもなくぐっすりと眠り明朝出発した。


昼頃には首都トールへ到着した。

馬車から降りる前には両の手を優しく縛られ、謝罪の言葉を受け取った。

降りると群衆が待ち構えており、群衆の真ん中を抜け長い階段をゆっくりと上がっていく。

皆一様に静まり返るほどの美貌(びぼう)を目の当たりにし仰天(ぎょうてん)している様子が見てとれるが、本人は全く自分の価値を認識しておらず他人事のようだったと見たものは語っていたそうだ。


ナルムには1室の部屋が与えられた。

景色の良い部屋で青と白と金色を基調としたデザインだった。

侍女は2人をつけていただいた。

侍女は弟と同じ年頃の双子の少女たちで、(たお)やかな笑みを浮かべている。

「お初にお目にかかります。私、ナルム・レクターニャ様のお世話係を務めさせていただきます。姉のリミエールと」

「妹のリミールでございます。」


「「よろしくお願い致します。」」


続けて姉のリミエールが話す。

「ここでの生活は私たちが常にお側に仕えさせていただきます。何なりとお申し付けくださいませ。また、お嬢様の護衛も兼ねております。」

2人ともメイド服を着用しており、髪は2人ともグレーで低めのお団子に整えられている。

姉のリミエールは侍女長を務めており左腕に金の腕章がついている。それ以外では見紛う(みまがう)程似た姉妹だ。 

「よろしくお願いします。リミエールにリミール。」

「お嬢様は、私たちに敬語を使われるなど勿体無いお話でございます。どうぞ軽いお気持ちでお話しくださいませ。」にっこりと妹のリミールが話してくれる。


そんなやりとりをした後、帝国皇帝陛下との謁見がある旨伝えられる。

湯浴みをして身なりを整えた後、金糸(きんし)でバラの刺繍が縫われているブルーのドレスを身につける。


「いつ用意してくださったのかしら...」

不思議とサイズがぴったりと着用できた。

そんな言葉を聞いて用意したのは皇帝陛下ですとリミエールがこっそり教えてくれた。

髪はリミールによりハーフアップにされ、リミエールによりメイクを施されると磨かれた宝石のような美貌を放つ。

「これは原石ね...磨けば磨くほど綺麗になるわ...腕がなるわね..!」と2人で何やら伝え合っているようだった。


数分後に、馬車で同乗していた若い兵士が軍服に身を包み「時間です。」と伝えにくる。

彼は一礼し、

「ご挨拶が遅くなりました。私シャイム帝国宰相(さいしょう)のロム・フリーと申します。よろしくお願い致します。」

ナルムも淑女(しゅくじょ)の礼で返し、

「まさか帝国宰相様とは露知(つゆし)らず。非礼をお許しくださいませ。」と続ける。


「とんでもございません。ナルム・レクターニャ公爵令嬢様。皇帝陛下より賜った任務により素性をお話する事ができませんでした。貴方様の器量を確かめ、王国スパイであった場合斬り捨てるよう命を受けておりました。ですが長い道のりに弱音も吐かずこちらにやってこられ、私のような物にも優しく声をかけてくださりました。ありがとうございます。」と笑顔で伝えてくださった。

先ほどまでの鎧姿ではなく、深い青の軍服に身を包み髪は燃えるような赤色のショートヘアに整えられている。

そのままロムに連れられ、皇帝謁見(こうていえっけん)の間へ通される。


重い重い扉が開き、周りには国の側近や大臣たちという顔ぶれの中心にある金の玉座の上に足を組んで座る男性の姿が。


一歩あゆみでて淑女の礼をとる。

「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。私、アーク王国より参りました。レクターニャ公爵が娘、ナルム・レクターニャと申します。」


低い声が鳴り響く。

(おもて)をあげよ。」


ゆっくりと皇帝陛下を仰ぎ見る。

黒く腰まであるような長い髪を、金の結い紐で束ねられている。

瞳は切れ長でまつ毛が長く繊細な金の瞳を縁取る。美しくも恐ろしいほどの大人の色気と美貌を持っており、思わず息を呑む。


「シャイム帝国皇帝の、カイラド・ヤシェクスだ。まずは長旅ご苦労だった。しばらくは旅の疲れをここにて癒すが良い。どんな理由であれシャイム帝国へ来るものは皆客人だ。お前たちもそのように令嬢を扱うように。」

一様にザザッと大臣たちが一礼をする様を見届けた後、ナルムは雰囲気に圧倒されながらも口を開く。


「私にはもったいなく、またありがたきお言葉にございます。皇帝陛下。」


「構う事はない。令嬢とは私も話をしたいと思っていた所だ。今日のところは旅の疲れがあるだろう。もう休んで良い。また明日宰相のロム・フリーに連絡させよう。下がって良いぞ。」


「承知いたしました。失礼致します。」

淑女の礼をし、宰相のロム・フリーと共に謁見の間から辞する。


そのまま自室へと戻り、再び湯浴みをし自室にて食事をとると侍女によって用意された夜着に着替え「おやすみなさいませ!お嬢様!」と笑顔でベッドに見送られる。


(いい匂いがするわ...。これはカモミールかしら...。)

アロマが焚かれているようだった。緊張をほぐすようにとリミールによって調合されたアロマでとてもリラックスした様子で今日1日を振り返る。


残してきた弟の事、今日お会いした皇帝陛下...。

そして見えてこない自分の未来。


(帝国にとっていらない存在になったら私はどうなる?殺されてしまう?王国への見せしめにされて。

私がここに来たということは、もう王国では婚約破棄の準備は進んでいるでしょうね。そうなったら私はどうするのかしら。)


そんな事を考えていると眠れなくなってしまった。すると外から笛の音が聞こえる。ベッドから出てすぐそこの窓から身を乗り出して音の原因を探る。


「とても、優しい音色。だけど、どこか悲しい...?」


ある場所を庭園の中に見つける。

広場のように中央に噴水があり、それを取り囲むように低木が植えられている。入り口にはドーム型に整えられたバラ園が見える。

その噴水に腰掛け、笛の音を鳴らしている者が1人いた。


「直接見に行きたいけれど...。私は人質の身。明日は我が身。ここで命がなくなるような事をしてはいけない...。」


興味を捨て去り、ベッドへ再び入る。

笛の音とリズムによりゆっくりとした睡眠に誘われ眠りに落ちるのだった。

まだまだ続きます!

お付き合いくださいませ。

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