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はじまりの日


(どうしてこんなことになってしまったのでしょう。)


飾り気のない馬車。座り心地の悪い椅子。板が剥き出しになった背もたれ。

ボロボロの馬車とは対照的に、美しいシルバーブロンドで絹糸のようなストレートヘア髪。光を跳ね返すような白い肌。全てを見通すような深い藍色(あいいろ)の瞳。憂いを帯びた表情。透き通るようなさくらんぼのような赤い唇。


彼女はここアーク王国の公爵令嬢(こうしゃくれいじょう)だ。訳あって野蛮な国と言われる隣国シャイム帝国に捕虜の交換として国に売られた。


所謂(いわゆる)、”人質(ひとじち)“だ。


なぜこんなことになったか...というと、時は数日前に遡ることになる。


隣国シャイム帝国とは、数100年前から小競り合いが続いており1年前から規模が大きい戦争に発展した。数100年で帝国軍は力をつけており、王国の国境付近を占領されてしまい王国側から休戦を申し入れた形で2ヶ月前停戦となった。優秀な部下を捕虜として捉えられてしまい、王国としては奪還するため動いていたが帝国から条件をつけられた。

その内容は、「捕虜は全員くれてやる。」「交換するのが条件だ。1人でも数人でも構わない。王国にとってなくてはならない人物を人質として寄越(よこ)せ」と知らせが届いたのだ。



白羽(しらは)の矢が立ったのはそう、アーク王国公爵令嬢完璧な淑女と呼ばれるナルム・レクターニャだった。対外的にはこの国の王太子リム・アーカイズとの婚約者だ。

なぜ公爵令嬢が?と思うのも無理はない。

指名に至ったのは王太子リムからの提案だった。

婚約を結んだのは幼少だったが、既に王太子には好みの令嬢がいた。だが身分が釣り合わなかったのだ。仕方なく婚約をリムは受け入れたが、彼女を愛することも見向きをすることもなかった。

あろう事か、王太子自ら学園内に酷い噂を流す始末。


王太子の婚約者は他の男と関係を持っている。

学園内の教師とも関係があり、成績もそれによって優秀なだけ。

公爵家ではいらない令嬢と言われているようだ。家族からは見向きもされないらしい。

リム殿下のお気に入りを攻撃したらしい。

などと学園内に流布した。


学園内では、噂を信じた生徒からの風当たりも強く居心地の悪いものであった。

だが、彼女は完璧な淑女たる教育を受けており感情を表に出すことはない。それが更に女学生の嫉妬を集め、標的にされていた。


国内ではリム殿下のお気に入りである、伯爵令嬢(はくしゃくれいじょう)サラン・カスティールを害したとして婚約を破棄し悪役令嬢の汚名を着せられ帝国へ売り渡すと公言されている。

外交的には王太子の婚約者を差し出すのだ。ここまで良い人質はいない。王家としても自らの子を差し出すより、身分の高い公爵令嬢を人質として差し出す方が都合が良い。

婚約は令嬢が帝国に着き、捕虜が帰ってきた時に破棄する事にしていた。

出立までは逃亡の恐れもあり、王城にて軟禁生活を強いられついに外に出た時には帝国行きの馬車へ乗るしか無かったのだ。


「誰も、見送りはいないのね。」

そうもらした彼女の声は誰にも届くことなく虚空にもれるのみ。

彼女にとっては家も学園も同じだった。両親は跡取りの息子、3つ違いの弟のレアス・レクターニャに執心しておりナルムに構うことはまるでなかったのだ。幸い、弟はナルムに対しとても懐いており時が許す限りは一緒にいた仲睦まじい姉弟であった。


馬車に乗り込んだナルムは、暇を持て余すように他人事のような自分の未来を憂う。


「私がいなくなっても大丈夫ね。レアスはとてもいい子だもの。お父様もお母様も悪いようにはしないはずだわ...。」


次第に夜の帳(よるのとばり)が下りる。グラグラと揺れる馬車でも自然と瞼は落ちるもの。国境付近にて人質との交換が行われる。到着は明日の昼前と聞いている。そんな事を考えながらすぅっと意識は夢の中に消えていった。


うたた寝をしながら夢を見ていた。走馬灯のように次々に流れていく記憶。

まだ幼い私に婚約者が出来たこと。婚約者には想い人がいたこと。

(これは...リム殿下との記憶?)


「お前を愛することは一生ない。これからもこの先も。」


「婚約者がいるのに、伯爵令嬢を伴ってパーティーに入場するのはいかがなものか。か?。笑わせるな。お前如きを伴うことなどないのだ。」


「私の人生の中での汚点はお前だ。名を呼ぶことも嫌悪感を覚える。」


「帝国は野蛮な国だと聞いている。皇帝の慰み者(なぐさみもの)にでもなれば良い。お前はそれすらにもなれないか。」


(私のことを嘲笑(ちょうしょう)する殿下の顔は、罪人でも見るようだった。)

(いっそ殿下と刺し違える(さしちがえる)べきだったかしら。今の状態なら生きていても死んでいても同じね。)



ガタン




大きな揺れがして目が覚める。


ふと外を見るとこの辺りは、先の戦いにより大規模な戦闘があった地域だった。思っていたより被害が大きく、視察に来た時よりも酷い有様だった。

(まるで荒野のようね...。ここで暮らす民は苦難が待ち受けているでしょう。私の力では何もしてあげられなくてごめんなさい。)

国の中枢や家族からは関心を持たれなかった彼女は、慈善事業に携わっていた。

もちろん王太子の婚約者ではなく、各地で一般市民にまぎれ炊き出しや家屋の修繕を行ったり知識を生かして農業や漁業の効率化を図り、民が豊かな安定した生活を送れるよう支援していた。質のいい野菜や魚を諸外国へ貿易のため加工して、日持ちするようにと知識や手順を授けたのも彼女だ。

今はアーク王国の一大産業になっている。


「次は民のための病院を建てようと思っていたのだけれど、それはもう叶わないのね。せめて皆様の安寧を帝国からお祈りするわ。」

ぽつりと出た彼女の声に応えるものはいない。


そんな事を考えているうちに、見えてくる聳え立つ(そびえたつ)国境壁(こっきょうへき)


御者から降りるよう伝えられる。


立ち上がり馬車の外に出る。


(いい天気だわ...)

(まるで女神の祝福が得られそうな心地がしてくる。...気持ちのいい晴天ね)

座り続きの彼女が外に出るには眩しすぎるくらいの太陽が照りつけており、ジメジメとした雨の季節とは思えないほどだった。


初投稿です。

よろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 振り仮名の使い方ちょっと不思議。そこつけるところなの?と思われる場所いくつかあるように思われます。 帝国が力をつけたのいつから?数百年前から小競り合いを続けていたならここ数十年のことな…
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