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メンマ


「お姉ちゃんとハルナさん!! 今日も私と三ピ――」


 バタンッ、力強い音を立ててわたしは家の扉を閉めた。

 ちょっと目をミリアに向けて見ると、ハッと息を吹き返したかのようだ。

 ハルナは「あの性格じゃ無ければな……」と顔を曇らせて嘆いていた。


「和傘、構えといて」


 流石の対応にミリアも疑問に思ったのか、理解が追い付かないといった表情をしている。

 ハルナは分かるとでも言いたげに頷き、ミリアにサムズアップしてみせた。

 ミリアは和傘を構える。わたしは唾を飲み込む。ハルナは胸を撫でおろす。

 もう一度わたしは玄関のドアノブに手を伸ばす。

 手を掛けようとしたちょうどその時だった。

 わたしとハルナは咄嗟に耳を塞ぐ。


「エルフ!! もしかして私の新しいセフ――」


 ミリアの和傘が火を噴いた。

 凄まじい発砲音。

 ずだだだだだだだだだ!! って、ライオンが咆哮するかのような。

 火花が弾けて空中で明滅を繰り返し続ける。

 朦々と立ちこむ煙の晴れた先、ミリアがまた嫌悪感マックスの表情で、目の前のダークエルフを引き気味に見ていた。


「及第点!! 今度はちゃんと手のひらで殴ってくるようにであります!! 女の子の生素手!! そっちの方が溜まらないでありますぅ!!」


 うねうねと身体をうねらせ悶える女の子。

 再び鼓膜を鳴り響かせる連続発砲音。


「この子、こんな性格じゃ無ければなぁ……」


「何割かハルナも肩を持っているでしょ」


「ちゃんと教育しない姉が悪い」


 やりたくない。面倒くさい。

 初対面でやるような自己紹介じゃないわ、本当に。

 ハルナが代わりにやればいいと思うわ。

 大きな二つのスイカをたゆんと揺らし、目先のダークエルフは達成感溢れる表情で腕を額に当てた。


「たはー、美少女からの熱烈な攻撃!! 何とも堪らないでありますなー!!」


「なっ、何よこいつぅ!?」


「申し遅れたであります!! 私はメンマであります!! お姉ちゃんと、日夜並々ならぬ熱き語らいを楽しみに生きているメンマで……あっつぅい!! お姉ちゃん!! 神の炎!! 神の炎出ているであります!!」


 申し訳ない、つい。

 我が妹ながらあまりの気持ち悪さに。

 条件反射的に炎出しちゃった。

 会話が伸びたら面倒くさくなるのに。

 メンマの言葉にミリア、ドン引きである。

 メンマはわたしの炎が消えるや否や、恍惚の表情で敬礼してくる。


「いきなり激しいのは困るであります!!」


「気持ちわる……」


 ミリアが放った心からの言葉。

 あえてわたしは無視する。


「ガトリング食らって、キリシマのカグツチも受けて、何でピンピンしてんのかほんと謎だよこいつ」


「メンマだし」


「その一言で終わらせるなって言ってんだよ!」


 どんな怪我を負っても場所が変わったら治るから、この娘。

 それが当たり前。当たり前なら受け入れないと疲れるだけ。

 どうせ考えたって無駄だって分かっているのだから。

 ダークエルフ特有のあり得ないほど大きな胸をバインバイン揺らすメンマを、ミリアは指さした。


「何この……何?」


「メンマ」


 答えようがない。

 ハルナにも聞いていたけど、同じ言葉しか返されていない。

 この娘といつもひとつ屋根の下で暮らしていると思うと、お姉ちゃん正直貞操が怖い。

 メンマは律儀に敬礼してもう一度自己紹介をしてくる。


「趣味は異世界からの薄い本漁り! 夢はお姉ちゃんと貝を——」


「頭ピンクか!」


「もしや今日は四人でやるでありますか!!?」


「だから頭ピンクか!」


「しかし世の中田舎での娯楽はセッ――」


「それしかないみたいに言うな!」


「しかし日本と呼ばれる蓬莱の国では日夜場所を問わず誰もが出会って即合体したり、服をズタボロにされて滅茶苦茶にされるのがトレンドだとか!!」


「創作の話だっつってんだろ!」


 ツッコミを入れるたびメンマの頭を叩くハルナ。

 恍惚の表情をしているから意味無いけどね。

 メンマの言葉を聞いていると、わたしもついぽろっと言葉を口にする。


「生まれた姿で登校とか、一夜の恋が義務の学校とかあるらしいわよね」


「やっぱり!!」


「事態を悪化させんな転生者が!」


 今度はわたしもハルナに叩かれた。

 創作物という意味では間違っていないけど。


「なにこの村……魔境?」


 とりあえず町外れにある無人の館に入り込むかのような面持ちのミリアに、わたしは早く家に入るよう急かす。

 しばらくここで暮らさなければいけないのだから、さっさと諦めてくれると助かるわ。

 いちいちフロォーしないといけないの面倒くさいのよ。


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