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勝手についてくるエルフ


 わたしの名前はスイ・キリシマ。

 転生前の名前はとっくに忘れた。

 高校、専門、就職とこれといって特筆するような人生を送ってこなかった、一般的でこれといった特徴のない普通人間だった。

 幸せといわれれば違う。

 将来の目標、やりたいことが見つからず、いつも何かから劣等感を感じながら日々業務をこなす。

 趣味を仕事にした日常だとか、胸を躍らせる体験に巻き込まれるだとか、邪神の作り出した生物に立ち向かっていくような大波乱な生活とは無縁な人生。

 人と交流することすら億劫になっていたわたしは、つまらない人間だと今でも思う。


 ひとりで歩く帰り道。

 ふと、柄にもなく自分の人生はこのままでいいのか。

 何か分からないけど特別な存在になりたいと年甲斐もなく思ってしまった。

 けど何かしら事件を起こせるような胆力を持ち合わせていない小心者のわたしは、車道に飛び出そうとする子どもを救う程度しかできなかった。

 そのことが原因で死亡。

 神様からカグツチを貰って、剣と魔法の異世界でダークエルフの女の子に生まれ変わった。

 けれど夢ややりたいことなんて見つからず。

 わたしはダークエルフとしての人生を受け容れて、性転換に抗うことも無く、波風を立てずに生活している。

 

 はっとわたしはトリップから帰ってくる。

 どうやらツタによる触手プレイが終わっていたようで、身体中の傷が完治していた。


「穢された穢された穢された。……グスッ」


「お疲れさん」


 わたしと同じく元男だったハルナは、グズルわたしの肩を叩いて慰めてきていた。

 確かに気力とか体力とかは戻ったけど。

 助けた代償がこれとはあんまりだと思う。


「それでなんなのさ! 君は!」


 わたしはへたり込むミリアに向かって問いかける。

 落ち着きを意識して。

 いつまでも泣いてなどいられない。

 状況を見ないと。

 わたしにした行為がどういうものなのか理解していないのだろう。

 ミリアはなんてことのない、さっぱりとした表情で答えを返してくる。


「だから、ウコン・ミリア・ミトコンドリアだって。そういうあんたたちは?」


「キリシマ。スイ・キリシマ。ダークエルフよ」


「ハルナ。ヤマ・ハルナ。おれはゾンビだな」


 ミリアは珍妙な顔つきとなって素直な感想を口にしてきた。


「変な名前」


「ウコンとミトコンドリアに言われたくねぇよ!」


 それを言ったらわたしたちは船なのよね。

 けれど、初対面に言う言葉じゃないのは確かね。


「それにあんた、喋り方変よ?」


「うっせぇほっとけ!」


 相変わらずツッコミが好きなハルナである。

 このハルナ、わたしと同じく前世が男だったから。

 性自認は今でも男だって。

 とりあえず、この娘と関わると碌なことになりそうにない。

 わたしは堅実で波風の立たない暮らしをしたいの。


「ハルナ、帰ろ」


「だな。今回ばかりはお前と同意見だわ」


 わたしとハルナは踵を返す。

 本当は果物を採取するためにここまで来たのに。

 もうここに居たくないわ。

 家。

 そこにわたしの安堵が詰まっている。

 わたしたちが歩き出すと同時、もうひとつ足音が聞こえてくる。


「そっちにあんたらの村があんの?」


「……なんでついてくんだよ」


「村から追い出された私はどこに行けばいいのよ」


「回れ右! お前が居るとおれまで村から追い出される」


 ハルナの言う通りだ。

 わたしたちは関係ない。

 どっかで勝手にエルフにでも見つかればいい。

 何ならゴブリンに捕まって精神を折られてしまえばいい。

 ミリアは意気揚々とした態度で声を張る。


「何よ。いいじゃない」


「よくねぇよ」


「ケチ」


 ダークエルフの村にエルフを入れたらどうなるのか。

 そもそもダークエルフとエルフは目を合わせた瞬間戦争するほど仲が良くないの。

 世界樹であり精霊樹でもある大木を中心として広がる、同じ大森林に住む種族同士なのに。

 過去に何のいさかいがあったのかわたしには分からないしどうでもいい。

 平穏無事に暮らしたいわたしにとってはそんなのどうだっていい。

 因縁を子孫にまで受け継がないで欲しいわ。


「一連のことについて詫びます。ごめんなさい。はいはい、これで良いでしょ」


 ミリアは手をフルフルと振って、しょうがないから謝ってやった感を出してくる。

 声や態度もほとんど謝罪の気持ちが込められていない。

 どのみちここで追い払っても勝手についてくるわね、この娘。

 不本意でも村に居れるとまずいの。

 わたしはハルナに目で合図を送る。

 あちらもわたしにひとつ視線を投げ返し、互いにダークエルフの村まで全力ダッシュ。

 これで少しでもミリアを放せると信じて。

 後ろを振り返ったわたしは表情に影を落とした。


「ちょっと、急に走らないでよ!」


 ……やばっ、意外にこの子足速いッ!

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