買い物
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
本作品は、作者の空想の世界です。
ドアンとレイは、商店街の裏通りにある冒険者ご用達の露店に向かった。
途中の中央広場は、道いっぱいに屋台が立ち並び、夕食時の喧騒が満ちている。
亜人や獣人が丸いテーブルを囲み、牛串肉や鳥股肉と発酵酒で、今日の無事を神に感謝し、祝杯を挙げ疲れを癒やしている。
城壁を修復する石工なのか、ドワーフたちの足元には泥シャベルが転がる。
エルフの吟遊詩人が、弦を弾いて、歌を奏でる。酒樽を椅子代わりにしていたグラスランナーが立ち上がり、吟遊詩人に合わせ、踊り始める。
酔いつぶれたのであろうか、テーブルに頭をゴンと打ち付け、イビキを上げる冒険者風の獣人がいる。テーブルの上に乗っている木製のカップは横倒しになり、中の液体が地面に水溜りを作った。地面に落ちた食べ物を狙い、野良犬・猫、果ては、兎や鼠まで集まり始めている。
中央広場の片隅に停められている荷馬車からは、酒樽や野菜入の籠、動物の足がはみ出している大きな革袋を屋台へと運び、新たな客のため、所狭しと折り畳みのテーブルを広げ、パラソルを広げる獣人女給が忙しげだ。
「賑やかで結構なものだ。」
ドアンは、肉の焼ける匂いやツーンとする酒の匂いに心惹かれ思わず口元を拭う。
しかし買い物が終われば、皆が絶賛するシャーゼの手料理と樽で用意された発酵酒が飲めると気を取り直した。
レイは、風の精霊:シルフを召喚し身に纏い、すでに十分に出来上がっている酔っ払いたちの悪臭から身を守っていた。
ランタンが釣れたポールが見えた。どうやら商店街の本通りに入ったようだ。
レイがはぐれないよう気にかけながら、活気に満ち賑わう人混みを掻き分け突き進んでいく。
周りから見れば、美少女のために道を切り開く猪のごときに。
宿屋を兼ねる酒場か、酒場を兼ねる宿屋か、さてどちらでも良いのだが、通りを歩く人々を色とりどりな服装の女性店員が客引きをしている。
店の中からは、甘い声の歌声や喧騒が響き渡る。そんな声の中にまぎれて。
「ドアン様、今日は寄っていかないのかしら?」と、ドアンに声をかける女性店員もいる。
「悪いの。買い物の途中で、買ったら依頼主に届けるから、また明日の。」
気乗りしないような様子で、誘いをかわしていた。
『くぅ〜、レイが居なければ、すぐにでも飲みたいの』
路地に入り、通りのランタン明かりが届かず、薄暗くなったころ曲がり、その先に露店があった。
ボロボロ絨毯の上に売り物だろうか商品が並び、不機嫌そうな鼻息の女性店員は貫頭衣を着て、耳を左右に向きを変え、三本の尻尾が揺れていた。
(狐の獣人のようだ。)
ドアンは、ひげを撫でながら露店の前で立ち止まる。
「必要な人数、必要な日数は?」
それを見て、最初の表情からは、とてもとても信じられない笑顔で女性店員は、声をかけてきた。
「四人で2日分だの。もちろん、新しく新鮮で、美味いやつを頼むの。」
ドアンは、金貨を一枚絨毯の上に置き、食料・水袋や宿泊用テント・寝袋と、それらを入れるバックパックを受け取り、バックパックに詰め込み、そして背負った。
「レイ、買うものは買った。お前さんが欲しいものは、なんじゃの。店が帰り道にあるのならば良いが、城門近くに行くのならば、時間があまりないの。」
「綺麗な色の石やクリスタルが欲しいわ。」
と、無表情の中に力強さを感じる。
「なら、これだね。」
二人の話を聞いていた女性店員は、どこからか取り出したクリスタルが着いたアミュレットを、絨毯の上に置いた。
「どのくらいの値段でしょうか。」
「鑑定や魔力感知すれば、わかるだろう。これは魔力を帯びているクリスタルなんでね。そこそこ値が張るんだよ。」
レイは常に無表情である。それを知らない女性店員は、値切り交渉のためのポーカーフェイスだと思った。
「魔力持ちか、じゃ相場だと金貨、一枚か、いや銀貨四十枚ぐらいかの」と、ドアンは、値切りの助け舟を出した。
「ドアン爺さんの見立て通り、銀貨四十枚で、売ってあげるよ」
と、女性店員は、微笑んだ。
「銀貨二十枚でわ?」
レイは、革袋の中身を思い浮かべて、値切り交渉を始めた。
「それじゃ。手間賃・材料費にもなりゃしないよ。最低でも銀貨三十枚だね。」
レイは、しぶしぶ革袋から金貨を一枚取り出し、お釣りとして銀貨を、二十枚受け取った。アミュレットを手に取りながら(お母様にお小遣いの無駄遣いと言われるかな?)と、呟いた。
だが、鑑定ができる者からすれば、魔道具を格安で手にいれたと言えるだろう。
アミュレットに埋め込まれたクリスタルの中に、戦乙女の精霊:バルキリーが封印されているのだから。暗闇の中、クリスタルが輝くのは、バルキリーの光によるものだ。
さて、それで気が済んだのか。
「ドアン、帰るわ。」
ドアンは、家へと人混みを掻き分け突き進んでいく。
その後ろでは、レイが無表情ではあるが、心なしか大好きな玩具を与えられ、子供のように微笑んでいる。
誤記は、気にしない。
◇◇◇
ハイランドでは、硬貨の価値は、このようになっている。
銅貨五十枚で、銀貨一枚。
銀貨五十枚で、金貨一枚。
金貨五十枚で、白金貨一枚。
ちなみに、ハイランドでの一般的な職業である城塞修復の石工職で、一日あたり銀貨二枚である。それを考えると確かに無駄遣いと言えなくもないが・・・。
◇◇◇




