そして、森へ
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
本作品は、作者の空想の世界です。
光と森の精霊力が強い深き森には、大きく区切られた3つの森がある。
西の森は、地脈から湧き出る魔素溜まりが多く、魔素が生み出す瘴気の霧に覆われることがあり、暗黒の地とも呼ばれる。魔素や瘴気を好むモンスターが生息しており、成人したエルフは、モンスターを討伐し『狩人』の称号を得たりする。
南の森は、森の中央には、世界樹が守護する山があり、その麓に龍脈がある。山から流れ出た湧き水が集まり、麓で川となり、エルフの里へと流れる。途中、川が龍脈を通ることで神秘なる力を秘め、弱いモンスターでは近づけぬ川となっている。里の者は、成人の儀式で世界樹にある祠に行き、光石(長く光を受けた石)を取ってくる習わしがある。
東の森は、別名、エルフ誕生の森とも呼ばれ、神々の力や精霊の力に守られているため、モンスターとは無縁である。狼の子を拾った場所でもある。
エルフは、子供が誕生すると、この森で動物や獣の狩り方や精霊の召喚方法など、生きるすべを教えていく。地脈から湧き出る精霊溜まりの近くには、いくつかの小屋が設けられ休憩ができる。
その東の森に今、レン、レイ、ライラの3人のエルフが来ている。ついでに、狼の子も一緒である。妹の狼の子は、深い眠りの中にあるのか起きない、家に置いてきた。
3人は、切り株に座りながら、雑談を始めた。
「ライラは、どうして私達の家に来たの?」
ライラは、空を見上げ、目をつぶり、質問に対し、語りはじめた。
ライラの故郷、ダークエルフの集落は、赤茶の風が吹く荒野を超えて、生物の侵入を拒む岩山に囲まれた中に森がある。その森は、唯一生物に生存が許された場所である。
森以外の場所は、井戸を掘っても燃える水が出て、飲むことができない。そして昼夜を問わず舞い上がる砂埃で大地は、やせ細り、作物の実りは期待できない。砂埃は、名前の由来となった灼熱の日差しが照りつける灼熱砂漠から吹いてくる。
灼熱砂漠の中央に、大地母神の神殿がある。といっても、砂漠の地下に神殿がある。エルダー・ドワーフが、ダークエルフの集落と大地母神の神殿を地下通路で繋いだため、行き来は比較的、楽に移動できる。だが、たまにサンド・ワームが通路を崩し、灼熱の砂が降り注ぎ、さらに砂に紛れた魔物化した大型のサソリなどに襲われる。
ライラは、神託のギフトを授かり生まれたため、幼いときより親元を離れ、大地母神の神殿で育った。厳しい環境でも生き残れる丈夫な体、魔物や他種族と戦うための知識、槍や盾の武具の扱い、そして巫女として、神聖魔法で傷ついたものを癒やす力を身につけた。
長寿であるエルフの成人儀式は、主に15歳、100歳と二回に渡り執り行う。それは、15歳で身体的成長が止まってしまうためだ。そして、100歳の成人儀式では、神々との繋がりを持つために行われる。ライラは、100歳の成人儀式で初めて神託を受けた。
『レンレイと言う一人のハイ・エルフ女性が、この浮遊大陸から人族が住む外界に降り立つので共に同行し助力しなさい』
大地母神の神託が、『外界へ行け』という過激な内容だった。そのため、神殿長や巫女長、集落の長は、屈強なダークエルフや冒険者パーティーを付けて、集落から送り出そうか、色々と思案した。しかし、レンレイという名前のハイ・エルフを探しに浮遊大陸の中央にある、エルフの集落に赴き、ライラに王族と相談したのち、行動するよう任せることにした。(言わば、世にいう、丸投げである。)
さて、ライラの話が長かったのか、話に飽きたのか、狼の子=ウォルフが、ふんふんと、レイの残念な胸を鼻で弄り始めた。
レイは、木の枝を拾って、ウォルフの鼻先に押し付け、匂いを覚えさせた。そして、近場に投げ、「取っておいで」と、声をかける。
ウォルフは、トテトテと、走っていき、枝を咥えて戻ってきた。なぜか、レンも一緒に枝まで走り、ウォルフのあとをついて戻ってきた。
レイは、レンの行動を見て微笑みを浮かべ、レンが捕りやすいように、もう一度、近場に投げて、「取っておいで」と、声をかける。
レンは、「はっ!」とした顔をしながらも、本能には勝てず、ウォルフより先に枝を手に持って、帰ってきた。
「レイ、ひどいよ、ウォルフの散歩は建前で、ハーフ・エルフを探す相談をするのでしょ!」
「そうね、ライラの話も聞けたし、信託通り、2つを1つにするわ。」
頭の上に、ぷんぷんと見える気がするほど、レンは、怒っていた。そして、ウォルフも。
俺の行動は完全に動物、犬だ。いや狼か。本能には逆らえない。ここは、ひとつ、人族の姿になって、「やぁ!どうも」的に、カミングアウトするべきか、でも狼の姿だからエロフに飼ってもらえるが、人だと流石に無理ゲーか。
レイの行動で、ライラの話が中断したタイミングで、レンは、ライラに今後のことを話す。チャンスと見た。
「ライラ、聞いて。実は・・・、あのダンジョンは、三つの生物を一つにまとめる装置だよ。」
レンは、神々が新たなる生命誕生、合成生物の実験で使用していたものと、ライラに話した。
「三つですか。二つではなく?」
レンの話を聞き、ライラは、レンとレイが神託に合わせて、一つになるのでは、と考えていたから、驚きもせずに質問した。三つならば、あと一つは、何が必要かを考えながら。
「間違いないよ。三つだよ。でね、実験してみよう!まずは、生物を三匹集めようよ。」
レンは、実験に成功したら、シャーゼやドアンに情報を公開するつもりのようだ。
「ここ東の森は、精霊溜まりに集う、精霊の加護で動物や獣しか、居ないわ。」
「そうだね、西の森で、モンスターを捕獲するために、三人で行ってみようよ。」
「危険が無い程度に行動しましょ。それと、元々ハーフ・エルフを探すのが、目的のはずです、あてはありますか?」
「う〜ん。集落は、ドアンが調査中よ。それ以外で、隠れられるのは、ここ東の森の小屋だけだよ?」
「そうですわ。小屋に居れば修行と捉えて、不自然に思われませんわ。」
レイは、風の精霊を召喚し、エルフがいる小屋を探すよう命じた。
シルフは、いくつもある小屋を一つずつ飛び回り確認するが、小屋に居るのは当然、エルフである。小屋を覗く、不審な精霊の姿に気が付かれない訳がない。
逆探知の精霊魔法で、召喚主の場所を突き止められ、次々にエルフたちに、なぜ覗くのか質問攻めにあってしまった。
大抵は、親と子で修行に来ているのに気が付き、今度は、シルフに一人でいるエルフ、または、エルフ以外を探すよう、命じた。
しばらくすると、精霊溜まりの北のばずれにある小屋に、エルフ?が一人でいると、シルフが伝えてきた。シルフは、レイの肩に座り腰に手を当て、ドヤ顔である。
双子のエルフとライラは、早速、その小屋に向かった。窓から小屋を覗くと、部屋の中央にテーブルと棚がある。そして、草色のローブを着た、黒ずんだ髪の少女が手に木製の飾りのない杖を持って、部屋の奥へと続くドアより出てきた。
部屋の棚と少女とを比べると、同じぐらいである。通常、ウッド・エルフやハイ・エルフは、棚よりも身長が低いことを考えると、長身のこの少女が探していたハーフ・エルフで間違いない。
レイは、レンの右手を握り、左手で小屋のドアをノックする。ドアには生活魔法で魔法の鍵が、掛かるようにできている。そのため中からドアを開けてもらう以外の方法が無い。
ドアが、ずーずーと音を立て、ゆっくりと内側に開かれ、耳の長い少女が顔を出した。
「あれ?あなたは、耳長族なのですか。」
レンは疑問を投げかけた。それもそのはず、ハーフ・エルフとは言え、エルフなのである。双子のエルフやライラのように、耳は短いはずである。またしても、ハズレを引いたのかと、顔を曇らせた。
レンは知らなかったが、エルフと掛け合わせる種族に寄っては短いとはかぎらない。
部屋に居た少女は、驚きながら、どもりながら、レンの質問に答えた。
「わっ、わぁ、私は、ウッド・エルフの母と、耳長族の父とのハーフなんです。」
少女は、レンに圧倒されながら、そう答えた。そして、何か重たいものでも引きずるように体を動かし、三人を部屋の中へと招き入れた。
双子のエルフやライラは、部屋を見回し、危険なものがないか確認した。そのとき、少女の足は、鎖につながれ、その先には大きな塊があるのが見て取れた。
「あなた、監禁されているわ、ね。」
「はっ、はい。」
レイは、少女の足に嵌められている足輪を見て、細い目をより細めながら、何かをつぶやき始めた。レイの肩に座っているシルフも同じように、何かをつぶやき始めた。
足輪には、いくつか赤く光るものが取り付けられている。
「ちょっと、レイ、足輪を外すのは良いけど、通報系魔法も無力化してよ。じゃないと監禁した人たちが、来ちゃうよ。」
レンは、レイの行動を見て慌てた。ライラにドアを閉めさせ魔法の鍵を施させてた。そして、自らは、窓から外のようすを伺った。ついでに、テーブルの上に置かれている果物に手を伸ばし、むしゃむしゃと食べ始めた。
少女はというと、状況についていけず、ただただオロオロとしている。
さて、俺は、先程の切り株に置き去りにされているのだが、どうしたものか。
レンは、果物を食べきってしまい、他に食べ物が無いか少女に聞こうとして、名前を知らないことに気がついた。
「いまさらだけど、私はレンだよ。いま、足輪の解呪を詠唱中なのが双子のレイだよ。あなた、名前は?」
「わっ、わぁ、私は、エノワです。」
「自己紹介が、遅れましたね。私は、ライラです。よろしく。」
「ライラさんも、エルフなのですか。それにしては、肌の色が他の方と違いますが。」
「ええ。私は、レンやレイと違い、ダーク・エルフなので違います。」
「ダ・ダ・ダークエルフは、邪悪なエルフと聞いていますが・・・。」
(エノワは、少し引き気味な顔になる。)
エノワの言葉は受け流し、少女について、質問をしていく。
「エノワ、あなたをこの世界に連れ込んだのは、私達、エルフより背の低い種族。亜人であっているよ、ね。」
「はい、あっています。私が両親と住んで居た耳族の保護区域に、獣人の幼女を攫いに来た、草原の民:グラスランナーです。彼ら攫った後に、人間に愛玩動物として売るのです。」
「獣人の幼女を愛玩動物か。でも幼女でもない、獣人でもない、エノワは、どうしてここいるのよ?」
「この世界の方が珍しい種族を欲している、とかで連れてこられました。」
「ハーフ・エルフは、あまり珍しくない気がするのだよ。」
「いえ、ハーフ・エルフではなく、ん〜どうも、ハーフ・耳長族みたいな?それに、ハーフ・エルフの幼女は、別の場所に連れて行かれました。」
エノワは、少し困った顔でそう答えた。
「ハーフ・・・、そっちか。エノワは、このあと、どうしたい、元の世界に戻りたい?」
「いえ、元の世界に戻っても攫いに来るのが無くならないと、また攫われるので、だったら、どこにいても同じかなと思い、この世界に居たいかも。」
「でも、元の世界には、両親が居るのでしょ。」
「・・・、私を守って殺されました。」
「ごめんね、そっか、ならば、私達と共にいましょうよ。(にやり)」
そのとき、ガチャ、足輪の外れる音に皆の視線が向かったため、レンの悪魔の微笑みは、誰も見ることはなかった。
「さて、誘拐犯が来ないうちに、逃げましょよ。」
「そうですわ、誘拐の件は、お母様に任せて、レンのお腹の音がうるさいし、森の入口にある喫茶店で食事にしますわ。」
ライラは、ドアの魔法の鍵を解除し、続けて、手乗りサイズのサラマンダーを召喚して警戒に当たらせた。
同じように、レイは、肩に座るシルフに警戒に当たらせる。
レンは、というとウォルフが居ないことに今更、気が付き「うおうお」との声で、お呼びをかけた。
誤記は、気にしない。