遺跡 そして、ゴブリン
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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
本作品は、作者の空想の世界です。
エルフの里から半日ほど、すれ違う人も馬車も居ない街道を休むことなく歩き続けて来た。
太陽は最初は後ろで明るさを感じたが、いまは正面から照りつけている。
途中から街道より外れ、ここ西の森へと続く獣道に入った。獣道とは言え最近は、その獣さえトンと通らなくなったためか、生い茂った草を踏みしめて、木の枝やむき出しの根で閉ざされた道を手斧で切り開き、進んでいく必要がある。
しかしおかしい。洞窟を発見した里の兵士たちか、冒険者たちが、先に着いていたはずである。こうも閉ざされた道なき道を進むのは、不自然である。
それもそのはずである。ダンジョンを発見したのは、エルフたちであり、木の枝から枝へ森の中を軽やかに移動したため、地べたを這うのは、ドワーフだけである。
ドアンは、頭から地面に届くほどの大きな背嚢と、体よりも大きな斧と丸盾を背負いながら、手にはハンド・アックスを持ち進む。
木の枝から枝へ森の中を身軽に軽やかに移動する三人のエルフを見上げて、愚痴を溢し始めた。
(いやレンだけ、双丘を上下にパフパフと揺らし)
「わしだけ、重い荷物を持って、地べたを進むのは、不公平というものだ。」
それもそのはずだ。四人の2日分の食料や宿泊用テント・寝袋をバックパックに詰め込み背負って歩いているのだ。重くないはずがない。
ライラ、レイ、レンのエルフは、耳だけをぴくぴくと動かしながら、ドアンの愚痴を聞き流した。なぜか、レンだけは鼻もピクピクと動かし唾液を飲み込んだ。レンの嗅覚で感じた匂いは、ダンジョンより風上に位置した場所で、獣を焼く、妖魔たちの食事の匂いであった。
丘へと続く道と森を抜ける道との分かれ道に差し掛かった際、四人は、地図を見て水袋を口に当て喉を潤した。道は合っている。レンが足元にある草、薬草や食用草を摘んで(採取)、まさに道草をくったが・・・。
西の森を抜けた先に、崖が崩れたために現れた洞窟の入口が、はっきりと見える位置に着いた。
ドアンは、早速ダンジョンへ入りやすくするために、土の精霊を召喚した。
ノームは、小人の姿となり、崩れた岩・土砂や草木を取り除き、草木を一箇所に集めた。
レンは、ダンジョン内を明るく照らすために、光の精霊を召喚した。ウィル・オ・ウィスプは、手のひらサイズの光の球体となり、レンの横に浮かんでいる。
レイは、ダンジョン前にある茂みで蛇を捕まえ、頭を小剣で切り落とし、胴体を裁き内蔵を取り出し、牙から毒を抜き小瓶に詰め、胴体は皮をべりべりと剥ぎ取り、近くの木に
血抜きのため吊るした。
ライラは、火の精霊を召喚し、腕を組んでダンジョンの入り口に立ち、あたりを警戒している。サラマンダーは、子犬ほどの燃え盛るトカゲとなり、ライラの背中にへばりついた。
ドワーフの横幅でも、エルフの身長でも、通れるほどの広さになったことで、ドアンとレンとレイの三人は、ダンジョンの中に一歩また一歩と進み始める。
ダンジョンは、入口こそ土や岩で出来ていたが奥に進むにつれ、レンガで作られ、さらには、継ぎ目のない一枚の石でできた壁や天井となり、それらが陽の光のように明るく発光している。その光に、ウィル・オ・ウィスプが吸い取られ、段々小さくなるのを見て驚き、慌て精霊界に戻した。
奥に進むほど道幅は広がり、天井が高くなり、ついに広いフロアへと辿り着いた。
フロアには、中央に丸い台座があり、台座の側面には石碑が埋め込まれ、長文の古代神語が刻まれている。台座を囲むように、床に丸い円が3つ描かれており、それぞれに、ヒエログリフか、もしくは何かの記号か数字のようなものが掘られている。
レンは、床に落ちていた手の平サイズの石板を拾い集めた。
そこに書かれているヒエログリフには、数字を意味する記号があった。
数字通りに並べて、ぶつぶつと何か呟き始めた。
レイは、壁に、はめ込まれている色鮮やかなクリスタルを、うっとりと目を細め眺めて、クリスタルに何か封じられていないか、取り外しができないか、と触り始め、時には、ダガーで壁を削り、時には、魔力を流して様子を観た。
それを見ていたドアンは、フロアに罠が無いか、床を丹念に調べ始めた。
台座の側面にある長文のヒエログリフを読んでいたレンが、突然にレイとドアンに話しかけた。
「この遺跡は面白いよ。でも、もう飽きた。刻まれているヒエログリフで判らないのは、覚えたから祖父様に教えてもらうよ。」
レンは、石板や石碑に飽きたのか、レイとドアンに調査は終了し、もう里に帰ると伝え、石板を革袋に詰め始めた。
「レン、もう少し言葉を選び、わかるよういいなさい。」
レイとドアンは、顔を見合わせ、さて、どうしたものかと、考えた。
「わかった。まずは外に出て、簡単な軽食と果実水で、休憩とするかの。」
「そうよ、レン。折角、里からここまで半日、ドアンは重たい荷物を背負い、歩いて来たのだから休憩しましょう。ここには何があるか。話して欲しいわ。報・連・相だわ。」
報告、連絡、相談、の略だが、どうしてレイが、それを知っているのかは不明である。
レンは思考を放棄し、ライラの待つ入口へと歩き出した。ドアンとレイも、それを追い駆け、あとに続く。
ダンジョンの外は薄暗くなり始め、沈み始めた太陽に照らされて崖にライラの大きな影を作った。揺らぐ影を面白そうに、サラマンダーが眺めていた。ときより炎の舌で影を舐めて。
レンは、再度、ウィル・オ・ウィスプを召喚し辺りを照らした。
召喚されたウィル・オ・ウィスプの球体は、パフパフな胸の回りを飛び、見事な双丘を地面に映し出した。
ドアンは、召喚し放置したノームに小さな穴を掘らせ、石で囲み、枯れ枝や落ち葉を入れ、焚き火を始めた。石の囲いの上に鍋を置き、水袋から水をなみなみと注ぎ、水の水袋とは別の発泡酒入りの水袋から一口、二口と飲み始めた。
レイは、風の精霊を召喚した。
シルフは、手乗りサイズの透き通る女性の姿で、あたりを飛び回り、焚き火から出る煙や匂いを散らさせ、敏感なモンスターたちに気が付かれないようにするためである。
「この森には、ゴブリンが居る。それにそれ以外にも何某のモンスターもおるの。」
「うん、さっきここへ来る途中に肉の焼ける匂いがしたから、ゴブリンがお食事して近くに居るよ。」
「はぁ〜レン、そういう事は早めに言うわ。私たちがダンジョン内に居るときに、ライラが襲われたら大変でしょ。」
「大丈夫よ。ゴブリンの二匹や三匹に、遅れは取りませんから!」
「ふぉ・ふぉ・ふぉ。心強いの。」
その時、茂みへと沈みかけた太陽の光を遮り、小柄な人型が立っていた。
ボロボロの革鎧を上身に付け、手には、泥付きのナタを持つモンスター、そう!ゴブリンだ。そのうしろにも、何体かゴブリンが見える。体からは、動物の排泄物の放つ異臭が漂い、口からは生臭い息が辺りの空気を穢す。
「グガー、ギャァ。」
獣か人族の赤子か、甲高い声が辺りに響き渡る。声の数からすると、三匹は居るのではないだろうか。
「言うそばから、ゴブリンどもだの。しかも、叫び声からすると仲間を呼んでおるの。」
「正面のナタを持つゴブリンは、ドアンに任せます。私は右を受け持ちます。」
「じゃぁ。私とレイは、左から来るゴブリンを潰すよ。」
それぞれ、得意とする武器(得物)を手に持ち、身構え、襲ってくるゴブリンと戦い始めた。
ゴブリンのナタをラウンド・シールドで受け止め、バトルアックスで頭に一撃を入れる。
顔から目が飛び出し、頭が割れ、血しぶきが、ラウンド・シールドに飛び散った。
ガン・グシャ、二回の音で、ドアンはグロく地面にゴブリンの血だまりを作った。
ライラは、牽制のため、サラマンダーに炎のブレスを吐かせた。相手が怯え動きを止め空きに、喉へとエストックで串刺しにした。
そして足でゴブリンの胸を蹴り、エストックを抜くと、盛大に血しぶきを上げ、倒れた。サラマンダーは、ゴブリンが持っていた棍棒を炎の舌で舐め、燃えるのを楽しんでいた。
レンが、ウィル・オ・ウィスプの体当たりで、動きを止め、レイが喉をレイピアで切り裂いた。体当たりしたウィル・オ・ウィスプは、役目を終えて弾け飛び消滅し、精霊界に戻った。
レイに向かって飛び散った血しぶきは、シルフが風の力で阻んだ。なぜか、シルフは、どや顔である。
さすがは、双子のエルフ、コンビネーションは、息ピッタリだ。
三匹のゴブリンは息絶えた。皆、即殺、圧勝であるが新たな、ゴブリンの叫び声、獣たちの咆哮が森や丘に響き渡る。段々と近づきつつある。
ライラは、気配察知スキルで、モンスターを探し正確な数や距離感の把握のため、気を辺りに広げ始めた。
ドアンは、倒したゴブリンの装備や持ち物を剥ぎ取りにかかった。
レイは、レイピアの血を布で拭い、刃こぼれがないか確認した。そのレイの肩では、シルフが、あくびをしている。
レンは、というと、いい感じに煮立った鍋に干し肉、次に木の実やキノコ、最後に麦と葉物(途中で採取した薬草や食用草)を入れ、木の匙で掻き回し始め、味見し、塩と胡椒を少々加えている。特製の麦鍋から立ち込める匂いに、満面の笑顔で!
レイは、血抜きの終わった蛇をそのまま鍋に放り込んだ。これで、いたずらの完成である。レンはレイを睨みつつ、鍋から蛇を取り出し、一口大に切り、もう一度鍋を煮詰める。
「気配察知で感じたのは、ゴブリンが二匹、ウルフが7匹、こちらに近づいている。」
「ウルフは、おそらく、フォレストウルフだの。この人数で7匹は厄介じゃの。背後が崖、ダンジョンとは言え、半包囲され波状攻撃されての戦いは、不利だのう。」
「大丈夫だよ。ゴブリンとウルフは仲が悪いから一緒には襲ってこないよ。」
しかし、通称:ゴブリンライダーというウルフに乗ったゴブリンが存在するので、仲が悪いこともないのだが、レンは知らなかった。
「レンは、能天気ね。ドアン、ノームにダンジョンの入り口に土壁を作らせ、朝まで待つのは、どう?」
「そうだの。朝までやることもないし、ふぉ・ふぉ・ふぉ。ダンジョン内で皆の武器でも手入れをして過ごすかの。」
早速、レイとレンは、手頃な木の枝二本でお鍋の取手を吊るし、ダンジョン内に持ち込み始めた。
ライラは、サラマンダーを精霊界に戻し、土を掛け焚き火を消し、その後を追う。
ドアンは、ノームにダンジョンの入り口に、二重の土壁を作らせ精霊界に戻した。
取り残されたシルフが悲しみながら、辺りを漂いレイの命令を待っている。
ダンジョン内に入ったあとは、三者三様というか、それぞれ好き勝手に始めてた。
レンは、必殺!食っちゃ寝を発揮した。
四人の2日分ある保存食と麦鍋を食べきり、ドアンから受け取った寝袋で、丸くなって朝までぐっすり、レイからの「ここには何があるか。」には、固く口を閉ざした。
レイは、よくそのような高い場所に空きスペースを見つけた、と、感心できるほどの位置に寝袋を持ち込む。そして丸まり、こちらも朝までぐっすり、いや途中でシルフが居ないことに気がついて、手元に引き寄せ、精霊界に戻したりはしていたようではある。
ライラは、大地母神に祈りを捧げ、静かに瞑想していた、おそらく、寝ては居ないと思うが・・・。
ドアンは、というと、一人楽しそうに発泡酒入りの水袋を抱えて、バトル・アックスやライラのエストック、レイのレイピアの手入れを行っていた。
砥石に垂らす水の代わりにエールを使い、刃を研ぎ始めた。流石、ドワーフ。
誤記は、気にしない。