始まり<3>
「誰が瑞希を…教えてください。お願いします。」
「そんな演技しなくても大丈夫ですよ。」
薫はそう、近江さんへ言い放った。
「え、何を言っているの?私は演技なんてしてないわ。」
「どういうことだ?」
桜月警部も疑問に思ったようだ。
「これは、僕の持論です。間違っている可能性がありますが、1つの可能性の話です。間違っている場合はしっかりと謝罪いたします。」
薫は、親しいもの以外の前で話す、推理の前に必ず言う定型文を言った。
皆、緊張しながら待った。
あるものは、間違って自分が名指しされる名ではないか、と
また、あるものは、犯行がばれるのではないか、と
そんな中、薫は名指しをした。
「犯人は近江さん。だと私は思いますよ。」
「ちょっと待て!彼女にはアリバイが…」
桜月警部は反論した。それもそうだろう。彼女はこの事件唯一アリバイがあったのだから。
「彼女のアリバイは崩せるよ。星井さんの…被害者の暑がりを知っていれば、ね。」
「それとどう関係が?」
「瑞希は暑がりよ、だからってなんで?」
「彼女は今くらいの暑さならエアコンをつける。このことは星井さんから直接聞きました。」
「今よりも涼しかったのでは?」
「だとしても5日前よりは暑かったですよね。」
「そうだけど……。」
「なるほど。」
おっ!桜月警部はわかったようだ。
「桜月、分かったなら説明してくれ。」
「間違ってたら訂正しろよ。
死亡推定時刻は、寒ければ遅く、暑ければ早くなる。しかも、エアコンを消して放置しておくとだんだんと常温になってく。だから少しずれる。」
「あってるよ。」
「そんなの私じゃなくてもできることじゃない!」
もちろん、反論した。しかし、薫には、まだ手札があるようだ。
「なら、何でいつものネックレスをしてないんですか?」
「それは…この服には合わなかったから!」
「高校でもつけていたのに?」
「署まで同行を願いますかな。」
確信を持った警部が動いた。
「……」
近江さんはうつむいた。言葉が出ないようだ。
そして、顔を上げた時、近江さんは笑っていた。
「さすが探偵さん。全てあってるよ。」
「何で?何で殺したの?」
「山崎さん!」
「なんで?復讐のためによ。
瑞希は…あいつは私の彼を殺したの!自殺だったわ。でも、自殺する理由を作ったのはあいつよ!
それに彼が自殺した後、あいつは私に向かってこう言ったの。“せいせいした”ってね!
偶然なら殺しはしなかった。でも確信犯だった。あいつは裁かれなかったわ。でも彼を殺したあいつが幸せに生きていくなんて耐えられない!だから、だから私が殺したの!私が裁いてやったの!」
「でも復讐するのは間違ってる!この後の人生はどうなる。」
「ありがとう探偵さん。でも、私はもういいの。」
そう言った近江さんは、あきらめたように笑った。
「さようなら。」
そう言った近江さんは血を吐いて倒れた。
「救急車!早く!」
混乱していたが、いち早く薫が指示を出した。
「救急車来ました!」
「薫!お前も乗れ!」
「おう!」
そして救急車の中で少ししゃべれるようになった近江さんは最後の力を振り絞って
「正解した…探偵さんに…いいこと…教えて…あげる…。」
小さくて薫にしか聞こえないようだ。しかも、桜月警部は1人の隊員と話している。
「私ね…悪魔に…身を売ったの……女の…悪魔にね…。」
薫は息をのんだ。そして言い終わった近江さんはだんだんと目が閉じようとしていた。
「おい、おい!!」
それに気づいたら声が出ていた。
「どいてください!」
そのあと懸命に処置するも心肺停止の音が鳴った。
そのあとすぐ亡くなってしまった。
その夜鈴木探偵事務所(探偵事務所兼自宅)には、2人の男女がいた。
「はあ~~。後味の悪い事件だった。あの人の死を止められないなんて。あの時と変われてないじゃん。」
そう1人目は、鈴木薫だ。
「薫君!ご飯できたよ~~。」
「お~。わかったよ美穂。」
2人目は鈴木薫の姪の高坂美穂だ。
「あっ!忘れてないよね。今週の土曜日に千陽と玲緒奈と私を遊びにつれて食って。
「あ~~。覚えてる覚えてる。」
「ほんとに?」
疑わしい目で見られていた。
「フフ。本当に楽しみ。また勝負しよ?」
そう言って部屋から出て行った。
つけっぱのパソコンの画面に薫の写真を残して。