始まり<1>
「すみません、鈴木探偵はいらっしゃいますでしょうか?」
そう言いながらドアをノックしている女がいた。
そこは聞いての通り探偵事務所だ。
「はいはい。依頼ですか?」
ドアを開けたのは、我らが主人公の鈴木薫だった。
「はい、依頼しに来ました。」
女は美人であった。しかし、汗をぬぐう仕草をしており暑がりだとわかるだろう。まだ5月後半だというのに。
それを見た薫は、
「どうぞ座っててください。今エアコン付けますから。」
「ありがとうございます」
「それにしても暑がりですね。自分の家ではどうしているんですか?」
そう、エアコンをつけながら言った。
「今ぐらいになってくるとエアコンをつけますね。来客が来てもたいていはそのまんまです。」
「そうなんですか。」
エアコンをつけ終わった薫は、依頼人の真正面に座った。
そして、
「お名前と依頼内容を教えてください。どれくらいの金額がかかるか聞いてから、正式に依頼するか決めてください。」
と定型文を言った。
「はい、私は星井瑞希といいます。
依頼内容は、ストーカーの対処をしてほしいんです。」
それを聞いた薫は
「警察には?」
「実害はないんです。」
「どう対処してほしいのですか?一時的なものなら恋人の振りが有効だと思いますが、それなら、友達などにお願いするでしょうし。」
「はい、できればそれはなしでお願いしたいんです。」
「そうですか、なら、具体的な金額は出せません。なので、依頼達成後相談ということで、よろしいですか?」
「はいお願いします。」
そう言いながら、星井さんは少し驚いていた。
「意外ですか?」
「えっ」
「驚いていましたから。“探偵”といっても雑用もしますよ。家は貧乏なんでね。」
「噂通りなんですね。」
「えっ、どんな噂!?」
次は薫が驚く番であった。
「フフフ」
「ゴッホン」
不利になった薫は、話題を変えた。
「できれば交友関係も知っておきたいですね。友達の容姿なんかも知っておきたいです。」
「今も関係が続いているのは、舞子ちゃんのみです。ほら、この子です。」
そう言って携帯の中の写真を1枚出した。
「これは高校時代のですね。」
「すみません、できれば今の容姿を。」
「アッはい。これです。」
「このネックレス、さっきもありましたよね。男物に似てますね。」
「えっはい。形見なんです。自殺してしまった彼の。それからは、いつもつけているんです。」
地雷を踏んでしまった薫は、また話題を変えた。
「それにしても星井さんはお綺麗ですね。」
「あ、ありがとうございます。」
「そんなにお綺麗なら彼氏さんもいそうですね。」
「いないから困っているんです。それに好きな人はいますし。」
「ほ~う、応援してますよ。」
「ありがとうございます。」
薫は微笑ましそうな顔をしていた。だが、何か忘れている。
「!携帯番号を教えてください。私の番号も教えておくので何かあったらここにかけてください。」
そう番号だ。聞かなければ連絡が取れない。危ない危ない
「はい。」
番号を書いてもらいそれを受け取った。
そして、
「では依頼が達成、もしくは達成不可能と分かりましたら連絡します。」
「はい、よろしくお願いします。」
そう言って星井さんは出て行った。
部屋に残ったのは薫1人のみだ。
「この依頼、嫌な予感がする。」
そう、つぶやいたのだった。