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自傷小説家

作者: 天兎クロス
掲載日:2021/05/09



「ねえ、――って作品知ってる?」


 それは何となく問いかけてみたものだった。

 

 友人に誘われ、一緒に食事をしている最中、私はふと思い立ち、友人に投げかける。


「なんだっけ、聞いたこと……あるような」


 問いかけた作品は、私が書いた小説で、人気が出て有名になったデビュー作。


「えっとね、こういうやつなんだけど」

「あー、あれね。――ちょっと前に流行ったやつだ」

「……。うん、そう、だね」


 パキンと心が折れる。

 

 何気ない一言。

 だけど、だからこそ私の胸に深く突き刺さる。

 

 華々しい栄光は、過去のもの。


 高校でデビューを果たして以来、ずっと小説のことを考えてきた。

 だけど、最近……何も書けないのだ。

 何を書いても、消してしまう。



 スランプだと気づくのに、そう時間はかからなかった。


 この食事だって、ほんの気分転換になれば……と思い、受けたもの。





「…………」


 友人と別れ、家に帰ると癖でパソコンの前に座ってしまう。

 でも、何も書けない。何も書く気がしない。


「…………」


 無言で机の引き出しから、カッターナイフを取り出す。


 カチリ、カチリと少しづつ刃を出していく。


「…………」


 それをじっと見つめる。

 そして、左腕に向けて……肌に少し突き刺す。


 情けなくて、みっともない自分。

 それを戒めるために私が取った行動は、『自傷』だった。


 自分で自分を傷つける、それはとても気持ち悪くて……少し心地いい。


 そのまま、心臓に近づけるように刃を動かす。

 血は出ないけど、ちょっと痛い。


 肌って意外と頑丈。


「ふふっ」


 ある程度のところで動かすのをやめ、出来上がった傷跡を眺める。


 ミミズ腫れして、赤くなった肌。

 けれどそれは段々と引いていき……一筋の赤い線になる。


 なんだか楽しくなって、もう一度カッターを取り出して、肌に突き立てる。


 何度も、何度も……自分を傷つけることを繰り返す。


「あ、血だ」


 さすがに限界なのか、つぅと血がたれる。

 ……興味本位でぺろりと舐めてみると、鉄臭くて、おいしくはなかった。



***



 ……『自傷』するようになってから、早一ヶ月。

 あれ以来、私は調子を取り戻し、デビュー作以上の作品を書き上げることができた。


 たまに、うまく行かないなーと思ったら、すぐカッターを取り出す。


 そして、嫌なことも全部忘れてまた執筆する。


 そうすることで、私はモチベーションを保つようになった。


 けれどそのせいか、


「痛々しい描写が増えましたね――か」


 編集や読者から、そう言われることが増えた。

 でも、別に悪いことじゃない。むしろより作品に深みが増していってる。


「さて、今日はどうしようかなー」


 ギチギチとカッターの刃で遊びながら、左腕に目を向ける。

 そこには無数の傷跡があり、自分のことながらとても痛々しい。



 ……でも、そうすることしか、私は小説家ではいられないのだ。

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