09 残す手段
「そういや彰人は部活やるの?」
お昼を食べ終わった僕に優斗くんが聞くが部活か・・・。中学の時や去年はほとんど参加出来ていなかったからどうしようか。
「うーん、出来ればやりたいけど・・・」
考えるがしっかりと参加出来るかわからず気が引けてしまう。答えが出ないため逆に質問を返す。
「優斗くんはなにか部活やってるの?」
「あー俺?やってはいないが・・・一応所属はしてる。」
「え?なになに?」
「写真部。」
・・・似合わない。なんて言っちゃいけないと思ったけどやっぱりイメージじゃない。
「幽霊部員だけどな。1年の時にどこか所属しなきゃいけなかったんだよ。でも最初の1日だけ行ってよく分からなかったからそのまま行ってないんだ。」
彼はそう付け足す。
「僕は文化部に入ろうと思うんだけど・・・。写真部にしてみようかなぁ。」
まだ他の部活を確認したわけじゃないけど、ふとそう思った。優斗くんも所属してるし、なんか「写真」に何かを残せるって良いと思った。
「マジ?所属しといてなんだけどあんまりパッとしなくね?まあ、取り敢えずは見学しとくのもありだと思うけどな。」
確かにせっかく部活をやるならしっかりとリサーチして楽しめるものに決めないと勿体ない。
「うん、そうしてみるよ。」
こうして僕は部活を始めることを決意した。
放課後になり僕は席を立つ。「よしっ」と気合を入れて写真部に行こう教室を出ようとしたけど・・・。
(そう言えば部室の場所知らなかった。)
そう思い、立ち止まっている僕に後ろから優斗くんが声をかけてきた。
「それじゃ行くべ。」
一緒に付いてきてくれるとは思っていなかったので確認する。
「助かるけどいいの?」
「いや、まあ言い出しっぺは俺みたいなもんだし部室の場所知らんでしょ。」
と笑って答える。「それなら部活一緒に出ない?」と聞くと「バイトあるから勘弁。」と断られた。
2人で教室を出てしばらく廊下を歩き別の棟まで移動すると人の気配が一気に少なくなった。部活に向かう生徒や帰宅する生徒の声、物音がかすかに聞こえており、教室とは別の世界に潜り込んだような気分になる。
先に歩く優斗くんがとある扉の前に立ち止まり「確かここだ。」と言って扉を開ける。部屋は準備室くらいの広さで中に人は居なかったが壁に沢山の写真が飾られていた。いくつか機材らしきものも置いてあり、部屋の中央の机には沢山の写真が重なって置かれている。机に近づいて写真を見ると風景や人物、動物など様々な物を収めていた。
壁に飾ってある写真もいろいろな種類があり、優斗くん「おお」と感心している様子だった。
「君たちは?」
写真を見ていると突然扉の前にいる男子生徒に声をかけられた。何か怪しむような視線を投げかけてくる。メガネをかけて真面目そうな人でネクタイの色から3年生だとわかる。
「あ、先輩。僕ら見学でーす。」
と優斗くんが答えると少し表情が和らぐ。
「なんだ、部活の見学に来たってことなんだね。あれ?でも2人は2年かい?」
「そうです。俺はこいつの付き添いですけど。」
優斗くんが僕を指さしながら応える。まずはあいさつをしなければと思い先輩に話しかける。
「こんにちは。転校してきた如月彰人です。」
「へー、転校生・・・。写真に興味あるの?」
先輩が僕に質問する。
「写真部の話を聞いて少し興味がありまして・・・。ここの写真を見せてもらってたんですけど凄いですね!動物の写真も風景の写真もすごく何かこう・・・絵みたいだったり、暖かみを感じるものがあったりして面白かったです。」
自分でも何を伝えたいのかよくわからなかったけどその反応を見た先輩は笑いながら。
「いいね。そういうフィーリング、大事だと思うよ。」
「でもカメラとかの道具は持ってないんですけど一眼レフみたいなカメラ用意しないと行けないですよね?」
そう質問すると先輩は首を横に振りながら。
「そんなことないよ。ちっちゃいデジカメとかスマホで撮ることもあるし。」
道具が良いものであるに越したことはないけどと付け足しながら。
「部室の備品もあるから使いたかったら申請してくれれば問題ないよ。」
どうやら始めるハードルはそこまで高くないようだった。
「一応、写真を撮る上で技術的なこともあるんだけど最初のうちは自分が『良い』と思った景色を写真に収めるのが良いんじゃないかな?」
そう言って棚を漁って取り出したデジタルカメラを僕に手渡す。
「どう?良ければ一緒に写真取りに行ってみない?」
優斗くんを見ると「俺は遠慮する」と表情で訴えかけてきた。
「僕やってみたいです!」
「よし、それじゃあ仮入部ということでぜひ体験してってよ。」
こうして僕は写真部に仮入部する事になった。3人で部室を出ると先輩に借りたカメラの重みが嬉しくニヤニヤしてしまう。
「それじゃ俺は帰るよー。」
優斗くんがそう言いながら少し駆け足で去っていく。
「うん!付き合ってくれてありがとねー!」
返事をするとこちらに手だけを振り返して帰って行った。部室前に先輩と僕が残り少しの沈黙。
「そう言えば僕の方が名乗ってなかったね。僕は橘司。この写真部の部長をやってるんだ。まあ、写真部と言っても殆どが幽霊部員で活動してるのは僕と時々くるもう1人くらいなんだけどね。」
橘先輩は苦笑いになりながら説明してくれた。
「だから、良ければ一緒に活動出来たら嬉しいかな。」
まだ他の部活を見たわけではないけど僕の中ではかなり写真部へ心が傾いていた。
「それじゃあ何でもいいから写真を撮っていこうか。」
そう言って先輩は自前の物らしき一眼レフカメラを持って歩き出す。僕は先輩の後に続きながらこれからの生活は思い出をしっかりと残していければいいと、ぼんやり思った。