08 気にする人は気にされる
席替えのあったLHRは終わり、本格的に授業が始まることとなった。
僕は新しい教科書を触りながらうきうきした気分で授業を受ける。去年は学校へ毎日行くことが出来ず病室で本を読んで過ごすことが多かった。だから、国語や歴史などの文系は自分でも割と得意な方だと思っている。逆に理数系の方は・・・可もなく不可もなくって感じかな。
最初には授業に付いていけるか不安だったけど午前中に受けた授業内容に関しては理解できている。前の学校と学習範囲は同じくらいなのだろう。
そして、昼休みになるとクラスの半分以上は教室を出ていき、残りは教室内で昼食を食べるようだった。僕はお昼持ってきていないので学食か買ってこないといけない。一応、購買と学食の場所は昨日赤羽さんに案内してもらって知っていたので席を立ちあがり昼食をどうしようかと考える。
後ろの席を見ると優斗くんが鞄の中から財布を出したところで彼も席を立つ。お互いに顔を見合わせると彼から話かけてきた。
「彰人は学食?購買?」
「んー、どっちにしようか考えてたところだけど・・・。優斗くんはいつもどっちなの?」
「俺は断然購買。学食ってくそ混んでんだもん。結構、購買とかコンビニで買って教室で食ってる人多いよ。」
と言うことは教室にまた人が戻ってくるということだろうか。ちらっと、赤羽さんを見ると友達と席を合わせて一緒にお弁当を食べるようだ。
「それじゃあ、僕も購買で買って食べようかな?お勧めとかあるの?」
「唐揚げが旨いんだけどあれすぐなくなるからな。まぁ、一緒に行ってみようぜ。」
「うん!」
そう言って返して2人で教室を出る。
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教室を2人の男子が出たところで彩が話しかけてくる。
「なんか彼、大丈夫みたいね。」
「如月くんのこと?後ろの席の人と一緒に出ていったみたいね。」
少しとぼける感じで私が返したものの・・・。
「如月くんね。お昼の準備してる時からチラチラ見て、しっかり気にしてるんだから・・・。そんなに心配なら声かけてあげれば良かったんじゃない?」
しっかり見てらっしゃった。
昨日、如月くんと一緒に校内を回ったときに購買とか学食の場所は案内したんだけど、ちらっと彼を見ると授業が終わっても席に座っているもんだからちょっと気になってしまった。
「もういいじゃん。そんな事よりお昼食べよ!」
そう言って話を打ち切ると彩もそれ以上は追及してこなかった。
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優斗くんと一緒に行った購買は激混みだった。結果から言うとしっかりと買うことは出来たが疲れた。足は踏まれるわ、押しつぶされそうになるわで困ったが、見かねた優斗くんが手を引いて助けてくれたおかげで無事生還。
教室へ向かいながら優斗くんにお礼を言う。
「ホントありがとね。購買ってあんなに混むもんなんだね。」
「いや、今日は混んでる方だったと思うぞ。まぁ、もっと混むときもあるがあれは特別だからな。」
どうやら今日よりも混むことがあるようだ。購買の話をしていると教室に着いたため思い切って優斗くんに提案する。
「優斗くん、よかったら一緒に食べない?」
「ん?ああ、ってかそのつもりだったわ。」
そう言って彼は笑う。
僕は自分の席まで移動し机を彼の席へ向けようと動かし始めると。
「ん。椅子だけこっち向ければいいんじゃね?」
と言って自分の机を叩く。どうやら、ここにお昼を置けば良いということらしい。
僕は言われた通り椅子だけを後ろへ向けて座る。
「そんじゃ、食べますか。」
「うん。いただきます。」
これまで誰かと食事をとる時にここまで近づいて食事した事はなかったからそわそわしてしまう。でも、なんだか嬉しい気分になった。思えばこっちに引っ越してきて誰かとご飯を食べるのも初めてだった。誰かと一緒に食事をするってそれだけで楽しくなってしまう。
「何、ニヤついてるんだよ。」
優斗くんは不思議そうに僕を見てまた質問を続ける。
「彰人って転校して来たんだよな?」
「うん。」
「赤羽と知り合いなの?転校して来たわりに結構初日から話してたみたいだし。」
「それがね・・・」
掻い摘んで春休みの話をすると。
「ははは。そんな事あるのな。ってか2人とも抜けてるな。落とし物に無くし物って、うっかりさんかっての。そんでもってクラスも同じとか。」
そう笑い飛ばしながら・・・。
「これは運命ってやつじゃないのか。」
冗談めかして言う。
「運命・・・。」
さすがにそれは・・・。でも、彼女にはお世話になりっぱなしだ。何か返せればとは思うけど何も思い浮かばない。彼女を見ながら何か恩返しできないかと考えていると。
「まぁクラスも同じだし何かあれば声けりゃいいだろ。」
優斗くんは僕と赤羽さんを見比べながらそう言ってパックのジュースを飲む。
・・・今思ったけど優斗くん、その『セロリジュース』って美味しいの?
彼の持つ飲み物が気になりつつも昼食を進めることにした。