06 運も実力のうち
今日は2日目の登校日。
まだ慣れない通学路上には昨日よりたくさんの桜の花びらが散っている。
昨日の放課後は赤羽さんに学校のいろいろなところを案内してもらった。自分一人では気づけなかったであろうポイントも多く見せてもらえて楽しかった。
それだけでなく、学校生活で何か新しい事をやってみたいという気持ちが強くなっているように感じる。
(これも赤羽さんに勇気をもらったからかな・・・)
蒼栄高校、2日目は登校初日よりもワクワクして始まった。
チャイム15分程前に教室に着くと半分と少しくらいのクラスメイトが登校していた。
教室の真ん中より少し窓際のところで赤羽さんと席に座った誰かと話している。
(あの人は・・・確か委員長の。)
名前までは出てこなかった。黒髪ショートボブの女生徒は落ち着いた、というより淡々とした印象の人だった。
(赤羽さんの友達かな?)
そう疑問に思いながら自分の席に着く。
クラスメイトは誰かと話している人が多く、唯一話ができる赤羽さんが隣の席にいないというだけで心細くなった。
何もせず過ごすにしても落ち着かないため僕はボケットからスマートフォンを出しネットサーフィンをしながら時間を潰していると。
「如月くん、おはよー。」
そう後ろから声をかけてくれたのは赤羽さんだった。
僕はスマートフォンをポケットにしまい。
「おはようござ・・・おはよう、赤羽さん。」
「あはは、無理しなくていいのに。」
敬語であいさつしそうになって笑われた。
「でも、昨日決めたから気をつけることにしたんだ。」
「うんうん、なんかいい感じだね。このまま、他の人とも話せるように頑張ろー。」
そう言ってくれたがちょっと自信がない。他の人とも同じように話せるようになるのはいつになるのか・・・
心の中で心配になりながら赤羽さんと話しているとチャイムの音が鳴り、少しして早川先生が教室に入ってくる。今日の1限目はLHRの時間だ。
一体何をするのかと思っていると先生が。
「それじゃ、今から席替えをやるぞー。」
そう言って上に丸い穴の空いたボックスを出す。席替えをするということでクラスの大半の人が喜んでいるようだったが僕はその言葉を聞いて動揺した。
(せっかく赤羽さんと話せるようになったのに・・・)
そう思っても席替えは着々と進む。
先生が黒板に席を模した表を作り、前の席を希望する生徒がいないか聞くと数人希望があったため前列が少し埋まる。それ以外の席にはランダムに番号を振り、番号分のクジを箱に入れる。
「それじゃあ・・・出席番号の最初と最後の2人は立ってジャンケンして。勝った方から順番にクジを引いてくぞ。赤羽、渡辺、起立。」
そう言って、2人が立つ。先生の音頭でジャンケンをする。
赤羽さんが負けた。
「よし。出席番号の後ろの方から順番に席クジを引いてくれ。」
先生が指示を出すと皆んなが順にクジを引き始める。教室内がざわついておりみんな落ち着かない様子。
僕はどこの席になるか心配で自分の順番が来るまでの時間を長く感じた。
自分の番になりクジを引くと『12』と書いてあった。黒板の席順と照らし合わせると窓際二列目、後ろから二番目の席だった。
位置的にはいいようにも感じるけれど・・・。そう思っていると赤羽さんが話しかけてきた。
「どうだった?」
「この後ろの席になったみたい。」
「そうなんだ・・・、こっちは窓際の方の席になったから離れちゃったね。残念。」
そう言って彼女が見せてくれた番号は『22』。廊下側から2列目の後ろから三番目の席だった。
「それじゃ移動しよっか。」
そう言いながら席を移動する赤羽さん。
僕は彼女を目で追いながらため息をつく。そして気付く。
(なんか、赤羽さんに頼りっきりだ・・・)
いつまでも同じ場所にいるわけにはいかないので自分の席に移動すると後ろの席から。ガシャガシャと何かが床に落ちた音がした。
「あぁ〜あ。」
そう言った後ろの席の主は床に散らばった筆記用具を拾う。僕の席の下まで転がったボールペンを拾い彼に渡す。
「こっちにもあったよ。」
「ああ、ありがとう。」
僕も拾うのを手伝い、立ち上がって手渡しながら聞く。
「これで全部かな。」
「ごめんごめん。結構詰め込んでたせいでこぼれ落ちちゃったわ。」
そう言って立ち上がった彼は僕より少し背が高い。けど、威圧的な印象はなく、声のトーンからも明るい感じがした。髪は少し長めで右に掻き分けた髪が右目にかかりそうな程。
「えっと如月だっけ?」
「え。」
なぜか名前を知っていた。
「ああ、俺出席番号2番だからさ。確か赤羽?と話してたでしょ。」
もともと席が近かったようだ。それで赤羽さんと僕の苗字を知っていたのだろう。
「俺は一木優斗。さっきは手伝ってくれてありがと。」
そう言って僕の肩を叩いてくる。
「それで、如月は?」
「え?」
「だから下の名前。」
自分が一木くんが自己紹介したのに自分がしていないことに気がついた。
「あ、僕は彰人・・・如月彰人。」
「それじゃ、彰人よろしくな。俺は優斗でいいから。」
一木くんはそう言ってくれたが急に名前を言う事は躊躇われた。
(でも・・・やるって決めたんだから。)
そう思い、なんとなく赤羽さんの方を見ると彼女と目が合った気がした。いや、隣の席の子と話しているようだし・・・。
「優斗くん、よろしくね!」
こうして、新生活の仲間が増えた。