05 見えない壁
登校初日も終わりの時間を告げるチャイムがなると更に学校全体が騒がしくなる。
教室ではすぐ帰る人、クラスメイトと話している人など様々。
僕はまず校内の保健室を確認しようと思い席を立とうとするがこの広い校内ですぐに見つけられるか不安に思った。
ふと、隣の赤羽さんを見ると左隣の席でスマートフォンをいじっている。
(優しそうな人だし・・・声掛けてくれたし・・・ちょっと聞くくらいなら。)
そう思うものの「相手に迷惑」「恥ずかしい」というようなネガティブな気持ちが湧いてくる。
(でも、先生とも約束したし。早川先生も気持ちを大事にって言ってたもんね。)
そう勇気を振り絞って赤羽さんに話しかけてみる。
「あ、あの・・・赤羽さん、保健室の場所ってわかります?」
何とか声をかけることが出来た。少し唐突だったかな?と心配していると顔を上げて。
「わかるよ。場所は隣の棟の1階奥にあるんだけど・・・」
そう話して少し考える様子。
「ちょっと待ってね。」
そう言ってスマートフォンを操作して何かを打ち込んでいる。少しすると。
「よし。それじゃ案内してあげるから一緒に行こっか。」
そう言って彼女は立ち上がる。
「え。」
戸惑う僕を見て彼女は笑いながら言う。
「だってまだ校舎の中がどんな風になってるかわからないんでだよね?それなら、一緒に回った方がいいでしょ。」
そう言って教室を出ようとする彼女に返事をすることなく着いていく。
赤羽さんの後に続くと昇降口を横切る。靴箱にはまだ多くの生徒が帰ろうとしている様子が見られた。
更に奥まで歩くと保健室の表札が見えた。扉の前まで行くと赤羽さんがこちらを見る。
「ここが保健室だよ。そう言えば保健室に用事でもあるの?」
質問をされたご自分の事を話すのは躊躇われた。
「ちょっと、どこにあるのかと思って。」
そして、2人で保健室に入ると誰もいなかった。中には白いベッドや白いカーテンがあり清潔感がある。保健室独特のアルコールの匂いが懐かしい。
「先生はいないみたい。中はこんな感じだよ。」
そう言って赤羽さんは僕に振り向く。
「ありがとうございます。すぐに見つけられて助かりました。」
「他にも見ておきたい所とかある?」
そう聞かれ、他の場所も見ようと思っていた事を伝えるか悩んだ。
(これ以上、付き合わせていいのかな。)
そう思いつつも・・・
「実は校舎の中を歩いて回ろうと思ってて・・・
良かったら他の場所も教えてくれますか?」
頑張ろうと決めた事や何より彼女が優しく頼りになった事が僕の背中を押した。
「もちろんいいよ。それじゃあどこに行こうかなぁ。」
「良ければ図書室の場所を教えて貰ってもいいですか?」
彼女には自分の気持ちを伝えやすくなった気がする。少し彼女に対する遠慮という壁が低くなった気がした。
「図書室OK!さっそく行こうか。」
そう言って赤羽さんは保健室を出る。後に続く僕は心の中で彼女に感謝をしつつ、学校で話せる同級生がいることをとても嬉しく感じた。
廊下を歩きながら赤羽さんが話す。
「そう言えば普段から敬語なの?なんか変、と言うかくすぐったいんだけど。」
そう笑いながらこちらを振り向く。
「ちょっと癖で敬語になっちゃって。」
それに対して僕は苦笑いを返す。
「無理に直さなくても良いと思うけどちょっと壁を感じちゃうなぁ。」
からかう様に彼女が言うがそれを聞いて少し考えた。
(さっき壁が低くなったって感じたけど・・・壁を作っているのは僕なんだ。)
前の自分と全然変わっていないみたいだと思いこれではダメだと感じた。
「気をつけてみるね。」
そう返すのがやっとだったが僕の返事を聞いて彼女は喜び。
「うん、その方がいいよ!」
そう言ってくれた赤羽さんの笑顔に目が離せなかった。こっちに引っ越してきてから1番心が踊っている気がする。
そう言えば先生も言ってたっけ。「誰かに近づきたい時は自分から近づくのが一番だと思ってね。」と。
なんとなく、自分が壁を作り距離を取っていたのを感じることが出来た。それが遠慮なのか気恥ずかしさからなのか、よくわからなかったけど・・・
「それじゃ案内よろしくね。」
そう言って小さく笑い合った。