02 心の陽気
「お母さん早く来ないかなぁ」
私、赤羽空はスーパーの前で母を待っていた。
今日は2人で買い物に出たのだが買い物が終わり、外へ出たと思ったら買い忘れに気づいた母はスーパーの袋を私に預けて小走りでスーパーへ戻って行った。
3月中旬という事もあり外は天気が良く陽の光が暖かい。時々吹く風が心地よく感じる。
これなら上着はいらなかったかな。そう思いながらスーパーの入り口を見るとお婆さんが立ち止まり、スーパーの袋の中を覗いている。袋の中身を確認しているようだ。
「あっ」
すると、突然袋の形が崩れ中身が地面に散らばり思わず声が出た。
近づいて拾うのを手伝おうとすると男の子がそのお婆さんに近寄り散らばった物を拾い始める。
年下?少し大人しそうな様子の男の子だった。
拾い終わるとお婆さんはお礼を渡そうとしているみたいだが男の子がそれを断って笑顔でお婆さんを見送った。
私が手伝った訳ではなかったけど少し心がほっこりした。
いい気分になってお母さんを待とうとするとさっきお婆さんと男の子がいた所に何かが落ちていた。
近寄って拾うと手帳型ケースに入ったスマートフォンだった。
ケースを開くと内ポケットに学生証があった。たぶん、さっきの男の子が落としたんだ。
そう思い、上着のポケットにスマートフォンを入れてスーパーの中に入る。するとカートを押しているさっきの男の子がいた。
私は見失わないようにさっそく男の子の肩を叩いて声をかけた。
「君、さっきお婆さんを助けてたよね?」
声をかけると男の子はすこし困惑した様子だった。
自分のスマートフォンを落としたことを知ると焦ったり、お婆さんを助けたことについて話すと恥ずかしそうな様子を見せたりと、表情がころころ変わって少しかわいい。
最後には少し大きな声でお礼を言っていて、その表情も少し恥ずかしそうな様子で微笑ましかった。
スーパーを出るとお母さんが待っていた。少し呆れた様子で。
「あんたどこ行ってたの。先に帰っちゃったかと思ったわ。」
「ごめんね。ちょっと、落とし物届けてただけ~。」
そう言って、少し浮かれ気分で歩き出す。
「どうしたの。何か良いものでも拾ったの?」
私の様子が違うと感じたのかお母さんが質問するが。
「ないしょー。」
私は何があったか答えずお母さんの少し前を歩きながら家へ向かった。
家に着くと荷物をリビングまで持っていきあとはお母さんに任せる。
自分の部屋に戻り上着を脱いでいると何か覚えのない物がポケットに入っていた。
「あっちゃー」
取り出してみると学生証があった。間違いなくスーパーで会った男の子の物だ。顔写真はなかったが名前が書かれている。
「如月彰人くんかぁ」
よく見ると聞いたことのない高校名が書かれていた。しかも、昨年入学してるみたいだから4月から高校2年生。
(年下だと思ってたら同い年のようだ。)
どうしたものかと思い高校名を調べると県外の高校で新幹線を使わないと行くのも大変そうな距離。
「これどうしよう・・・」
学校の連絡先は書かれていたものの遠い上に持ち主の連絡先が書かれていなかったので対応に困った。
階段を降りお母さんに学生証の事を相談すると。
「んー、本人の連絡先が分からないんだし交番に届けたほうがいいんじゃないかしら。」
とアドバイス。しかし、興味を持ったのか何故学生証を持っているのかしつこく聞かれた。