夜道
真っ暗な夜道を男が一人歩いている。歩みは遅く、しかも何処かフラフラとしており、彼が全くの健常ではない事は誰の目にも明らかであった。
車道を行く車のライトが男をまばゆく照らしだす。男は目を細めながら、しかし特別反応を起こすことはなく、ただ、歩みを進めていた。
疲労。その二文字が、男の肩にどっしりとのしかかっていた。彼は長い激務を終えたばかりであり、帰宅する途中であった。
男がこの様な遅い時間に帰宅の途に就くのは珍しいことではない。夕日のある内に会社を出ることの方が珍しいとさえ言える。
男の足を遅く、そして頼りなくさせている原因は疲労だけではない。彼の家にもあった。
男は独身であった。暖かく彼を見送った家が、すっかり冷たくなって、彼を出迎えるのだ。男には、それが酷い苦痛であった。
しかし、と男は考える。
果たして、結婚し、俺の細君となった女性が出迎えたとして、俺の歩みは早くなるのだろうか、と。
その答えは否であった。確かに最初の内は俺も心を躍らせて帰宅するだろう。しかし、それも長く続けば、生活の退屈の仲に埋もれてしまう。
男は失笑してしまった。その惨めさには笑うより他なかった。
そんな男を、二人の女学生が追い抜かした。彼女たちは、二人だけにも関わらず、姦しくおしゃべりをしていた。男は、その姿に、いかにも青春を生きていると言った生気が纏わっているのを見た。
俺にもああいう時期があったのかな……男はそう考え、少し懐かしい気持ちになった。
しかし、彼は自分の学生時代を思い起こし、暗澹たる気持ちになった。彼の青春には世間一般で言う青い春なんて物は存在しなかった。
学生時代の男は孤独であった。しかし、それが彼の日常であったために、彼自身は苦痛とは考えていなかった。むしろ、むやみに友人と共に行動しようとする人間を軽蔑さえしていた。孤独を尊んでいた訳ではない。ただ、一時の友情に自身の自由を投げ打つ程の価値を見いだせなかっただけだ。そんな彼にも友人と呼べる人物はいた。しかし、彼はその友人との交友を可能な限り少なくしようとさえしていた。勿論恋などはしなかった。
その時には感じなかった寂寥感が、女学生の生気に当てられた途端、男の胸の内にありありと浮かんできた。それと同時に、彼の今の孤独が彼の目の前にはっきりと姿を現した。
「やはり結婚をした方が良いのかな」
男はそう呟いた。
しかし、それが不可能であることは、男が誰よりも知っていた。
投稿したの何時ぶりですか?
そんな不登校生徒みたいな感覚。
舞台は冬の夜です。つまり今です。
冷たい空気に心も冷える。そこにカンフル酒酒酒。
体を大事に。
なんて言ってたら人間失格思い出しました。
酒をやっても薬はやるな。芥流水でございます。