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2話


『君もヒーローになろう!』


淳が見たサイトにはこんな怪しいうたい文句が書いてあった。

日本に6つある冒険者養成施設、そのうちの1つが人材の応募をしている広告だった。今まで色々な仕事のサイトは見てきたけど冒険者募集のサイトは初めて見た。

基本的に冒険者になるには専門の学校を卒業しなければならない。昔淳の通っていた学校も冒険者を育てるノウハウを持った学校だった。


なぜなら危険だから。


昔の人が調べたら冒険者の死亡率、冒険者になって一年後の生存率はノウハウを学んだものに比べ素人は40分の1らしい。圧倒的に差がある。


冒険者、俺も親友と昔二人で一緒になろうと約束したが今では親友だけがその願いを叶えていた。


昔の夢を思い出した、訳じゃないけどそのサイトでは住み込み式でお金もかからず厳しい条件もない。昔通っていた頃からは衰えたかも知れないがそれでも初心者に比べたら冒険者になれる確率も高いはずだ。それでいて冒険者になれれば一攫千金も夢じゃない。俺にとっては非常に魅力的に見えたのだ。




「何だか思っていたより堅くないね」

「どういうこと?」

「正直、誰も彼もピリピリして厳しいのかなって思っていたけど門の人たちも優しかったし、ちょっと拍子抜け」

「まだ油断は早いだろう。だけど、俺も軍隊みたいものを想像していたから」


一番乗りで施設に来た二人は門番の人に言われたとおりの控え室に向かう。男女で来た二人を門番がカップルかと勘ぐり一悶着起きたのは割愛しておこう。


建物はすぐに見つかった。七階建てで全体が見えないほど大きい。言われた控え室は建物に入ってすぐ右にあった。二人で控え室に入りしばらく待っていると待つことに飽きてきたのか二子が立ち上がる。


「長い!飽きてきたよ~」

「あと一時間ちょっとか、もうすぐだしもう少し待っていようよ」

「うーん、少し中を見てみたいかな~。今からここに住むんでしょ?ちょっとくらい中を見ていこうよ」

「それ、大丈夫か?あんまり動き回るのは良くないと思うけど……」 

「ほら行こう!淳」

「…はいはい」


控え室から出た二人はまずは建物の上に向かおうと階段を探す。こういう所は屋上だよ!とは二子の談。

階段を探していると何処からか二人の耳に何かを打ち付けるような音が響いた。


「何だろう?この音。聞こえる?淳」

「……棒かな、何かを打ってる音だね」

「あっちから聞こえる!」

「あ!急に走ったら危ないぞ」


いきなり音に向かって入っていく二子を追いかける。二子は建物の奥へ奥へと走って行き、追いかける淳も不安に思いながらも一人には出来ないと奥へと進む。


「ここだ」


たどり着いたの引き戸で閉められた扉の前。確かに部屋の奥から謎の音は聞こえてきている。


「二子、随分奥まできたから、注意される前に戻ろう」

「すいませーん!」

「えぇ!?」


ガラララ!


返事をする前に思いっきり引き戸開ける二子。止めるまもなく唖然とする淳。扉を開けた二子は中に向かって声をかける。



「あ?お前らぁ、誰だぁ?」



中には自分の身長よりも長い棒を持ったジャージ姿の男が一人立っていた。黒いショートカットに鋭い三白眼。一目みた二人が固まってしまうのも無理はない強面だった。


「あ、その…」

「あぁ?」


男、南里凪(なんりなぎさ)にとっていきなり入ってきた男女の二人組は邪魔者以外の何者でもなかった。

凪はこの施設における管理者の一人であり、日本でも数少ない上級冒険者の資格を持つ精鋭でもある。普通だったらこんな養成施設にいるような人物ではない。


しかし、前回の遠征時、予想以上の敵性生物の攻撃を受け生死を彷徨う怪我をしたため、その療養も含め一年間の教育係に任命されていた。


「あー、……そう言えば今日から卵の集団が来るんだったなぁ。お前らかぁ?」


凪自身、教育を馬鹿にしているわけではない。しかし養成施設には基本的には冒険者を育成できる学校に行けなかった、金銭的にも才能的にも恵まれない者たちが集まると言うイメージがあるため期待は一切していなかった。


「いきなり入ってきてしまってすいません。トイレを探してる最中に少し音が聞こえてしまって、気になり来てしまいました」


この施設の目的は金銭的に恵まれなかった才能有るものの発見。それと才能がない者を使える楯にするために鍛えることだった。


「おう、気にすんなぁ…お前もかぁ?」

「は、はい。急に入ってすいません。すぐに戻ります」

「いや、待てよぅ」


返事をした女の方。年の頃は15くらいか?年齢的に恐らく金銭的に恵まれなかったタイプだろう。


「……もしかしたらってのも有るかぁ?」

「えっと……」

「お前らぁ、二人とも入ってこいよぉ」

「「え!」」


曲がりなりにもこの施設で一年間の教育係を任された以上、手を抜くという考えは凪にはない。才能(面白いもの)が見れたらそれでよし、試すくらいなら問題は無いだろう。


「せっかくだぁ、俺はお前らの教育係を兼任してる南里凪。名前はなんだぁ?」

「ゆ、結城淳です」

「陸守二子です!」

「よし、淳と二子だなぁ。お前らぁ、かかってこいよぉ」


「「え?」」


「じゃあ二子、お前からだぁ。武器はそっちに転がっている奴、好きに使えばいいからなぁ」


いきなりかかってこいと言われた二人は混乱する。そもそもこの人いったい誰なんだと思う淳と武器を選べと言われた二子。動かない二子に凪が声をかける。


「お前らぁ、冒険者になりたいんだろ?安心しろよ、俺はお前らの目指す先にいるからぁ。お前らの才能、見てやるよぉ」


「……はい!」


冒険者になる。それだけは間違いない。二子も淳も自分のため、家族のために冒険者になりに来たのだから。


「よし、俺は反撃しないからぁ。一撃でも俺に武器を当てられたら俺の推薦で冒険者にしてやるよぉ。安心しろ、これでも権力はあるからよぉ」

「行きます!」


二子が選んだのは小刀。それも刃が普通の小刀よりも細い特注品のようだ。普通の刀のように斬るのではなく突くと言う戦術が基本となりそうだ。リーチが短い以上近づくことが余儀なくされるため初心者には扱いづらいと思う。


「へぇ、小刀ねぇ。しかも細身のかぁ」

「ふっ!」


まずは小細工なし。一直線に踏み込み避けづらい胴体に向かって突き刺す。これで当たれば御の字、かわされても速さが分かる!


「おっと、まぁ、素人にしては速いかなぁ」

「!?……っ!」


二子の突き出した刃は凪の持つ棒に受け止められる。受け止められた瞬間横に周りながらしゃがみ込み回転の勢いをつけては両足向かって振るう。

その一撃を凪は一歩後ろに下がってかわす。しゃがんだ体制から今度は凪の服を小刀を持っていない手でつかみに行く。凪が反撃をしないと言った以上少しでも小刀を当てればいいのですその方法は間違っていない。


「思い切りが良いなぁ。いきなり人に向かって刃突き出せる度胸も気に入ったぁ」

「しっ!ふっ!」

「そうだなぁ、服を捕まれたら動きが大幅に制限されるからお前の動きは間違っていないなぁ」

「くっ!……ふっ!」


しばらく動き続け、攻め続ける二子とそれでも捕まらない凪に、このままでは当たらないと判断したのか一度凪から離れる二子。開始からずっと動き続けたせいか大きく息が上がっている。


「お?諦めるかぁ」

「はぁ…はぁ……せ、せっかくですけど冒険者には、なり、たいんで…もう少しやらせて、貰います」

「……よし、来いよぉ」

「……行きます」


最初と同じ様に凪に向かい歩いて行く。最初と違い、走る力がもう無いのかゆっくり歩いて近づく。


「はぁ…はぁ…」

「…体力は、これからだなぁ」

「はぁ……はぁ…はぁ………っふ!」


「!」


ゆっくりと近づき凪の前で倒れ込むように崩れた二子が最初と変わらない、いやそれ以上のスピードで小刀を突き出す。

今までで最高の速さ、スピードの落差、さっきまでの攻撃はすべて最後の一撃のための布石。


パシッ!


「……驚いたなぁ。最初の一発も手加減してやがったのか。全ては最後に裏をかくためにぃ」


その一撃を凪は片手の指と指で挟み込む。真剣白刃取り、初めて見た。


「…………」

「まぁ、でも今回はお前の負けだぁ」

「…………くそ」


ガクッ


力尽き倒れる二子を受け止める凪。


「危なかったなぁ、聞こえてるか知らないが安心しろ。お前には才能があるよぉ」


そのまま二子を抱えて淳の立っている入り口近くのベンチに横にする。


「さて、次はお前だなぁ」

「よろしく、お願いします」


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