表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/20

貴女よりも可愛い私は乙女ゲームのヒロインとしてちやほやされるのがふさわしいので!!!

【Page1】


乙女ゲームのヒロインになりたい。

好みの美少年を侍らせたいしちやほやされたい。


常日頃からそう思った成果だろうか。

私は運良く乙女ゲームの世界に転生をしていた。


しかも、身分は主人公だ。

このピンク色のふわふわの髪にルビーのように赤い瞳。

天使のように可愛らしい顔立ちの10歳。

きっといずれは、前世の私に劣らないほどの美少女になる。


今は孤児院で暮らしているが、15歳の誕生日に貴族である父親が「実はお前は私の娘なのだ、可愛いロベリア」と引き取りに来る。

私はその日を、ずっとずっと楽しみにしているのだ。


私が機嫌良く鼻歌を歌っていると、同室のメアリーが「ローズさま、お掃除当番が…」と声をかけてきた。

メアリーは私と同じ孤児院の捨て子だ。

まあ私は貴族の血を引くヒロインで、メアリーはただの雑巾がお似合いの平民の捨て子だけど。


「誰に向かって口をきいてるの?ローズ様とお呼びなさいよ!」


私はメアリーの持っていたバケツを蹴り飛ばす。

メアリーのぼろいスカートはバケツの中の水でぐしゃぐしゃだ。


「だいたい、なんでこの私が掃除なんかしなきゃならないわけ!?あんたがぜんぶすればいいじゃない!まったく!」


ほんと、グズで使えない。


「でもローズさま、掃除当番はみんなが交代交代って神父さまが…」


「だーかーらー!それはあんたたち汚くて醜い馬鹿にお似合いの仕事でしょ!?私は貴族の血を引いてるの!わきまえなさい!また殴られたいわけ!?」


メアリーは「ごめんなさい」と言って、雑巾を持って行って部屋から出て行った。

ああ、はやく迎えに来てほしい。

こんな汚い部屋も、服も、可愛い私に相応しくないのに。


はあ、眠たい。

私はあくびをして、眠りについた。



----------


ガタガタ、とうるさい音がする。

私はのびをして、身体をベッドから起こす。

メアリーが、慌ただしく部屋を片付けていた。


「ちょっと、ねぇ、うるさいんだけど?」


私の声にメアリーが反応する。


「ローズさま…ごめんなさい」


「なんなのよ。片付けくらい明日にしてよね、私眠いの。あ、水くんできなさいよ。はやくして」


「えっ…と…」


いつもならすぐ動くはずのメアリーがおろおろし始めた。

いらいらする。


「ああもう!ぐず!」


私がメアリーを叩こうとした時。

大人がたくさん入ってきて地面に叩きつけられた。


「ロベリア様、ご無事ですか?」

「ああ、やはり孤児院は危険です」

「このものはどのように処刑しましょう?」


意味がわからない言葉がたくさん聞こえた。

ロベリア様と呼ばれたメアリーは「やめてください、ローズさまは私の友人なんです」と大人たちに必死に声をあげている。


なんでメアリーがロベリアと呼ばれるわけ?

私がロベリアでしょう?

ピンクの髪に、赤い瞳だって、私がロベリアだから。


私を抑える手が緩んだ瞬間、私は「どういうことよ!無礼者!」と顔を上げて、メアリーを睨んだ。


メアリーは、いつものような燻んだ灰色の髪ではなく、鮮やかなピンクの髪をしていた。彩度の高い赤い瞳が私を心配そうに見ている。


「ローズさま、あの、私のお父さまが、迎えにきたみたいで、それで私、まだ何も分からなくて、びっくりさせてしまってごめんなさい…!」


メアリーが何か言ってるが、それより髪だ。


「メアリーの髪…」


「髪が、どうか…?」


メアリーが困惑した顔をする。


「どうして!なんであんたが!私がかわいいのに!私はヒロインなのに!」


私は立ち上がってメアリーに近づく。

大人たちが剣を抜いて、メアリーが「やめてくださいみなさん」と言って、私の頭は首から落ちた。


メアリーの叫び声を聴きながら、鏡に見えた生首は、私がずっと目を逸らしてきた灰色の燻んだ髪色をしていた。



recommence



【Page2】


朝になり、目を覚ます。

部屋にある姿見には、孤児らしいぼろ布を見に纏った燻んだ灰色の髪の私が映る。


私は無意識に首を触る。


「まだ、繋がってる…」


一回死んだと思ったけど、よくわからない。


「でも、よくわからない事を考えても時間の無駄だわ。」


そう。どうでもいい。


私は鏡をじっと見る。

10歳らしい幼さはあるが、可愛らしい。

この私に相応しい美少女といえる。


「ローズさま…あのっ…」


部屋に入ってきた女を見る。

メアリーだ。15歳。

本名はロベリア。この乙女ゲームのヒロイン。

ピンクの髪にルビーの瞳。可愛らしい顔立ち。


「ねぇメアリー」


私の声にメアリーがはいと言う。

なにをしても鬱陶しい子。


「私、可愛らしい?」


「はい!ローズさまは可愛らしいです!孤児院で一番可愛らしいです!」


「ふーん…ま、そうよね!」


私はかわいい。かわいいから大丈夫。


「ねぇメアリー、あのね、井戸に水汲みに行きましょ?」


メアリーは孤児院近くの井戸に私を連れて行った。

道中に「ローズさまが水汲みに行くなんて、嬉しいです。なんでも私にきいてくださいね」と、少しお姉さんぶって言われたのが鬱陶しかったけど、時間の無駄なので殴らずに無視をした。誰が好き好んで労働するもんですか。


メアリーを突き落とすために決まってるじゃない。


井戸に着いてから、メアリーは「いいですか?バケツをここにかけて…」と説明し始めたので、私は少し距離を取り、思いきりメアリーを体当たりで突き飛ばした。


おちろ。おちろ。おちてしまえ。

かわいい私がヒロインになるの。


けれど、いくら待っても、メアリーが水に落ちる音がしない。そして、私が身体を使って突き飛ばしたメアリーの感触も消えない。


メアリーの声が上からする。


「あ、あの、ローズさま。どうしたんですか?」


はたから見たら私がただメアリーに抱きついてるだけではないか。


「なんでよ!このばか!」


むかつく。10歳の15歳の体格差のせいだ。


「ごめんなさい、ローズさま…あ、あの、甘えたかったんですか?」


「ちーがーうー!!!もう、いい!もう井戸なんか来ないんだから!!ばか!メアリーなんかだいきらい!」


メアリーが生きてるから、私がヒロインになれない。

頑張って外に出たのに。

このかわいい私がわざわざ外に出たのに。


私が地団駄を踏んでいると、メアリーは私の頭を撫で初めて「ローズさまはお貴族さまですもんね、ごめんなさい」と謝ってきた。あんたにあやされたって嬉しくない。



私がつんと顔を背けても、メアリーはばかなので、頭を撫で続けた。


----------


結局、メアリーが普通に井戸の水を汲んでから、二人で孤児院に戻るだけだった。

私はため息をつく。


孤児院は見慣れない大人たちでバタバタしていた。

神父さまがメアリーに「話がある」と言って、別室に連れ込む。私は部屋に一人きり。


また、メアリーは人生に成功して、私は失敗した。

なんで私ばかり。


私は部屋にある鏡を見る。

拾った石で、鏡を叩き割った。


ガラスの破片を手に握りしめる。

手からはぽたりと血が垂れる。


メアリーが部屋に入ってきて、ガラスでメアリーの顔を傷付けた瞬間。


また、私は首を切られた。


ガラスで顔を傷つけられたメアリーがびっくりした表情をしていた。



recommence


【Page3】


目を覚ます。首は繋がっている。

前回も、前々回も、大人たちのせいで私は死んだ。


だったら、先にメアリーを殺さなきゃ。

迎えが来る前に。


私は鏡を叩き割って、破片を手にして、部屋を出た。


「メアリーはどこ?」


色んな人に聞いた。

けれど、メアリーは孤児院の手伝いを頑張っているようで、移動ばかりで、すごく、足が疲れた。


私は足がくたくたになった。


「うう…もうやだ!!!なによ!!メアリーのばか!メアリーのばかあ!!!!だいっきらい!!!」


メアリーがぜんぶわるい。

せっかく殺そうと決めたのに、なんで会えないの。

もうすぐ夕方になるのに。


「お嬢さん、大丈夫かな?」


身なりの良い老紳士が私にハンカチを差し出す。


「大丈夫じゃないわよ!うわあん!」


私はハンカチを叩き落とした。

老紳士の周りの大人たちが「なんて無礼な!」「孤児のくせに!」と喚いていたが、老紳士が「まだ幼い子供だ」と手で制した。


「これをあげよう」


「なに…?」


老紳士が笑顔で差し出したクッキーを手に取る。

クッキー。お菓子。久々の甘味だ。

私はクッキーを口に含む。

はあ。口が幸せだ。


「なかなか良いお味ね!この私が褒めてあげるわ!」


気分が良い。美味しいって素晴らしい。

あとでメアリーに自慢してやろう。


老紳士は私に聞きたいことがあるんだが、と言って、1枚の絵を出した。ピンクの髪にルビーの瞳の美しい女性だ。


「私の亡き妻に生き写しの娘が居ると聞いた。お嬢さんはご存知ないかね?」


「ご存知ないわ」


どうしよう。メアリーの父親か。

このままじゃメアリーがヒロインになってしまう。

私がヒロインになれない。

私はかわいいのに。私のほうがかわいいのに。


私が警戒したように睨むと、「そうかい、ごめんね」と老紳士は微笑んで、孤児院の中に入ろうとして。


「ちょっと!?なんで入るの!だめ!!帰ってよ!」


神父さまに聞いたらメアリーが来るに決まってるじゃない。私がご存知ないって言ったんだから帰ってよ。


私が必死にブロックしても、なんなく避けられ、神父さまと話を始めた。


ああもう。


私は急いで自室にもどった。


「ローズさま、今日はお外にいたんですか?めずら」


「おだまりメアリー!!!いいから、逃げるわよ!!」


私はメアリーの手を引く。


「えっと、逃げる…?」


「そうよ、はやくして!だいたい、今日だって一日中探してたのに、なんで移動ばっかりするのよ!!ばかぁ!!ばか!!メアリーなんてだいきらい!!」


私はメアリーを泣きながら殴る。

メアリーは「ごめなさい」と謝って、「寂しかったんですか?」と的外れなことを言う。


私はメアリーの手を引いて、部屋を出ようとして。

部屋の外にはたくさんの大人たちがいた。


「ロベリア様!おお、奥様に生き写しの美貌!」「なんと美しい!」と大人たちが膝をつく。なんなのほんと。私のほうがかわいい。


ロベリアと呼ばれたメアリーはおろおろしていた。

そして、メアリーは実は貴族の娘であると言われ、孤児院から連れてかれた。



私はヒロインにまたなれなかった。


あれからもう5年経つ。


メアリーは20歳になり国の王子と結婚をした。


私は孤児院の手伝いをする15歳の平民。


こんなにかわいいのに。


もし、また私が死んだら、やり直せて、今度こそ私がヒロインになれるのだろうか?



recommence...?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] あきらめないローズが最高に強くてしぶといなと思いました。 そんなローズでも最初の転生では自分の姿から目をそらしていたというのも、なんだかリアルで共感できました。 ゲームの中に転生できたのに…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ