貴女よりも可愛い私は乙女ゲームのヒロインとしてちやほやされるのがふさわしいので!!!
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乙女ゲームのヒロインになりたい。
好みの美少年を侍らせたいしちやほやされたい。
常日頃からそう思った成果だろうか。
私は運良く乙女ゲームの世界に転生をしていた。
しかも、身分は主人公だ。
このピンク色のふわふわの髪にルビーのように赤い瞳。
天使のように可愛らしい顔立ちの10歳。
きっといずれは、前世の私に劣らないほどの美少女になる。
今は孤児院で暮らしているが、15歳の誕生日に貴族である父親が「実はお前は私の娘なのだ、可愛いロベリア」と引き取りに来る。
私はその日を、ずっとずっと楽しみにしているのだ。
私が機嫌良く鼻歌を歌っていると、同室のメアリーが「ローズさま、お掃除当番が…」と声をかけてきた。
メアリーは私と同じ孤児院の捨て子だ。
まあ私は貴族の血を引くヒロインで、メアリーはただの雑巾がお似合いの平民の捨て子だけど。
「誰に向かって口をきいてるの?ローズ様とお呼びなさいよ!」
私はメアリーの持っていたバケツを蹴り飛ばす。
メアリーのぼろいスカートはバケツの中の水でぐしゃぐしゃだ。
「だいたい、なんでこの私が掃除なんかしなきゃならないわけ!?あんたがぜんぶすればいいじゃない!まったく!」
ほんと、グズで使えない。
「でもローズさま、掃除当番はみんなが交代交代って神父さまが…」
「だーかーらー!それはあんたたち汚くて醜い馬鹿にお似合いの仕事でしょ!?私は貴族の血を引いてるの!わきまえなさい!また殴られたいわけ!?」
メアリーは「ごめんなさい」と言って、雑巾を持って行って部屋から出て行った。
ああ、はやく迎えに来てほしい。
こんな汚い部屋も、服も、可愛い私に相応しくないのに。
はあ、眠たい。
私はあくびをして、眠りについた。
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ガタガタ、とうるさい音がする。
私はのびをして、身体をベッドから起こす。
メアリーが、慌ただしく部屋を片付けていた。
「ちょっと、ねぇ、うるさいんだけど?」
私の声にメアリーが反応する。
「ローズさま…ごめんなさい」
「なんなのよ。片付けくらい明日にしてよね、私眠いの。あ、水くんできなさいよ。はやくして」
「えっ…と…」
いつもならすぐ動くはずのメアリーがおろおろし始めた。
いらいらする。
「ああもう!ぐず!」
私がメアリーを叩こうとした時。
大人がたくさん入ってきて地面に叩きつけられた。
「ロベリア様、ご無事ですか?」
「ああ、やはり孤児院は危険です」
「このものはどのように処刑しましょう?」
意味がわからない言葉がたくさん聞こえた。
ロベリア様と呼ばれたメアリーは「やめてください、ローズさまは私の友人なんです」と大人たちに必死に声をあげている。
なんでメアリーがロベリアと呼ばれるわけ?
私がロベリアでしょう?
ピンクの髪に、赤い瞳だって、私がロベリアだから。
私を抑える手が緩んだ瞬間、私は「どういうことよ!無礼者!」と顔を上げて、メアリーを睨んだ。
メアリーは、いつものような燻んだ灰色の髪ではなく、鮮やかなピンクの髪をしていた。彩度の高い赤い瞳が私を心配そうに見ている。
「ローズさま、あの、私のお父さまが、迎えにきたみたいで、それで私、まだ何も分からなくて、びっくりさせてしまってごめんなさい…!」
メアリーが何か言ってるが、それより髪だ。
「メアリーの髪…」
「髪が、どうか…?」
メアリーが困惑した顔をする。
「どうして!なんであんたが!私がかわいいのに!私はヒロインなのに!」
私は立ち上がってメアリーに近づく。
大人たちが剣を抜いて、メアリーが「やめてくださいみなさん」と言って、私の頭は首から落ちた。
メアリーの叫び声を聴きながら、鏡に見えた生首は、私がずっと目を逸らしてきた灰色の燻んだ髪色をしていた。
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朝になり、目を覚ます。
部屋にある姿見には、孤児らしいぼろ布を見に纏った燻んだ灰色の髪の私が映る。
私は無意識に首を触る。
「まだ、繋がってる…」
一回死んだと思ったけど、よくわからない。
「でも、よくわからない事を考えても時間の無駄だわ。」
そう。どうでもいい。
私は鏡をじっと見る。
10歳らしい幼さはあるが、可愛らしい。
この私に相応しい美少女といえる。
「ローズさま…あのっ…」
部屋に入ってきた女を見る。
メアリーだ。15歳。
本名はロベリア。この乙女ゲームのヒロイン。
ピンクの髪にルビーの瞳。可愛らしい顔立ち。
「ねぇメアリー」
私の声にメアリーがはいと言う。
なにをしても鬱陶しい子。
「私、可愛らしい?」
「はい!ローズさまは可愛らしいです!孤児院で一番可愛らしいです!」
「ふーん…ま、そうよね!」
私はかわいい。かわいいから大丈夫。
「ねぇメアリー、あのね、井戸に水汲みに行きましょ?」
メアリーは孤児院近くの井戸に私を連れて行った。
道中に「ローズさまが水汲みに行くなんて、嬉しいです。なんでも私にきいてくださいね」と、少しお姉さんぶって言われたのが鬱陶しかったけど、時間の無駄なので殴らずに無視をした。誰が好き好んで労働するもんですか。
メアリーを突き落とすために決まってるじゃない。
井戸に着いてから、メアリーは「いいですか?バケツをここにかけて…」と説明し始めたので、私は少し距離を取り、思いきりメアリーを体当たりで突き飛ばした。
おちろ。おちろ。おちてしまえ。
かわいい私がヒロインになるの。
けれど、いくら待っても、メアリーが水に落ちる音がしない。そして、私が身体を使って突き飛ばしたメアリーの感触も消えない。
メアリーの声が上からする。
「あ、あの、ローズさま。どうしたんですか?」
はたから見たら私がただメアリーに抱きついてるだけではないか。
「なんでよ!このばか!」
むかつく。10歳の15歳の体格差のせいだ。
「ごめんなさい、ローズさま…あ、あの、甘えたかったんですか?」
「ちーがーうー!!!もう、いい!もう井戸なんか来ないんだから!!ばか!メアリーなんかだいきらい!」
メアリーが生きてるから、私がヒロインになれない。
頑張って外に出たのに。
このかわいい私がわざわざ外に出たのに。
私が地団駄を踏んでいると、メアリーは私の頭を撫で初めて「ローズさまはお貴族さまですもんね、ごめんなさい」と謝ってきた。あんたにあやされたって嬉しくない。
私がつんと顔を背けても、メアリーはばかなので、頭を撫で続けた。
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結局、メアリーが普通に井戸の水を汲んでから、二人で孤児院に戻るだけだった。
私はため息をつく。
孤児院は見慣れない大人たちでバタバタしていた。
神父さまがメアリーに「話がある」と言って、別室に連れ込む。私は部屋に一人きり。
また、メアリーは人生に成功して、私は失敗した。
なんで私ばかり。
私は部屋にある鏡を見る。
拾った石で、鏡を叩き割った。
ガラスの破片を手に握りしめる。
手からはぽたりと血が垂れる。
メアリーが部屋に入ってきて、ガラスでメアリーの顔を傷付けた瞬間。
また、私は首を切られた。
ガラスで顔を傷つけられたメアリーがびっくりした表情をしていた。
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【Page3】
目を覚ます。首は繋がっている。
前回も、前々回も、大人たちのせいで私は死んだ。
だったら、先にメアリーを殺さなきゃ。
迎えが来る前に。
私は鏡を叩き割って、破片を手にして、部屋を出た。
「メアリーはどこ?」
色んな人に聞いた。
けれど、メアリーは孤児院の手伝いを頑張っているようで、移動ばかりで、すごく、足が疲れた。
私は足がくたくたになった。
「うう…もうやだ!!!なによ!!メアリーのばか!メアリーのばかあ!!!!だいっきらい!!!」
メアリーがぜんぶわるい。
せっかく殺そうと決めたのに、なんで会えないの。
もうすぐ夕方になるのに。
「お嬢さん、大丈夫かな?」
身なりの良い老紳士が私にハンカチを差し出す。
「大丈夫じゃないわよ!うわあん!」
私はハンカチを叩き落とした。
老紳士の周りの大人たちが「なんて無礼な!」「孤児のくせに!」と喚いていたが、老紳士が「まだ幼い子供だ」と手で制した。
「これをあげよう」
「なに…?」
老紳士が笑顔で差し出したクッキーを手に取る。
クッキー。お菓子。久々の甘味だ。
私はクッキーを口に含む。
はあ。口が幸せだ。
「なかなか良いお味ね!この私が褒めてあげるわ!」
気分が良い。美味しいって素晴らしい。
あとでメアリーに自慢してやろう。
老紳士は私に聞きたいことがあるんだが、と言って、1枚の絵を出した。ピンクの髪にルビーの瞳の美しい女性だ。
「私の亡き妻に生き写しの娘が居ると聞いた。お嬢さんはご存知ないかね?」
「ご存知ないわ」
どうしよう。メアリーの父親か。
このままじゃメアリーがヒロインになってしまう。
私がヒロインになれない。
私はかわいいのに。私のほうがかわいいのに。
私が警戒したように睨むと、「そうかい、ごめんね」と老紳士は微笑んで、孤児院の中に入ろうとして。
「ちょっと!?なんで入るの!だめ!!帰ってよ!」
神父さまに聞いたらメアリーが来るに決まってるじゃない。私がご存知ないって言ったんだから帰ってよ。
私が必死にブロックしても、なんなく避けられ、神父さまと話を始めた。
ああもう。
私は急いで自室にもどった。
「ローズさま、今日はお外にいたんですか?めずら」
「おだまりメアリー!!!いいから、逃げるわよ!!」
私はメアリーの手を引く。
「えっと、逃げる…?」
「そうよ、はやくして!だいたい、今日だって一日中探してたのに、なんで移動ばっかりするのよ!!ばかぁ!!ばか!!メアリーなんてだいきらい!!」
私はメアリーを泣きながら殴る。
メアリーは「ごめなさい」と謝って、「寂しかったんですか?」と的外れなことを言う。
私はメアリーの手を引いて、部屋を出ようとして。
部屋の外にはたくさんの大人たちがいた。
「ロベリア様!おお、奥様に生き写しの美貌!」「なんと美しい!」と大人たちが膝をつく。なんなのほんと。私のほうがかわいい。
ロベリアと呼ばれたメアリーはおろおろしていた。
そして、メアリーは実は貴族の娘であると言われ、孤児院から連れてかれた。
私はヒロインにまたなれなかった。
あれからもう5年経つ。
メアリーは20歳になり国の王子と結婚をした。
私は孤児院の手伝いをする15歳の平民。
こんなにかわいいのに。
もし、また私が死んだら、やり直せて、今度こそ私がヒロインになれるのだろうか?
recommence...?