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赤い桜の雨


3020年の冬。


レリアは東京を歩いていました。


東京は日本で一番人間がたくさんいる都市です。

東京以外の都市は、人間よりも信号機のほうが数が多いですが、ここ東京は唯一信号機よりも人間の数が勝っています。


そのため、多数決を重んじる信号機たちに唯一対抗できる重要な都市です。


レリアの故郷は信号機たちの多数決により人間は水中から出てはいけないことが法律で定められたため、水中で生きていけないレリアは今日から東京で暮らすことになりました。



レリアは新しい家の大家さんに挨拶をします。

スカートの裾を摘んで淑女の礼を取りました。


「こんにちは。今日からこちらでお世話になります、佐藤レリアです」


「それで家賃は何をだせるんだい?」


「そうですね、秒針はいかがでしょう?」


レリアは宝石箱をぱかりと開き、中にある秒針を見せました。


「秒針?それが秒針なんて証拠はあるのかい?分針が秒針ふりしてわたしを騙そうったて、そうはいかないよ」


大家さんは警戒したようにレリアを見ます。


「では大家さん、私に時間を聞いてみてください」


レリアは苦笑します。


「ふん。今は何時何分だい?もちろん、秒まで答えるんだよ」


「現在は午後4時59分3秒…4秒…あ、今5秒になりました」


大家さんは目を見開きます。


「秒針じゃないか!!!」


「本物ですから」


「そうかい、そうかい。よくきたねぇ。」


大家さんは秒針を貰ってご機嫌です。

秒針を渡し、レリアは今が何秒か分からなくなりました。

けれど、時間と分がわかるから、問題はありません。


新しい家に無事家賃も納めたので、レリアは近くの商店街に夕飯の買い出しに行くことにしました。



商店街の入り口の信号機がレリアを見て赤いランプをちかちかと照らします。

レリアは止まったほうがいいのかしらと少し悩みましたが、気にせず商店街に足を踏み入れました。


商店街の魚屋さんの店長がレリアに近づきました。


「新入りだな。人間か?信号機か?」


「人間です」


「じゃあ人間だな」


魚屋さんはレリアにマグロを渡しました。

レリアはマグロを受け取ります。

マグロはレリアの腕の中でびちびちと跳ねながら口をぱくぱくしています。


マグロは水の中でしか呼吸ができないから、陸では生きていけないのです。

レリアは、水の中で生きていけないから東京にやってきた自分と、このマグロは似たもの同士だと思いました。


「あなたが私だったらよかったのにね」


レリアがぽつりとつぶやきます。

マグロは酸素を求めてびちびち暴れます。

やがて、マグロは微動だにしなくなりました。

レリアは目から溢れる涙をハンカチで拭きながら、魚屋さんに、マグロの美味しい食べ方を聞きました。

今日の夕飯のメインディッシュはマグロのミディアムレアフライに決まりです。

レリアは動かないマグロを抱きしめて、商店街を進みます。



商店街の八百屋さんに近づきます。


「いらっしゃいま…くさいな!?」


店長はレリアの生臭さに耐えきれず、店の奥に逃げてしまいました。

レリアは少し悲しい気持ちになりました。


八百屋さんではおいしそうな野菜がダンボールに入っておとなしくしてます。

小さな野菜が何かひそひそ言い出すと、大きな野菜たちが「静かに。私たちは商品だよ」と堂々とまとめています。

店長がいなくなってもおとなしいなんて、さすが東京の野菜だなとレリアは感心します。


「すみません、夕飯の材料を買いにきたのですが」


「愛らしいお客様。メニューはお決まりですか?和食でしたら、わたくしのおひたしなどいかがでしょう?」


大きなほうれん草が返事をします。

美味しそうです。


「ええ、じゃあ貴方をいただきます」


「はい。98円になります。貴女のような素敵なお嬢様に食べていただけるだなんて、光栄です。」


ほうれん草が甘く囁きます。


レリアは100円玉をギュッと拳で握ります。

そしてほうれん草に微笑んで、砕け散った100円玉から98%の分をレジに起きました。


マグロを抱えて、ほうれん草を背負って、レリアは商店街を進みます。


商店街の肉屋さんが視界に入りました。

肉屋さんの店長がレリアに話しかけます。


「肉!!!肉はどうだい?」


レリアは困りました。

マグロがメインディッシュなので、肉は買う予定がなかったからです。


けれど、肉屋の店長は肉切り包丁を10本の腕に握って、店には人間の死体がたくさんあるのです。あまり、怒らせたくはありません。

上手く言いくるめるしかないです。


「今日はもう決まったので、よければ明日に…」


レリアがいい終わらないうちに、店長は近くの人間を一人肉に変えました。

レリアの小さな企ては無残に打ち砕かれます。


「すまんな。聞こえなかった。ふふ肉は?肉はどうだい?」


レリアは、マグロが死んだときとは別の意味で泣きたくなりました。

マグロをギュッと握ります。

見かねたほうれん草が背中からにょっと葉っぱを出しました。


「まあまあ肉屋の店長さん。彼女は今日が初日なんだ。見逃してあげてくれないかい?」


「…」


肉屋の店長は何も言いません。

肉屋なので、肉以外と会話する気はないようです。


ほうれん草はレリアに謝り、レリアは気にしないでと答えました。


こうなったら仕方がないです。

夕飯メニューに肉をいれるしかありません。



レリアはため息をついてから、肉屋の店長を息の根が止まるまでマグロで殴りました。

店長の血肉がまるで赤い桜のように飛び散ります。やがて店長の解体が終わります。

レリアは血塗れのマグロを抱えて、ほうれん草を背負って、肉屋の店長の肉塊をずるずる引きずりながら、新しい家に帰ります。


今日の夕飯はマグロのミディアムレアフライとほうれん草のお浸しと肉屋の店長のハンバーグです。



End.


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