あがのれさ
少女は地下鉄から降りて、改札口から直結のデパートの中に入りました。
少女の名前はレサ。腰まで伸びた長い金髪に、赤いワンピースと赤い靴が鮮やかな12歳の少女です。
デパートは地下一階で、化粧品の店がたくさんあります。真っ直ぐ進めば地上へ上がるエレベーターのとびらがありますが、レサは化粧品が気になっていました。
エレベーター前の化粧品の店は、白いふわふわのソファーと色とりどりの花が印象的です。エレベーターから見て右にも左にも、この店のエリアがあります。
レサは、左のほうには先客がいることに気が付いて、いそいそと右のほうに近づきました。レサが近づくと店員のお姉さんもスッと近づいてきたので、一定の距離をキープするよう小走りで、店内の化粧品を眺めます。
並べられてる綺麗な小瓶は様々な色の液体が入っていて、一つづつ、魅力的な香りがします。
「お客様。よければ試されますか?」
店員のお姉さんがレサに話しかけます。
「お願いします」
レサはお姉さんに連れられて靴を脱いで、白いソファーに座ります。ソファーの下は天然温泉が湧き出てるので、まるで気分は足湯です。
「ただいま会員になられますと、マッサージをサービスいたしますよ」
「!!会員になります」
「ありがとうございます。お名前をお願いします」
「あがのれさです」
レサは渡された紙にすらすらと鴉雅野零醒と書きます。
「かしこまりました。あがの様」
お姉さんがレサの後ろから肩を揉んでくれるから、レサはとても気持ちよくなりました。
うとうと。うとうと。
いつのまにか眠っていたレサは目が覚めてびっくりしました。夕方の4時になっていたのです。もう2時間もソファーで寝てしまいました。レサはお姉さんに「すみません」と頭を下げて、ソファーから立ち上がりました。
急いで帰らなくてはなりません。
けれど、レサの靴はどこにもないのです。
仕方がないからレサは裸足でエレベーターに乗ります。
エレベーターの中は階段で、レサは駆け足で階段をの登ります。
レサが地上に出ると、ネオンの灯が輝く繁華街でした。
がやがや騒がしい繁華街は、魚たちがお酒を飲んであっちへふらふら、こっちへふらふらしています。信号機も、飲みすぎたのかくにゃりと地面に頭をつけて寝ています。
レサがきょろきょろしてると、空のペットボトルとハサミを持った黒髪の少女が目の前にやってきました。
黒髪の少女は、右手に持ったハサミをレサに近づけ、レサの髪をジョキリと切ります。
ジョキリ。ジョキリ。
何故だかレサは動けませんでした。レサの長い金色の髪は肩下からばっさりと全て切られました。
黒髪だった少女はもう黒髪ではありません。
綺麗な金髪の長い髪になりました。
金髪の少女が綺麗な笑顔をレサに向けます。
少女は、いつのまにかレサが無くしたはずの赤い靴を履いて、レサが着ていたはずの赤いワンピースを着ています。
レサが何か言おうとすると、金髪の少女は繁華街の魚たちの群れの中にまぎれて見えなくなってしまいました。
レサは元来た道へ戻ります。
登った階段を降りて、エレベーターの扉を開きます。
エレベーターの扉の先は、化粧品の店ではなく、寿司屋さんでした。
寿司屋さんの店長が、話しかけきました。
「むあがのさん!鯛を捌いて!!」
「私、むあがのさんじゃないです!」
包丁と鯛を渡されます。
鯛はびちびちと勢いよく跳ねます。
「捌いたら4番テーブルにね!!」
「鯛なんて、捌いたことないです!」
「うん!!今忙しいからあとでね!!」
寿司屋さんの店長はスタコラと去って行きました。
「どうしよう…」
鯛なんて、捌いたことがありません。
渡された包丁をきゅっと握りしめます。
包丁は鏡のように綺麗です。
包丁に映っている黒髪の少女が困った顔をしていました。
End.