不殺少女はハッピーエンドたり得るか?
少女は今日でこの家とはお別れです。
家にあった高い家具は全部、新しい住人のものになり、家にあったたくさんのお金や宝石もありません。
新しい住人一家はもう少女の家の中にいます。
新しい住人の娘は少女の服を着ています。
少女はダンボール1個分の荷物だけを持って、小さな車に乗りました。運転手は少女を砂漠を越えたショッピングモールの駐車場で降ろして、帰ってしまいました。
少女はショッピングモールの中の美味しそうな香りのケーキ屋さんに入ります。ケーキ屋さんではケーキの作り方を先生が説明してます。
少女が席に着くと、先生がタルト生地を渡しました。
大きな抹茶タルトを作るようです。
タルト生地には3000円と書かれてます。
少女はお金が払えないので、何も言わずにそっとケーキ屋さんから出ました。
ダンボールを車の中に置いてしまったから、少女には何もないのです。わずかばかりのお金や宝物も、何も。
何一つ持っていない少女は服屋さんに入ります。
服屋さんでは知ってる女の子たちが可愛い服を着ています。服にはお金が書かれてます。
少女はお金が払えないから、服屋さんから出ました。
少女はフードコートを歩きます。
フードコートには可愛いピンク色のクレープや、可愛いラベンダー色のクレープの店があります。
少女はクレープに惹かれながらもフードコートを進みます。
ラーメンのコーナーになると、お爺さんが少女に声をかけてきました。
「花ちゃん、おいで。ラーメンを食べよう」
少女は花ちゃんじゃないけど、ラーメンを食べます。
お爺さんは周りのお婆さんやお爺さんたちに「孫の花ちゃんだ。いい子だろう」と自慢します。
少女は花ちゃんじゃないけど、ラーメンを食べます。
ラーメンを食べた少女は、お爺さんと服屋に行き、真っ白でぼろぼろのワンピースから、黒い綺麗な新しい服に着替えました。
少女は黒いスカートを翻して、お爺さんにお礼と、お別れを告げました。
少女はショッピングモールの中央入り口である自動ドアを開けて外に向けて一歩進みます。
「さあ!!!ここで新しい挑戦者!!!新しい挑戦者だー!!!!!」
少女はびっくりしました。
ショッピングモールの外に出たはずが、少女が今居るのは黒い正方形の部屋の中です。
天井の四方に設置されてるスピーカーから、耳障りな音が響き渡ります。
「小さなお嬢さんは果たして外の世界へ出られるのか!!!!それではスタート!!!!!」
軽快な音楽が突然始まり、床が光ります。
黒い正方形の部屋の床は、迷路のように複雑な模様が浮かび上がって、動き出します。
周りを見ると、少女だけじゃなくたくさんの人が居ました。
みんな必死な顔で跳ねたり逃げたりしてます。
床には雷のマークがたくさんあり、それを踏んだら電気ショックで死んでしまうのです。
少女はしばらく床を観察しました。
少女は死にたくありません。1歩前に踏み出して、迷路のゴールまで目指すなんて、とても無理です。
少女が迷路を観察してる間にも次々と人が焦げて死んでいきます。やがて、少女以外の全ての人が死んでしまいました。
少女は、一歩前へ踏み出すのを諦め、迷路の床をふまないように壁に沿って右へ歩き出しました。
迷路は得意ではないし運動神経も良い方ではありません。
だから、迷路をせずに迷路の外を歩いてゴールに向かおうと決めました。
少女はゴールにたどり着きました。
ゴールの扉が開き、その先は別の部屋がありました。
この部屋にもたくさんの人がいました。
ここはエレベーターの入り口が1つだけある部屋です。
リーンと音が鳴りエレベーターの扉が開きます。
5人ずつ順番に乗っていきます。
やがて少女の番がきて、少女と4人がエレベーターに乗りました。エレベーターは肉でできていて、ベトベトしていて、少女は少し気持ち悪くなりました。
肉でできた壁が裂けて、中から巨大な目玉が出てきました。
「ここは中ではない!ここは中ではない!」
目玉はぎょろぎょろと5人を見て言います。
言い終えた目玉は肉の壁の中に沈みました。
そして。
勢いよくエレベーターが上がります。
エレベーターのパネルにクイズが表示されました。
「ニ------を殺------は、----誰?」
少女は目を疑いました。
みんなが読めて「3!3!」と言っているのに、少女にはところどころ文字がぼやけて見えるからです。
でもみんなが3番と言うからには3番です。
ボタンに一番近い少女は3番のボタンを押そうとして。
3番のボタンが2番に変わってしまいました。
「不正解!!!不正解!!!!一人食べます!一人食べますー!!!!!!不正解!!不正解!!!」
肉の壁から目玉が出てきて楽しそうに言います。
ボタンはポンポンと位置を変え、誰もボタンを追えません。
少女は壁にくっつきました。
押しミスをしたのは少女だからです。
肉の壁から尖った歯がたくさん出てきて、少女を壁の中に引きずり込みます。
真っ暗な肉の中で少女は恐怖を感じます。
やがて、歯が少女の左の手に触れ、焼けるような痛みを与えます。少女は言葉にならない叫び声を上げました。
暗闇の中、痛い左手を触ろうとしたら、左手は無くなっています。肉塊の化け物が少女の左手を咀嚼して飲み込みます。
少女は意識を失いました。
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目が覚めたとき、少女は一人きりでした。
左手も綺麗なままです。
肉の壁も怖い目玉も無く、コンクリートで出来た正方形の部屋の中に一人きりでした。
少女は立ち上がりコンクリートを蹴ります。
コンクリートはぴくりとも動きません。
部屋をぐるっと見回しても、天井を見ても、床を見てもコンクリートの壁以外は何もないのです。少女はぺたんと座り込みます。
何時間かしてコンクリートの壁からぬちゃりと音がして、絞り出される生クリームのようにニワトリが1羽入ってきました。
少女はニワトリが入ってきた隙間を覗きます。
隙間には、ツノの生えた化け物のいるステージが見えます。
たくさんの人が化け物のツノに突き刺されてます。
少女は思わず目を背けました。
一度呼吸を整えてから見ると、別のステージが見えます。
空から落ちてくる岩を避けるステージです。
けれど岩は本物と幻覚の二種類があります。
みんなみんな区別がつかずに潰されます。
やがて一人だけ生き残った女性がゴールのドアに手をかけました。ドアの先は外の世界が広がってます。
女性はドアの先に踏み出して、すぐにぐしゃぐしゃの肉塊になりました。ドアの先の外の世界は幻覚だったのです。
コンクリートの隙間は、はじめから何もなかったように綺麗にふさがりました。
何もない正方形のコンクリートの部屋。
少女の他にはニワトリが居るだけです。
ニワトリはコケッコケッと鳴いて部屋を歩いてます。
「どうしたらいいの」
少女はニワトリに声をかけました。
「ニワトリなもので、難しい事はわからないです」
ニワトリは少女の方を向いて答えました。
ニワトリは頭が小さいので難しい事がわかりません。
コケッコケッと鳴いて部屋をまた歩きはじめます。
「ご飯がたべたい…」
少女がぽつりと呟きます。
「エサもお腹が空くんですね」
ニワトリが少女の方を向いて答えました。
「私、ニワトリさんのエサじゃないわ」
「エッッッッッッッっッッッ!?」
ニワトリがびっくりしたように羽を広げました。
「ニワトリさんって私を食べるの?」
少女はニワトリに問いかけます。
「ニワトリなもので、難しい事はわからないです」
ニワトリは言いました。
少女が「そっか」というと、ニワトリはまたコケッコケッと鳴いて部屋をぐるぐる歩きはじめました。
それからも少女とニワトリはたまに会話をしながら長い長い時間を過ごします。
そしてついに、コンクリートの壁は道路工事のため外から壊されました。
時計も何もない部屋だったので少女とニワトリは時間感覚が分からなくなってましたが、外の世界では5000年が過ぎてました。
少女はニワトリを抱えて、外の世界へ1歩踏み出します。
その時、突然軽快な音楽が鳴り響きました。
「さあ!!!最終ステージ!!!!最後まで残ったのはこの一人と一羽!!!勝ち上がるのはどちらだー!!!」
たくさんのスポットライトが少女とニワトリを照らします。
ニワトリは少女の腕から降りて、トロッコに乗ります。
少女もいつのまにが、別のトロッコに載っています。
たくさんの歓声と音楽をBGMにトロッコが動きはじめました。先に海に沈んだトロッコが負けです。
ニワトリは少女にたくさんの松明を投げてきます。
ニワトリは頭が小さいから少女のことをもう覚えてないので躊躇いがありません。
少女のトロッコはもうぼろぼろです。
少女は笑顔でニワトリに手を振りました。
ばいばい。ばいばい。
ニワトリも笑顔で少女に手を振りました。
ニワトリは頭が小さいから、自分が少女に松明を投げたことをもう覚えてないのです。
海に落ちていくトロッコに笑顔で手を振り続けました。
End.