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不了簡の国のアリス


アリスは3つの選択肢に悩んでいました。

魚屋さんになるか、漬物屋さんになるか、お茶屋さんになるか、その3つの選択肢に悩んでいました。


アリスは昨日まで自分の家に居ましたが、今日は中国にいたのです。アリスは中国語の事は何もわかりませんが、ここが中国だなと思いました。

中国の商店街の中で目覚めたアリスは辺りを見回し、これから生きていくためにまず仕事を見つけなくてはならないと思いました。


アリスが商店街を散策した結果。

魚屋さんと漬物屋さんとお茶屋さんがアルバイトを募集していたのです。


アリスは悩み、そして気がつきました。

アリスはアルバイト経験がないけれど、魚屋さんで魚を買った事ならあります。

アリスは魚屋さんを選択しました。


「こんにちは、魚屋さんで働かせてください」


魚屋さんの男は困ったように笑いました。


「魚は地球から今度滅びたから、もう魚屋は無理だよ」


アリスは魚屋さんの商品棚を見ました。

生きてる魚は居なくて、魚の死体が飾られてます。


「そうなのですね、わかりました」


アリスは魚屋さんで働けませんでした。



次にアリスはお茶屋さんで働こうとしましたが、漬物屋さんの店長に試食を薦められたので、流されて漬物屋さんで働くことになりました。漬物屋さんは、ランチタイムに漬物が食べ放題です。アリスは大根も茄子も嫌いなので、きゅうりの漬物を毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日食べました。


きゅうりを毎日食べながら働き、漬物屋さんで貯金を貯めたアリスは、そろそろ家に帰らなきゃと思いました。

アリスは漬物屋さんで退社手続きを済ませ、お給料の入った封筒ときゅうりを持って、商店街から出ていきます。


商店街から出たアリスに、ペットボトルが声をかけます。


「やあ、アリス!どこに行くの?」


「家に帰るの」


「アリスの家はそっちなのかい?」


「わからないわ。でも、商店街は私の家じゃないもの」


「俺ならアリスの家を知ってるよ。ついておいでよ」


アリスはペットボトルの後をついて行きました。


ペットボトルはどんどんどんどん進みます。


青白く発酵する木がたくさん生えてる森を抜け、蝶たちが泳ぐ湖の上の橋を渡り、サングラスたちがヒソヒソ話す怪しげな夜の繁華街を通り過ぎ、仄暗い映画館へと辿り着きます。


ペットボトルは優しい声を出します。


「さあアリス、座ってごらん」


アリスは映画館の座席に座らされます。

アリスは不安になってきました。


「ねえ、ここは私の家ではないわ」


「アリス、いい子のアリス。かわいいアリス。逆らってはダメだよ。」


アリスは立ち上がることが悪い事のように思えて、助けを求めることが悪い事のように思えてしまいます。


「さあ、愛しいアリス。口を開けて。」


アリスは口を開けます。

すると、ペットボトルが口の中に中身のコーラーを飲ませようとしてきました。


「…っ」


炭酸がしゅわしゅわします。

アリスは炭酸が苦手です。

アリスは目尻に涙を浮かます。


ペットボトルは「いい子だね」とアリスをたくさん褒めながら、コーラーをどんどんどんどん飲ませます。


アリスが「やめて」と言おうとしても、ペットボトルは「かわいいアリスは逆らってはダメだよ」と言葉を被せます。

アリスは500mlのコーラーを飲み干すしかありませんでした。


コーラーを飲み終えたアリスは口の中のしゅわしゅわ感で泣きたくなりました。なのに、ペットボトルは「もう一本頑張ろうね」とコーラーを作り始めます。


アリスはもう、世界から消えてしまいたいです。

映画館は薄暗く、周りからはアリスがコーラーを飲んでるなんて気が付いてもらえません。


アリスはコーラーを2L飲まされ続けました。

映画が終わり、映画館に灯りが灯るタイミングで、ペットボトルは急いでアリスにはちみつレモネードを飲ませます。

アリスにコーラーを飲ませたことがばれないように、はちみつレモネードで証拠隠滅をしようとしてるのです。


明るくなった映画館で涙を手で拭うアリスに、ハンカチが差し出されます。

アリスにハンカチを差し出したのは、桃色の髪のとても綺麗な女性でした。女性はアリスが絵画で見たことのある女王陛下に瓜二つです。


「(女王陛下だわ)」


アリスはびっくりして目を見開きます。

女王陛下は寂しげにアリスに微笑んから、口を開こうとして、でも何も言わずに押し黙ります。


アリスは今すぐ、女王陛下にペットボトルの罪を訴えたいと思いました。それと同時に、ペットボトルに逆らえずにコーラーを2Lも飲んでしまった自分を知られる事をとても恥だと思いました。たすけてください女王陛下。こいつは悪いペットボトルなんです。そう言いたくて堪らないのに、助けを求めたい気持ちより、自分がコーラーを飲まされた事を知られたくない気持ちが勝ります。


アリスは何も言えません。

明るくなった映画館で、アリスの隣にいたペットボトルは幼い黒髪の少女に声をかけていました。

アリスは、その少女がきっと自分と同じ目に合う事を理解していました。けれど、どうする事もできません。だってアリスが少女に「そのペットボトルはアナタにコーラーを飲ませるために近付いてるの!」なんて言えば、アリスがコーラーを飲まされた事が知られてしまうのですから。



やがて映画館からは誰もいなくなり、アリスも映画館から出ます。外はもう夜で、アリスは近くのホテルに泊まる事にしました。


白い薔薇のアーチを潜り抜け、白いレンガの大きな大きなホテルにアリスは辿り着きます。

アリスはフロントにいたトランプ兵に話しかけます。



「こんにちは、トランプの兵隊さん」


「いいえ、可愛いアリス。まず私は、トランプの中でもハートの7。そして、たしかに私はトランプですが、兵隊ではありません。すなわち、今の私はハートの7のホテルマン。おわかりですか?賢いアリス」


ハートの7のトランプは、一礼してからそう言いました。


「わかったわ。ハートの7のホテルマンさん。部屋は空いているかしら?」


「申し訳ございません、可愛いアリス。当ホテルはお客様しか泊まれないのです」


「ここに泊まりたいし、お金もあるわ。ねぇ、ハートの7のホテルマン。それでも私はお客さんではないの?」


アリスが問いかけます。


「ええ、アリスはアリスにしかなれません。お客様はアリスになれませんし、アリスもお客様にはなれないのです。」


ハートの7はアリスに言い聞かせるように答えます。

アリスは「よくわからないけど、私は泊まれないのね」と言い、ホテルから出て行きました。


外は真っ暗ですが、白い薔薇が月明かりを浴びて光っているため、歩けないほどではありません。

アリスは薔薇のトゲに気をつけながら道を進もうとして。


「アリス!アリス!アリス!アリス!」


自分を呼ぶ声に足を止めました。


アリスが振り返ると、ホテルから白ウサギが追いかけてきます。アリスは白ウサギに目線を合わせるように屈みます。


「どうしたの?」


「どうしたのじゃないよ!アリス!大変なんだ!キッチンにきてくれ!」


白ウサギは「大変だ!急げ急げ!」とわたわたしながら、アリスをホテルの中のキッチンに連れて行きます。



キッチンではドードー鳥の死体がありました。


「殺人事件…いえ、殺ドードー鳥事件だわ!」


キッチンの床はべっとりと赤黒い血で汚れており、ドードー鳥は首と身体と足がバラバラです。


白ウサギは、ドードー鳥の死体の周りを、「大変だ!」「大変だ!」と走りまわります。


アリスが「走り回ると血が飛び散るわ。騒がないで」と白ウサギに言うと、白ウサギは「騒がないでだって!?そんな…ボクを大人しくさせて…アリスはボクを殺す気なのかい!?!?助けてくれ!助けてくれ!アリスがボクを殺すんだ!ドードー鳥みたいに、ボクをバラバラにして夕飯のスープにしちゃうんだ!」と余計に騒ぎます。


アリスは溜め息を吐きます。


「私はドードー鳥を殺してないわ」


白ウサギは疑いの眼差しでアリスを警戒します。


「ボクは騙されないぞ!罪深いアリス!君が彼を殺してないと言うなら裁判で正々堂々証明してくれ!!」


白ウサギは、アリスを引っ張り、ホテルの最上階の裁判所へ連れて行きました。


アリスの裁判が始まります。


赤い卵が裁判長の席に座ります。

今日は女王陛下がお忍びで映画を観に行ったから、裁判長は赤い卵の仕事です。


赤い卵は高い高い座席に座り、アリスを見下ろしました。


「ドードー鳥の殺人犯は有罪だ!アリスを処刑する!」


「まってよ!私何もしてないわ!」


アリスは必死に反抗します。

してもいない罪で処刑なんて、絶対に嫌です。


「裁判長!アリスはどうやって処刑しますか!?沈めますか!?焼きますか!?」


「裁判長!アリスもバラバラにしましょうよ!ええ、それがいいわ!やられたらやりかえすの!」


「裁判長!ねえアリスって美味しいの?アリスをみんなで食べましょうよ!」


おしゃべりな花たちが傍聴席から裁判長に我先にと質問や提案を投げかけます!


「静かに」


裁判長の赤い卵がそう言うと、花たちは黙りました。


「アリス、君は何もしてないのかい?」


「ええ!そうよ!」


「なら、白ウサギが嘘をついているのかい?白ウサギが嘘をついてるなら、白ウサギを処刑する。君は白ウサギが嘘をついてると言うのかい?君がそう言う事によって、白ウサギは処刑されるんだよ、アリス。君は白ウサギの処刑を、白ウサギを殺すことを自らの意思で選ぶのかい?」


アリスは訳が分からなくなりました。

アリスはドードー鳥を殺していませんが、白ウサギを処刑したいとも思ってません。


アリスが黙ると、白ウサギは「罪深いアリス、やっぱり君はボクを殺す気なんだ!バラバラにして、スープにして食べる気なんだ!」と騒ぎます。


「ねえお願い私の話を聞いて!私はドードー鳥を殺してないの!」


赤い卵は淡々と言います。


「罪人アリス、君がドードー鳥を殺してないなら、白ウサギが処刑されるんだ。つまり君は白ウサギを処刑しようとしてるんだ。君がドードー鳥を殺してなくても殺してもこれは殺人なんだよアリス。殺人犯は有罪だ、アリスを処刑する!」


アリスは処刑されました。



End.

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