女の闘い
「このメモの束には、歴代の姫たちが受けた嫌がらせの数々が書かれています。そして、その対策法も。歴代の姫の中には、復讐案を記している者もいるわね……いうなれば、このメモは、後宮における姫の兵法書のようなものね」
「姫たちの兵法書……かっこいい……」
ひょろひょろと伸びる手。
あ、もちろんスカーレット様の持っている本というかメモの束に。
「これは残念ながら赤の姫以外の目に触れさせるわけにはいきませんわ」
ささっと、胸元にメモの束を戻すスカーレット様。
う、う、うわぁーーん。
「敵に戦略をダダ漏れにする将軍がいると思いますか?」
いない。
「わ、分かりました。寝返ります。あの、私、朱国の養女にしてもらえませんか?」
スカーレット様にすり寄ろうとしたら、襟首つかまれた。
「鈴華様、せっかく作られた図書室は放棄なさるのですね?」
ふわっ!そうだった!
「そうだったわ!私には、毎月本が入れ替わる素敵図書室があったんだわ!ごめんなさい、あの、養女の件はなかったことに」
スカーレット様の顔が引きつっている。
「これ、全力で、本気ですのよね?」
スカーレット様の声にかぶさるように、
「ぶはっ。面白すぎっ」
と、声が聞こえてきた。
声のボリュームは、小さめだけれど、しっかり耳に届いた。
レンジュだ。レンジュがどっかで見て笑っている。
「え?今の声は?男?」
赤の宮の侍女が焦ったようにきょろきょろとあたりを見回し始める。
いや、男のような声してるけど、宦官だから男ではないんですよ。
声だけじゃなくて、見た目も男みたいだけど、レンジュは宦官だから、男ではないんですよ。
とはいえ、別の宮の敷地で覗き見して笑っているのは失礼には違いない。
「ああ、庭に出ていると、ときどき声が流れて聞こえてきますわね。風向きの関係かしら……。仙皇帝宮に努めている方の声かのか、後宮回りの外にいる人の声なのか……私も初めて聞いた時は、男の人がいるのかと思ってびっくりしましたわ」
「そうですわね、もしかすると、庭の奥……仙皇帝宮に近い場所では、仙皇帝陛下のお姿は拝見できませんが、お声なら時折聞くことができるかもしれませんわね」
と、苗子が言葉をつづける。
おや、本当に声が聞こえるなんてことがあるんだ。もしくは、レンジュの声をごまかそうとした私に合わせてくれた?どちらだろう。
というか、誤魔化せたかな?
……じゃなくて、待って、誤魔化す必要あったのかな?よく考えたら赤の宮にも宦官いるから宦官の声って言うだけで済んだ?あれ?
いつもありがとうございます。
スカーレットさまのこじらせの原因は歴代に受け継がれたメモでした。




