泣く
「あーっと、じゃぁ、それは、えーっと……、どうやって入手したの?」
「持って帰れないんだから、赤の宮に置いてあるのよ。代々手渡しで次の姫に渡しているのよ。朱国では姫の交代は、赤の宮で行うのよ。100年くらい前、野心のある陛下が決めたのよ。ほんの数日でも赤の宮を空にすることがないようにと。その間に別の国の姫が寵愛を受けないようにと……ね」
うわー。そうなんだ。
国によっていろいろなんだね。
うちは、前任者が帰ってきてから、土産話を聞きつつ次の人が行く準備する感じだもんなぁ。
「そういうことで、持って帰れないし持ち込めないけれど、赤の宮で直接手渡しで引き継がれているのがこれね」
「すごい、えっと、それって、少なくとも100年くらい前から受け継がれているってことですよね?」
キラキラ、キラキラ、私の目は輝いていると思います。
「ちょ、苗子、鈴華怖いんだけど……」
え?失礼な。なんでキラキラ輝いている私を怖いだなんて……。
「ギラギラしすぎているのは、いつものことです。申し訳ありません。本のこととなると、人が変わるというか、人でないものに変わるというか……」
おい、苗子、何気に、人から妖怪に代わるみたいな言い方したわね?いや、代わるじゃなくて変わる……って、私が妖怪に変身するって意味じゃないですか。本の妖怪……あ、うん。変わるかもしれない。
「むしろ、本のこと以外にこれほどの情熱を注ぐこともありませんので、誰かに嫌がらせをする時間があれば本を読んでいたいというタイプであると、ご理解いただければと思います」
みゃ……苗子ぃ~(注*執筆中はなえこからの変換で、時々名前間違えちゃいます。苗子とかいてミャオジーと読みます。間違えてたらごめんなさい)
何気なく、私は嫌がらせの犯人じゃないよとスカーレット様に伝えてくれるなんてなんて素敵っ。だいしゅきだよっ!
思わず抱き着いてぎゅーってしたくなったけど、さすがに他国の姫の前なのでしませんよ。
「あら、じゃぁ、鈴華様に嫌がらせをするのであれば、虫を送り付けるよりも本を送り付けたほうがよさそうね」
え?
いや、ご褒美の話ですか?
「内容がつながらないように、ところどころ塗りつぶした状態」
え?
「最後の落ちが分からないように後ろの数ページを切り取った状態」
な、な、なななっ
「挿絵の人物画にはもれなく髭を書き込み」
にゃ、にゃ……
「そうねぇ、いっそ、箱を開くと発火する仕掛けを付けて、目の前で本が燃えてしまうというのはいかが?」
やめて、やめてー!想像しただけで、本が、本が目の前で燃えるなんてっ。
「あら、申し訳ないことをしたわね……」
慌てた様子でスカーレット様が赤いレースで縁取られた美しいハンカチを取り出し私の顔に当てた。
「ふふ、本当におかしな人ですわね。大丈夫ですわよ。今のはたとえ話で、実際にしたりはしませんわ」
私、泣いてた?
スカーレット様に涙を拭いてもらって初めて気が付いた。




