もちこみはん
「だから普通の人は虫を送られれば嫌がらせだし、獣の死体などもってのほか」
「いえ、だから、えーっと、鳥は、持ち込まれたときにすでに死んでいたのか生きていたのか、それによっても違いますよね?」
スカーレット様が首を傾げた。
「生きている状態で持ち込まれたなら、美しい鳥を見て心を慰めてもらいたいという贈り物の意味があったのかもしれません。この鳥について詳しくはありませんが、美しい声でさえずる鳥であればなおのこと」
スカーレット様がはぁっと小さくため息をついた。
「あなたは、ほんっとうに、お人よしですわね。なぜ、悪意を素直に悪意として受け取らず、善意にすり替えようとするのかしら?贈り物をするのに、赤の宮の主である私に内緒で、目につきにくい庭にこっそり放つ人がどこにいるの?」
うっ。
言われてみれば、確かに。サプライズプレゼント!とあとで教えてあげるつもりだったとか……。
プレゼントしようとしてうっかり籠から逃がしてしまったとか……。
スカーレット様が懐から小さな本を取り出した。
手の平に乗りそうなサイズの、ページ数もさほど多くなさそうな本だけれど、本は本だ。
いつも持ち歩いているなんて、スカーレット様は本好き?
「確か書いてあったわ。嫌がらせの一つとして生き物を庭に放つというものが。だけれど、その場合は蛇、ムカデなどの遭遇して不気味な生き物、蜂や蚊など害を及ぼす生き物が定番」
本をペラペラとめくるスカーレット様。
「あの、スカーレット様、その本は、あの、なんの本ですか?」
はぁ、はぁ、やばい。興奮してきた。読みたいです。
スカーレット様が大事に懐から出した本が、どんな内容の本なのか、読みたいですっ!貸してください!って、どのタイミングでいえばいいかな。
「ああ、これは本ではないわ」
おおうっ、あっさり否定される。本だよね?見ようによっては紙を束ねただけのメモ用紙にも見えなくはないけど、メモ用紙でも束ねてしまえば本だよっ。メモの塊だって、読めれば本だよっ。
「歴代の朱国の姫が……後宮へ向かう次の姫のために書き残したメモです」
なんと!歴代の後宮経験者のメモ!すごい価値のある本じゃないだろうか?
「何が書いてあるんですか?あの、呂国では仙皇帝妃を目指すこともないので、後宮へ行くのも単なる数年のリゾートとか留学気分でのんびりしておいでみたいな感じで、後宮での過ごし方などを伝えるような書物が残っていなくて……」
スカーレット様がふぅっと小さく息を吐き出した。
「朱国にもないわよ。たぶん他の国にも後宮や仙皇帝宮について詳しく書き記した書物は無いんじゃないかしら?しきたりなどは仙皇帝が代替わりすればがらりと変わることもありますし。後宮を去る時にはいただいた物は持って帰ることができることになっていますが、書き記したものは持って帰れませんし」
え?マジで?




