あきれ
「ジョア、あなたっ」
怒鳴りつけるわけではないけれど、あまりもの強いきつい声に驚いて身を縮める。
苗子が怒っている。どうしよう、怒らせちゃった。
今までの怒り方と違う。本気だ。なんで?えーっと……。
あ、虫を愛でるのって姫らしくないから?苗子が虫が嫌いだから?
それとも、他国の虫を持ち込んで万が一庭の生態系を狂わせるようなことが起きたら困るから?
そうだよね。確かに、虫ってちゃんと閉じ込めていたと思っていても、知らない間に逃げ出して、ベッドの足の裏に卵産んでるとかあるもんね。……めちゃ怒られた。カマキリは二度と部屋に入れるなと……。うん、さすがに、あれは、猛省しました。
「なぜ、知っているの?あなたまさか、虫を運んだことがあるの?」
苗子の言葉に場が凍り付く。
そうか。虫を使った嫌がらせが、本当にあったのだとしたら、虫を運んだ人間がいる。人の手を介せば大丈夫だと……大丈夫だろうと思った理由。
「はい。あの、肩に虫が乗っているのを気が付かないまま境界を行き来したことがあって」
ジョアが知っていた理由を述べたら、ふぅーっと張り詰めていた空気が緩んだ。
よかった。そうか。ジョアは嫌がらせに加担したわけじゃないのね。ほっとした。
他の人もホッとした顔を……あれ?苗子だけ、まだ怖い顔してるんですけど。
「鈴華様、庭以外で虫を見かけてもすぐに処分いたしますので」
うひっ。分かりましたよぉ。うえーん。
「くっ、くっくっく……。でも、これではっきりしたわね。朱国にはいないはずの鳥の死体……これは自然に普通によくあることではないと」
スカーレット様の言葉にごくりと唾を飲み込む。
嫌がらせではないんじゃないかと私は思っていたけれど……。
もしかして、本当に誰かがスカーレット様に嫌がらせを?
「ス、スカーレット様、あの嫌がらせって本当にあるの?わ、私、不吉色の呂国の姫ですから、めちゃめちゃ嫌がらせをされてしまうんではないでしょうか?」
ドキドキとしてスカーレット様に尋ねる。
「……苗子、私、わかってしまったわ。嫌がらせで、どんな虫が送られてくるのかなと、これは喜んでいるんですわね?」
スカーレット様が私の質問には答えず苗子に話しかけた。
やだ、なんでスカーレット様私の気持ちが分かるの?
友達っぽいです。
「とにかく、これで黄色と黒の鳥が人の手によって赤の宮へ持ち込まれたことは確実になりましたわ……勝手にやってきて偶然あそこで死んだ可能性はほぼゼロ……間違いなくいやがらせね」
スカーレット様の表情が心痛な物になる。
「そうかしら?嫌がらせではないかもしれませんよ?」
私の言葉に、スカーレット様があきれた顔をする。




