むしさん
葉っぱの上には、薄緑の虫が1匹乗っていた。
侍女は葉っぱを赤い土の上に置く。黒い土との極だ。木の棒を拾うと、後ろから虫を追い払う仕草をする。
……うん、来ないね。虫は、赤の宮の庭から黒の宮の庭には入ってこない。
「不思議ですわね」
スカーレット様が虫の様子を見てつぶやいた。
「本には、生き物にはそれぞれ適した環境というものがあるとは書いてあったんですよね。その環境を求めて移動する渡り鳥というのもいるそうなんです。それに、適さない環境に行けばたちまち生きていけなくなる動物もいると。例えば、一つの種類の木しか食べない動物もいて、その木が生えていない場所では食べるものが無くて生きてはいけないとか……」
スカーレット様がへぇーっと感心したように頷いた。
「こんな小さな虫にも、自分が生きていける場所にとどまらないとという意思があると言うことかしら?」
スカーレット様の言葉に、読んだ本の内容を思い出す。
「本来そこにはいなかった虫が来て、瞬くまに数を増やし、作物を食い荒らして飢えてしまうこともあるそうです……」
スカーレと様が青ざめた。
「なんて恐ろしい……。その虫がどんどんどんどん数が増えて行ってしまえば……国中が滅んでしまうではありませんかっ!」
……そう、害虫が大量発生するのは本当に怖いことだ。
「大丈夫なんですよ。もともといる虫には、その虫を餌とする動物がいて、爆発的に数が増えることはないけれど、新しく入ってきた虫にはその虫を餌とする生き物がいないた増えすぎるんです。でもそのうち、その虫を餌とする生き物が出てきて、何年かすれば増えすぎた虫の数も落ち着きバランスが取れるそうなんです」
スカーレット様がほっとした表情をする。
「そうなのね……」
「そうなんです。自然ってすごいですよね……。この虫1匹が黒の宮の庭に入ってきただけで、庭の木の何本も枯れてしまうかもしれません……。だから、バランスを崩すことがないように人以外が自由に行き来できないように何か不思議な力が働いているのかもしれません」
スカーレット様が首を傾げた。
「あら?それじゃぁ、生きた虫を使った嫌がらせはできないということではありませんか?その宮の庭の虫をかき集めて嫌がらせをするなんて、難易度が上がりますよね?」
スカーレット様が首を傾げた。
その言葉を聞いて、はっとなる。
「どんなに素敵な虫がいても、他の宮の庭で見つけたものは黒の宮に持ってきて愛でることができないってこと?」
ショックのあまり、膝から崩れ落ちそうになった私の気持ち、分かるよね?
スカーレット様が黙った。
苗子がこぶしを握り締めているのが見える。
赤の宮の侍女たちは苗子を見て小さく首を振っている。
「おかしいですね?ああ、ほら、やはり」
ジョアが赤の宮側の虫の乗った葉っぱを持ち上げて、黒の宮側に入れた。
「ほら、鈴華様、人の手を介せば移動させられますよ」
「本当だわ、ジョア!これなら……」
目をキラキラさせてジョアを褒めようとしたら、苗子が厳しい声を出した。




