境目
「む、無理ですよ!レンジュをここに呼ぶなんて、とんでもない!」
なぜ?
「どうして?」
「ど、どうしてもです!」
……そういえば、レンジュって、忍者系だっけ?
隠密っぽい。黒の宮のってことで、他の宮の人間に姿見せちゃ駄目とかいうルールがあるのかなぁ?
「いいですか、鈴華様、あの鈴は、本当に、何か、とっても大事なこと、どうしてもレンジュに助けてもらわないといけないようなことがあったときだけ使ってください。なんか気になるなぁ、知りたいなぁレベルのことで、レンジュを呼びつけると、大変なことになりますよっ!」
え……。大変なことって何だろう?
「大変なことって?」
気になったので聞いてみたけれど、苗子はそれ以上口をつぐんで教えてくれなかった。
「レンジュ?鈴?なんのことですの?」
スカーレット様が首をかしげる。
え?赤の宮にも、同じように鈴を鳴らして呼んでくれみたいな人いないのかな?
私も首をかしげる。呼び方は宮によって違うとか?ほら貝を拭くとか、犬笛を鳴らすとか……そりゃそうか。全部の宮が同じ鈴つかったら、どの宮の鈴がなっているのか分からなくなるかもしれないし。うん。
苗子の表情は青いまま。
あれ?もしかして、呼び出し方は宮ごとの秘密だったりした?
ああ……悪い人が私のふりをしてレンジュを呼び出すとかそういう可能性もあるから、各宮の隠密……いや、宦官の呼び出し方法は秘密だったのかも。今苗子にそれを確認すると、またいろいろ情報漏らしちゃいそうだから、ぐっと押し黙る。えーっと、それで、話題をそらそう。うん、そうそう。
「分からないことは、本を読めばいいんですよ!と、いつもの私なら言うところですが、あいにくこの仙皇帝の後宮に関する書物は少ないみたいなので……、自分たちで確かめられることは確かめましょう!」
「は?」
スカーレット様が唖然とした表情をしている。いや、目を細めてないので細かい表情は分からないんだけど、言葉に詰まって、口をぱかーと開けていることから、そういう表情じゃないかな?
「生き物が行き来できるのかくらい、自分たちで確かめられますよね。せっかくです。庭を通って金の宮へ向かいませんか?」
という私の提案に、半ば考えることを放棄したスカーレット様と、お付きの侍女2人、私とあきれ顔の苗子と、不安そうなジョアの合計6人で庭を進むことになった。
「このあたりが、赤の宮と黒の宮の庭の境目よね?」
建物の区切りの延長線を確かめる。
「あら?心なしか土の色が違うように見えますわ」
足元を見たスカーレット様が声をあげる。




