もしや
ひぃー。
本を、本を読む時間はあるわよね?
駄目、たぶん、ない。ないやつだ。
仕方がない、苗子に、教育の極意というものを教えてあげよう。
「教育で、大切なのは飴と鞭だと本に書いてありましたわ、苗子」
これが上手にできれば本を読んでもいいですよと、飴を、飴をぶら下げてくれれば、私の能力も、めきめきと向上すると思うんですよ……。
「ぷっ。くふふふ、本気なの?鈴華、本気で言ってるの?」
「え?」
「褒美など、上の者が下の者に与える者でしょう?黒の宮でのトップはあなたなのに、侍女に褒美を要求するだなんて」
スカーレット様が楽しそうに笑っている。
ん?あれ?そういえば、私が一番上の立場だよね?
だったら……。
苗子の顔を見る。
「私が自由にしていいの?」
本を読む時間を確保しつつ教育の時間を計画すれば……。
苗子は無言。無言で、殺しにかかっている……ひぃーっ!ご、ごめんなさいっ!
そうですよね。黒の宮のトップがむしろ、こんなマナー知らずで他の姫に大丈夫かって心配されるようじゃ、そっちのが問題ですよね。それを改善してくれようとしているのに、私がわがままを言うなんて……。
嫌わないで~。
「あ、あの、スカーレット様、褒美っていうのはえーっと、何も上の者から下の者へばかりというわけではないと思うんです。例えば、姫としても、何か頑張ったなら「頑張っていて立派です」と褒めてもらえるだけでもうれしいですよね。そういう……えーっと……飴って、形のある者じゃなくても、認めてもらうだけでもそれだけでも……十分っていうか……」
特に、私など本の妖怪と呼ばれ、皆に陰口をたたかれていたので、私が本で読んで知りえた情報で誰かに喜んでもらえて、私が本を読んだことが無駄じゃなかったって、役に立ったんだって、そう思うだけでとても嬉しくて。
「そうね。私たち朱国の人間が美味しい特別な食べ物だと思っているものを、美味しいと認めてもらえて私も嬉しかったわ……」
スカーレット様がチョコレートに視線を落とす。
「え?こんなに美味しいものを、美味しいって認めない人がいるんですか?なんですか、その人は!」
「ふふふ、お近づきのしるしにとっておきをと思ったこちらの気持ちは、嫌がらせだと思われる……なんて、私が過去に経験したはずなのに……。ごめんなさい。どうも、長く後宮にいたせいで、いろいろと私も人を疑いすぎるようになってしまったみたいだわ……」
へ?
え?
あれ?
もしかして、スカーレット様は、仲良くなろうとチョコレートを手土産にどこかの宮の姫に挨拶したら嫌がらせだと怒られた?
スカーレット様が立ち上がる。




