あれ
おいしいものをありがとう?涙を流すくらいおいしい?いや、違うよね。失敗を許してくれてありがとうってことだよね?
スカーレット様いい人だ。
ちょっと疑り深くてピリピリしてるところもあるけど……。それは一人で身を守るために気を張っているからだよね。
「はい。いただきましょう!」
まずは喉をうるおそうとお茶に手を伸ばして、はたと手が止まる。
「苗子、この場合、形式的に毒見してもらう方がいいんだっけ?別に私は全然毒なんて疑ってないけど」
苗子の言葉に、スカーレット様が声を立てて笑った。
「ふ、ふふふ、おかしな人ね」
とても自然な顔。楽しそうだ。
今なら!
「本当に何も知らないんです、だから、スカーレット様、友達になってください」
と、言ってから思い出す。
「あ、いや、待ってください。ただでさえ黒くて不吉で嫌がれれるのに、何も知らないから教えてとかさらに迷惑な存在なのでは……私、あれ?友達になってなんて言えるような立場?あ、でも、友達になりたいと思ったから、つい……えっと、ごめんなさい、あーっと、えっと、と、友達とか無理でも、あーの、えーっと、うひーっ、嫌わないで、時々お話ししてくださいっ!」
がっつり頭を下げる。
下げたまま、スカーレット様の返事を待つんだけど、何も声をかけてもらえなくて頭をそっと上げる。
スカーレット様の前の苺大福が半分なくなっていた。
「これは、素晴らしくおいしいお菓子ですわね」
スカーレット様が笑っている。
「あ、はい。苺大福というのです。本来は小豆で作った餡子で作るのですが、今回は白餡で作ってみました。作ってみて驚いたんですけど、白あんの方が渋みが少なくあっさりしているので、苺との相性がいいんですよっ!新しい発見です!果物と白あんの組み合わせは今後も研究課題としていろいろおいしいものを作れそうだと、料理人たちも張り切って……」
どうも、私、食べ物の話ばかりしているような気がして口をつぐむ。
「小豆で作った餡子とはどのような味かしら?食べてみたいわね」
スカーレット様の言葉に、首を激しく横に振る。
「いえ、あの、小豆は、えっと黒いので、あの、その……」
スカーレット様が楽しそうに笑った。
「ふふふ。黒い食べ物が不吉なんて言っても、本当にそんなこと信じてる人なんて朱国にはいないわよ」
「へ?」
スカーレット様の真っ赤な口の口角があがる。
「アレを持ってきて頂戴」
あれ?
スカーレット様に命じられた侍女の一人が、小さく頭を下げて部屋から出て行った。
アレってなに?




