疑い
「スカーレット様、あの、私、後宮での過ごし方がいまいちわからないので教えていただきたいのですが」
はい。ストレートには聞かない。ちゃんとそのあたりは本で読んだ。相手に失礼かもしれないと思うような質問をするときは、十分に相手を立てる。ほめたり、こちらが謙る。
スカーレット様が言葉の先を促すように私を見る。
これは、質問してもいいわよということかな?
「彼女に毒見係を指名したのは、毒を疑っているからですか?」
スカーレット様の表情が見たくて、少し目を細める。
「不満そうな顔ね」
いや、違う、目を細めたのは怒っているからじゃないよ。
「毒を疑っているわけではないわ。ただの形式よ。もし、食べたあと、私が腹痛を訴えたとしましょう。ただの冷えが原因の腹痛だったとしても、原因が分からない限りは毒も疑う必要がでてきます」
「なるほど、おいしさのあまり食べすぎてしまってお腹が痛くなった時に、食べすぎではなく毒だと言われてしまうと、二度とおいしい食べ物を食べさせてもらえないかもしれないということですね」
スカーレット様が、苗子の顔を見た。
「私、そんなこと言ったかしら?」
苗子がフルフルと首を振っている。
え?違うの?
「ただの形式よ。毒見をすることでむしろそのあと、疑いませんというための」
スカーレット様が小さくため息をつきながら答えた。形式。うん、そうか。
「逆に質問するわ、なぜ、あなたは私に質問したの?侍女に聞けば形式的なことだとすぐにわかったでしょう?」
スカーレット様に素直に思っていたことを答えた。
「もし、毒を疑っていて彼女に毒見をさせるということは、彼女が毒に苦しむことを望んでいるのかと。毒を疑っていなくて彼女に毒見をさせたならば、おいしいものを毒見と称して食べさせてあげる許しなのかと……」
私の言葉に、スカーレット様も周りの侍女たちもポカーンとしてしまった。
「ぷっ。変な人ね。よっぽどこのお菓子の味に自信があるの?毒見と称しておいしいものを食べさせるご褒美?ふっ、ふふふっ」
スカーレット様が毒見に任命された侍女を見る。
「さぁ、毒見して頂戴」
スカーレット様が真っ赤な唇が綺麗な三日月形になる。笑っている。
「あ、あの……毒は……舌にしびれるような感じもありませんし、不調も感じません」
侍女が苺大福を食べる。
「それから……」
侍女がポロリと涙を一筋流した。
「おいしいです、あの、スカーレット様、ありがとうございますっ」
侍女の言葉に、スカーレット様が頬を染めた。
「毒見ご苦労。残りは奥で食せばよい。さぁ、では、私もいただこうか」
早口で侍女を下がらせる。




