孤独
「欲望って、侍女として連れてってもらいたいってやつ?それもまた意味が分からないんだけど」
いや、あのね、仙皇帝宮の地下には巨大書庫があってね、そこに行きたいの。仙皇帝宮は女人禁制で、妃と、妃に使える侍女だけは入ることができるらしいから。
だからと、説明しようとしたところで声がかかった。
「準備が整いました!」
どうやら謁見の間の準備が整ったようだと思ったら、庭から直接謁見の間の奥の部屋へと通された。
テーブルには私とスカーレット様が向かいあわせで着席する。すぐに侍女がお茶の用意を始める。
あ、そうだ。
「ジョア」
ジョアに声をかけると、持ってきたお土産のお菓子の入ったかごが私に手渡された。
かごの中から、菓子箱を取り出す。
「お近づきのしるしに」
菓子箱の蓋を開ける。
「この間は、配慮が足りずに黒いお菓子を勧めてしまって……今度は、その……黒くないので……」
真っ赤なイチゴが視界に飛び込む。
つややかで鮮やかな大きなイチゴ。
「苺?」
すぐに赤の宮の侍女が皿を準備し、菓子箱から大きなイチゴが顔を出している大福を取り分ける。
「これは、苺大福と言います。大福……通常は餡子をもちで包んだお菓子なのですが、餡子も黒いので今回は白あんを用いました。赤がより引き立つように」
準備したのは白あんの苺大福。あ、ちなみに呂国の使用人と私が食べるように、普通の小豆で作った餡子の苺大福も作ってもらったよ。ふふふ。夕食後に食べるお楽しみ。
「ふぅーん。これで、私に取り入って仲良くなれるとでも?」
スカーレット様が面白そうに尋ねた。
「あーっと、いきなりその、仲良くなるのは難しいと思って、まずはお話しのきっかけにでもと……食べ物の話なら盛り上がるんじゃないかと思ったんですが……でも、本当にあやまります。私が間違っていました。侍女にしてもらうためにスカーレット様と仲良くなろうなんて」
スカーレット様がくっと笑う。
「確かにね。私のような女と友達になんてなれるわけないと思いなおしたのは賢明ね」
「え?絶対友達になりますよ!」
「いや、今、あなたが仲良くなろうというのは間違っていたって」
「違います、間違ってたのは侍女にしてもらうために仲良くなろうと思ったということです。それに、あなたじゃなくて、私の名前は鈴華です。リ、ン、ファです。スカーレット様」
自己紹介したような気はするけれど、名前を呼んでもらえないので、もう一度名乗った。
「私、侍女にしてもらえなくてもいいんです。友達になろうという人間に、損得というか、メリットというか、何か下心があるのって、間違ってるでしょう?だから、あの、侍女になりたいとかもうどうでもよくて、今はあの、その、心入れ替えて友達になりたいって、ただそれだけで」
スカーレット様の孤独を思う。




