虫
土の上には、何か黒っぽいものが落ちている。
「黒?呂国の色っぽいですけど……」
何だろうとそばによってしゃがんでみる。
「これ、鳥?」
「しらじらしいわね!生き物の死体を嫌がらせで放り込ませたのはあなたでしょ?ああ、鳥じゃなくてネズミの死体を放り込ませるつもりだったの?それで驚いているとか?」
鳥の亡骸を手に取る。
「す、鈴華様っ!お手が汚れますっ!」
慌てて苗子がハンカチを取り出して私のもとに駆け付ける。
「見たことのない鳥だわ……なんという鳥かしら」
苗子の渡してくれたハンカチの上に小鳥の亡骸を乗せてる。
「綺麗な色ね」
背中は黒いけれど、持ち上げてみれば胸元はきれいな橙がかった黄色をしていた。
「ねぇ、この鳥の名前を知らない?名前が分からないと本を探すこともできないから」
初めて見る鳥。どの国に住んでいて何を食べる鳥なのだろう。オスとメスで特徴が違うのだろうか。
卵はどんな色形をしているんだろう。白いかな。模様入りかな。そうだ。鳥には、ほかの鳥の巣に自分の卵を産んでほかの鳥に育てさせるっていうのもいると本で読んだことがある。
この鳥はどんな特徴があるのだろう。
鳥の特徴がよく見えるようにと、ハンカチに乗せた亡骸をスカーレット様に差し出す。
「なっ、何のつもりっ!私が死体を見て取り乱さなかったからって、何をするつもりなの!」
ん?
「何をって、鳥の名前を知っていたら教えてほしいだけですけど?あの、それと、この亡骸はいただいてもよろしいですか?あ、ちゃんとスケッチした後にはきちんと埋葬しますから」
「は?死体を欲しいと?自分で放り込んでおいて……あ、まさか、ほかの姫への嫌がらせに使いまわす気?」
嫌がらせ?
使いまわす?
「いえ、そもそも、嫌がらせってどういうことですか?」
待てよ。
なんか、思い出しかけた。
「あっ!思い出しました!女性同士が争う場合、蛇や虫を詰めた贈り物を送ったり、生き物の死体を送ったりすることがあるんですよね!ああ、そうでした。忘れてました」
スカーレット様があきれたような顔をする。
「しらじらしい。忘れたふりしてこの場を逃れようとするつもり?」
「いえ、ごめんなさい。その本を読んだときに、嫌がらせだということが全く理解できなくて。だって、自分で捕まえなくても蛇や虫が手に入るんですよ?普通にもらったらうれしいですよね?」
スカーレット様が大きな声を出した。
「うれしくないっ!」
そう?
苗子の顔を見る。
「うれしいと思う女性は少ないかと思います」
「でも、秋には鈴虫とか喜ぶよね?」




