悲鳴
おっと、それはそうと……苗子に心配かけてるから、ちゃんと否定しておかないと。
「緊張してないわよ?ワクワクしてるの」
「はい?さっきからのソワソワした感じは、緊張で落ち着かないのではなく?」
あ、そうか。顔は布で覆っているから表情が見えなくて誤解したのね。
こんなにニマニマと顔が緩んでるのに……。見れば緊張感がありません、表情を引き締めてくださいと言われるような顔をしているというのに……。
「キャァーっ!」
女性の悲鳴が上がる。
何が起きたの?レンジュが悲鳴を上げないのかと初対面の時に言っていたけど、レンジュが現れた?
「姫様、来てはなりませぬっ!」
「見せて頂戴」
「姫様っ!」
姫様って、スカーレット姫のこと?
何が起きてるの?見せてというには、レンジュが現れたわけではないよね。大きな体がどこかに隠れるわけもない。
騒動は、窓の外から聞こえる。
赤の宮の中庭で、事件は起きてる。
……庭って、ほかの宮の庭にも行っていいんだっけ?とくに柵があったわけじゃないし、建物内部は許可がないと入れないけど、庭は行き来自由……?
いいや。もし違っても、知らなかったごめんねってことにしよう。処罰されないなら大丈夫。うん。よし。
中庭へと続く扉を開いて出る。声のした方に顔を向ければ、ほんの数メートル先にスカーレット様の真っ赤な髪が見えた。
侍女が2人に、下働きらしき者が2人、何かを中心に取り囲んでいる。
一人は両手で顔を覆って震えている。
何があったんだろう。
「鈴華様っ!」
ずんずんとスカーレット様に向かって歩いていく私を、慌てて苗子が呼び止めようとした。
「黒の……何故ここにっ!」
スカーレット様が私の姿に目を止めて声を上げる。
「なぜ?お伺いすると、お伝えしてあると思いますが?」
堂々と答えたあとに、勝手に庭に出たことに関してなぜと言われた可能性を思い出した。
「はっ、そういうこと。私がおびえる顔でも見ようと思ったわけ?」
は?
おびえる?
「あいにくと、この程度の嫌がらせで今更おびえるような玉じゃないんでね。残念だったわね」
スカーレット様が両腕を組んで、顎を食いっと上げる。
「嫌がらせ?あの、もしかして、庭に勝手に出てしまったことを怒っているの?気に障ったならごめんなさい。あの、悲鳴が聞こえたので、何が起きたのかと……心配で」
表情は見えないけど、怒ってるよね。声に棘があるし。
嫌がらせに心当たりはないけれど、私の行動に不快感を覚えたことは謝る。
「しらじらしい。何が心配よっ!」
「心配したのは本当です。だって、安全であるはずの後宮で悲鳴を上げるなんて、ただ事ではないでしょう?」
なぜかスカーレット様はよりイライラし始めた。
心配されるのが気に入らない?
「これ、あなたでしょう?」
これ?
スカーレット様が侍女たちが囲んでいた地面を指さした。




