勝負
「では、身支度を整えましょうね?」
にこっと苗子が笑う。目の奥は、笑っていない。
身支度、そう、スカーレット様を訪問するんだけど……。
「手を洗って訪問着に着替えれば準備終わるよね?」
苗子が、ぱんぱんと手をたたくと、湯あみ係がわらわらと登場。
ひ?
へ?
「そんな時間ないよね?」
「今回は短縮バージョンです。体をお拭きして髪を整え化粧を施し、その間に手足のマッサージをさせていただくだけでございます」
短縮……バージョン……。
正直、めちゃ心休まらなかった。
4人がかりで、頭を結われ、化粧をされ、手や足をマッサージされ……。まだ、香油を使ったオイルマッサージは、眠たくなる気持ちよさもあったんだけど……。う、ほ、下を向かないとばかりに顔をぐいっと上げられ、腕を下さないとばかりに持ち上げられ、足あ、こんどはそっちですか、向きが違う?え。腕、はい。
「猫背になっていますわ」
苗子、無理、もう、無理……。
訪問着は、呂国らしい色のドレス。訪問する朱国の色がさし色で入っている。まぁあれですね。黒いドレスに、赤いバラの刺繍が施されたドレスですよ。ドレスって、ウエストぎゅーっと締められるから好きじゃないんだけど。スカーレット様はドレスで過ごすことが多いそうなので、それに合わせて……。
「ちょっと、派手じゃないかしら?私にこんな華やかな薔薇の刺繍が入ったドレスは……」
と、心配になる。
「何をおっしゃっているのですか、とてもお似合いです」
「はい。我ながらいい仕事をしました」
「そうね、皆さまよくやってくださいましたわ。これなら、赤の姫に何ら引けを取りません」
「ええ、鈴華様の方が美しいこと間違いありませんわ」
いやいや、まって、待って。
「勝負をしに行くわけではありませんし、それに、私なんかがスカーレット様に勝てるわけないよ?」
スカーレット様の美しい真っ赤な髪を思い出す。
そして自分の……ん?そうだ。今日もよく説いて髪はつやつやにしてもらったんだ。せっかく綺麗にしてくれたのに、勝てるわけないとか失礼なこと言ったよね。みんなは自分の仕事に誇りを持っているだけなのに。
「あーっと、勝負しに行くわけじゃないし、勝ち負けはそもそも誰がどうやってつけるのかという話だし、えっと、そう、友達になりたくて行くのだから、仲良くなれたら私の勝ちかな?ってことで、えっと、この赤いバラのドレス、スカーレット様が気に入ってくれるといいな。うん。ありがとう」
と、お礼を言うと、湯あみ係4人がフルフルと打ち震えだした。表情は見えない。目を細めてみようかと思ったけど、やめた。




