妖怪の寿命
「申し訳ありませんでしたっ!」
二人が声を合わせて頭を深く下げた。
え?
何?
「もしかして……あなたたち……」
つまみ食いで、こっそりいっぱい食べたとか?
うん、仕方ない。私にも経験あるけど、味見のつもりの一口が、気が付けば皿が空っぽとか……。……あるよね。あるある。
4回くらい繰り返したら、味見の時はスプーンに人さじすくって渡されるようになった。はい。思い出しました。スプーンに乗ったクリームを食べている間に、ボールはどっか遠くへ持っていかれてた。あれ、絶対味見しすぎないように予防線張られてたんだよね。
「もう、鈴華様はご存じだとは思いますが……私たち二人は黒の宮に配属されるのを拒みました」
へ?つまみ食いを謝ってるんじゃないの?
「それなのに……こうして大切な役割を……新しいレシピを惜しげもなく教えてくださいます……」
「おいしいと、私たちに感謝の言葉をくださいます……」
いやー、普通でしょ?レシピは作り方教えないと自分じゃ作れないし。
おいしいものをおいしいっていうのだって、普通でしょ?
「これからも、どうぞ……こちらにおいてくださいませ!」
あれ?もう首にするなんて全く思ってないけど……?
「鈴華様がいらっしゃる限り、10年でも20年でもお仕えさせてくださいっ!」
え?
あれ?
まって、まって……。
「苗子、なんか、二人が変なこと言ってる。10年、20年もいられないよね?そもそも、私、すでに26歳だし……」
苗子がにやりと笑う。
「鈴華様は、あちらを目指していらっしゃるのでしょう?」
苗子が仙皇帝宮を指さす。
「そうだった!私、書庫に10年でも20年でもどころか、死ぬまで住むっ!……ん?」
でも、料理人を連れて行くなんてできないんじゃない?
ああそうか。
「わかったわ!私が、妃に侍女として連れて行ってもらえることになったら、あなたたちも優秀な料理人だからおいしいものいっぱい作ってくれるから連れて行ってあげてって頼んであげる!おいしいお菓子を頻繁に差し入れればきっと洗脳できると思うの!」
ぽんっと手を打つと、小さな声で何かを同時に皆がつぶやく。
「「「そうじゃないっ」」」
息が合ってるけど、今なんて言いました?
首をかしげると、なぜか料理人2人と苗子が視線を合わせて頷きあったあと、手をぐーにしてぐっと合図を送っている。
何だ、なんなのだ。苗子に答えを求めようと苗子の顔を見る。
「私も、ずっと鈴華様にお仕えしますからね?」
!
「ありがとう、うれしい!苗子しゅき!」
「100年、いえ、300年は仕えたいと思います」
はい?
苗子がおかしなことをいいだした。
いくら本の妖怪って言っても、妖怪じゃないから、せいぜいあと50年くらいしか生きられないと思うの。




